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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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4.ギルド開設⑥

「守君、顔がアザだらけ!」

「もしかして、スタンピードー!?」


 俺が激闘している間に起きたのだろうふたりは、本堂に戻ってきた俺を見つけるなり走ってきた。勝浦さん、ちゃんと着替えましょうよ。たゆんたゆんすごいです。ごちそうさまです。先生は鉄壁、いや絶壁。不動明王さまですね。


「2階で新手の骨の大群と遭遇しました。オーガの骨です」

「大群!?」

「オーガ!?」

「そいつらにぼこぼこにされましたがそれ以上にギッタンギッタンにしてやりましたハッハッハ! ってイテテテ」


 落ち着いてアドレナリンブーストがなくなったら痛みがひどくなった。顔も熱い。ジンジンする。


「守君、薬はどこ?」

「ポーションは、あぁ、船橋ならあるのにー」


 小湊先生と勝浦さんがアワアワしてる。心配してもらっちゃってすみません。


「ポーションなら今しがたゲットしたんですけど、これって使えるもんですか?」


 収納から1本取り出す。瓶とも違う感触の、栄養ドリンクくらいの大きさの。透明な入れ物に入ってる青い液体だ。コルクでふたをされてる。


「こみなっちゃん」

「……間違いない、下級ポーション」

「よし、守くん、飲んでー!」

「必要とあらば口移しでも」

「い、いえ、自分で飲みます!」


 コルクを開け一気に飲み干す。口の中も切れてるらしくてしみるけど、じゅわわわっと温かいものが口からのどへ広がって、すぐに全身にいきわたる。


「あー、温泉みたい」


 温かみで痛みが上書きされていく。きもちえー。このまま寝たい。


「よかった、顔の腫れが引いていく」

「……やっぱり、昨日、滋賀の琵琶湖ダンジョンでスタンピードが起きてたー」


 木湊先生がほっとした顔になった。勝浦さんはスマホを見ている。スマホにはデフォルメされた小さなサメのぬいぐるみがつけられてる。サメ映画が好きなのかもしれない。


「スタンピードの魔物はオーガだってー」

「ウワーイ、スゴイグーゼーン」


 先日のマッドなクマさんといいダイアな狼さんといい、こうも偶然が続くとねー。

 もしかして、スタンピードが起きると、その骨版がここであふれるのでは? 

 地獄では?

 ここは獄楽寺ぞ?

 あ、獄ってついてら。じゃあ仕方ないねー。


「痛みも引いて落ち着いたので小湊先生の相談室を開催してほしいんですけど」

「こんちゃーす、電気工事に来ましたー!」

「あ、電気工事業者が来ちゃったー。わたしが行ってくるねー」


 勝浦さんが逃げた。俺の視線は小湊先生に釘付けだ。


「割と俺の命がかかってるんで、開催してもらえないですかね」

「わかった」


 ということで、小湊先生の出張講習である。

 テーブルに向かい合って座る。今日は先生も着席だ。小湊先生は仕事用のスーツに着替えてパリッとして空気をまとってる。美人教師のかぶりつきの講義なんて贅沢だぜ。大学じゃおっさん先生だったし。


「はい、今日の講義を始めます」

「先生質問です」

「はい守君、どうぞ」


 小湊先生は律義にのってくれた。見た目はきつそうだけど実は優しい。


「さっきオーガ骨をぶちのめしたら魔石のほかにポーションと棍棒をゲットしました。それとオーガスケルトンマッスルってやつがいたんですけど、こいつは何者ですか?」

「守君は質問が多いですね」


 小湊先生はコホンと偉そうな咳払いをする。いいね、ゾクゾクしちゃうぜ。


「まずオーガについて。オーガ種は亜種がたくさんいる。マッスルはそのうちの特殊個体で、世界でも遭遇例があまりない。昨日発生した琵琶湖ダンジョンスタンピードではその姿が確認されたそう」

「特殊個体とはなんです?」

「わかりやすい例だと、人で言うアルビノ。人だから色素が欠落している特殊個体。オーガマッスルの場合は、もともとオーガは力が強くランクも15。筋力マシマシ全部載せ鬼盛りな特殊個体で鬼強になったオーガでランクは30」

「……よく生きてたな俺」


 俺のランクが10だったから、普通のオーガでも格上だったし、マッスルに至ってはジャイアントキリングだ。たまに喰らってた渾身の一撃はこいつだったのかも。


「ギルドに勤めていれば傷だらけのハンターはよく見るけど、心が痛む」


 本心から悲しそうな顔をなる先生。そうだよなー、ギルド職員なら、そんな場面にも遭遇するよな。大変な仕事だ。


「次にポーションについて。手に入れたポーションは下級ポーションだけだった?」

「その下級ポーションのほかに、マッスルがマッスルポーションを落としました」

「マッスルポーションは、一時的に身体能力を3倍にするポーション。効果時間は30分。その代わりに効果が切れたら寝ちゃう」

「3倍っすか。レベル10のハンターが普通の人の1.5倍でその3倍だから……4.5倍!!」


 どうなっちゃうんだろ。握力が40キロのひと人たら180キロ!

 りんごどころか胡桃も砕けそうだ。


「戦闘系スキルを持ったハンターからの需要が多いポーション。オーガマッスル自体が少ないのでとても希少」


 小湊先生が俺をじっと見てから。いくつ持ってるのか知りたい顔してる。


「売るとおいくら万円なんですか?」

「ギルドでの買取価格は1本300万円」

「たっか!」

「スキルと組み合わせると効果は数倍にもなり得る。これでも安い」


 ここぞと言う時、例えばダンジョンボス戦の時とかに使われるらしい。5本あるから1500万になる!?

 金銭感覚がバグりそう。

 よくない。これはよくない。

 泡銭は身を滅ぼすって説法にもある。子供が亡くなってしまった時の保険金でおかしくなってしまった親の話は、檀家さんからよく聞く。お金は怖いんだよ。


「5本あります。これをギルドが持っていれば、誰かの役に立ちますか?」


 小湊先生の前に5本取り出す。下級ポーションとは色違いで、血の色をしていた。あまりにも生々しくて、収納しておきたくない気持ちに傾いた。よし売るぞ。


「……買取る。ただ、電気工事が終わって買取業務が可能になってから。急ぎなら船橋でできる」


 間があったのは確認したからだろうか。小湊先生の謎を聞く良い機会だ。


「先生は、鑑定スキルみたいのを持ってるんですか?」

「なお、下級ポーションの買取価格は1本15万円です」

「おお、これも良いお値段!って違う! 俺が知りたいのは小湊先生のスキルです!」

「私は10月生まれの22歳独身。高卒でギルドの職員になって4年目。スリーサイズを知ったら責任を取ってもらう」

「小湊先生のステータスではなくスキルを」

「国家機密。なおスリーサイズは上から79」

「わーわーわーきーこーえーなーいー」

「そんなに嫌? ショボーン」

「嫌ではないですが今はその時じゃありません!」


 くそう、はぐらかされた。


「電気工事終わったわー! あっれー抜け駆けはなしって言ったじゃなーい!」


 勝浦さんが帰ってきてしまった。


「もう終わったんですか?」


 速すぎでは?


「電源と通信線を繋げるだけだものー。あとはパソコンで設定よー! そうしたらここでも魔石の買取ができるわよー!」


 ニッコニコの勝浦さん。眼福です。

 それはさておきですよ。


「買取可能と聞いて!」

「パパッとやっちゃうから! 守くん、どれくらい持ってるのー?」

「そうっすねえ」


 そういや数えてねーわ。

 どれどれ。


 【収納:ゴブリン骨の魔石×454】

 【収納:ホブゴブリン骨の魔石×135】

 【収納:熊骨の魔石×258】

 【収納:狼骨の魔石×214】

 【収納:ワイトの魔石×6】

 【収納:騎士骨の魔石×15】

 【収納:魔法ファイヤーボール×34】

 【収納:魔法カース×50】

 【収納:魔法書ファイヤーボール×4】

 【収納:魔法書カース×4】

 【収納:なまくらの剣×17】

 【収納:オーガスケルトンの魔石×352】

 【収納:オーガスケルトンマッスルの魔石×5】

 【収納:ポーション×175】

 【収納:マッスルポーション×5】

 【収納:硬い棍棒×357】


 いや、すげーわ俺。魔石だけで合計1400個超えてやんの。働きすぎっしょ。そろそろ収入が欲しいよね。魔法書は売ったけど、あれはゲート設置他のお金で消えたから! 寺の収入にはなってないのよ!

 出すわけにもいかないので紙にリストを書いていく。


「うっわー……」

「一度にこの数は初めて」

「ソロでは考えられないわねー」

「パーティ組んでても無理」


 おかしいな、ふたりともドン引きだ。俺の苦労の結晶だぞ! 割と命がけだったぞ!

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