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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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4.ギルド開設④

「ん?」


 大多喜さんが墓地に目を向けると、そこにはゴブリン骨がいた。こっちに気が付いたようで歩いてくる。


「ゴブリン骨です。正式にはゴブリンスケルトンっていうみたいですけど」

「あぁ、なるほど。あれがゴブリンスケルトンかい」


 大多喜さんはそう言いつつスマホを向けて撮影している。まじめだなこの人。副ギルド長だけはある。


「武器は持ってない。攻撃方法は、殴るとかそんなところかね。スケルトンとすれば、倒すには頭部の破壊が確実か」


 声も録音してるのか、観察した所感をしゃべっている。

 ここで俺のスキルを見せるのはよくないな。録画されてるし。魔法なんてもってのほかだ。

 ならばどうするか。レベルが上がってるから、金剛杖で殴ればいけるかな。

 ゴブリン骨が5メートルまで接近した。そろそろ処分しよう。


「倒しますねー」


 金剛杖を右手に駆け寄って素早く突きを出す。狙いは頭蓋骨。大多喜さんが頭部の破壊が確実って言ってたし。

 突き出した金剛杖はガシャっと音を立てて眉間あたりを貫通した。

 それでも手足が動いてたからゴブリン骨を上に放り投げる。杖は持っていかれないようにしっかり持つ。空中でくるくる回るゴブリン骨の頭に狙いをつけて金剛杖を横一線。ガッシャンといい音で頭部を破壊できた。頭部を失ったゴブリン骨は地面に激突して動かなくなった。


「見事なもんだねぇ」

「こいつが一番弱い魔物なんで」


 ゴブリン骨に苦労してたら俺は生きてないしね。

 内部の確認もしたので本堂に戻る。父さんも戻ってきていたので、管理に必要なものなどの書類や資料をもらった。

 早ければ明後日くらいにはゲートを設置するそうだ。それまでは表計算ソフトで入退出の記録を作るんだとか。俺しか入らないんだけどさ。




 大多喜さんが来てから三日後。小湊先生からゲート設置工事の連絡が来た。俺のスマホの番号は教えてないんだけど。どうやって調べたんだろう。今度こそ聞かないと。

 ちょうど料理の最中だったからまな板に味噌を広げて文字を書いちゃったけど食べるんだしオーライ。


「設置工事が明日、次の日に電気工事だって」

「二日で終わるのか、早いな」


 朝餉で父さんに報告だ。目玉焼きときゅうりの浅漬けにアサリのみそ汁。今日のみそ汁は文字の味がする、かもしれない。


「電気が来たらもう通信を開始して入退出の管理をするんだって。なんかゲートに衛星通信機能がついてるんだって」

「ずいぶんとハイテクだな」

「それだけダンジョンの管理に本気だってことなんじゃないかな」


 ずずっとみそ汁をすする。ウマー。


「で、ギルド職員がくるって」

「来ると言われても、余裕はないぞ?」


 父さんが言うのももっともだ。本堂があって、そのわきに俺たちが暮らす母屋がある。幼稚園はあるけど生活の場じゃない。


「近所の空き家を借りるって言ってた」

「空き家はたくさんあるしな。さみしいが、ここ10年でかなり増えた」

「同級生もほとんど地元から出ちゃったしな」


 残ってるのは男だと農家のせがれと工務店の息子と俺くらいか。あ、魚屋のアイツがいたな。

 なんか悲しくなってきた。千葉は首都圏ではあるけど、人口が減ってる地域もあるんだよ。ここみたいにね。

 という感じで工事当日。

 朝の掃除ダンジョンのが終わった時間には作業の人らが来ていた。揃いの作業服を着てるから、どっかの会社なのかな。ゲートはこの人らが持ってきてるんだとか。ギルドの人は来ないのか。

 なーんて思ってたら。


「ごめーん、飲みすぎて寝坊しちゃったー」


 勝浦さんが来た。目があつぼったい感じで美人さんが台無しだけど、これが勝浦さんの地なのかもしれない。完璧美人さんは近寄りがたいオーラがあるけど、身近な近所のアイドルって感じで俺的好感度は爆上がりだ。

 設置は順調に終わった。具体的には、午前中で作業の人らは帰っていった。午後から電気工事をすれば一日で終わるんじゃ?


「彼らは午後からまた別のお仕事に行くのよー」

「引っ越しやさん並みにハードそうですね」


 あの人たちって、1日5件とかこなすみたいだし。同じ人間とは思えない。


「勝浦さんも今日は別なところへ移動してお仕事ですか?」

「わたしは明日も工事の立ち合いだから、今日はお泊りよー♡」

「もしかしてさぼりですか?」

「そんなこと言う悪い子はこうよー!」

「イッテェ!」


 ベシンとデコピンを喰らってしまった。何気に激痛なんですがこのデコピン。


「今日は一緒に飲みましょうね!」

「こっちが本命なんですね。昨晩飲み過ぎたんじゃないんですか?」

「定時後にこみなっちゃんも来るからねー」

「こみなっちゃんって、先生もですか。あ、思い出したんですけど、小湊先生はなんで俺のレベルを知ってるんでしょう」

「そ・れ・は、本人に聞いてね♡」


 はぐらかされた。

 そして夕食を作り終えたころ、小湊先生がやってきた。私服のスーツ姿で、手にはパンパンに膨らんだコンビニのビニール袋。中身の大半は酒と予想。

 でもお疲れ気味のお顔だ。


「大多喜副ギルド長に残業させられた。これも守君のせい」

「……それは大変でしたね。ちょうどご飯もできたので一緒にどうですか?」


 玄関口にはおいておけない顔をしているので母屋にあげた。うん、若き乙女があんな顔しちゃだめだ。


「父さんが風呂に入ってるので、出たら夕食にしましょう。ニンニクたっぷりのからあげです」

「……ちょっと元気が出た」


 テーブルでぐったりしている先生が顔を上げた。もう一押しか。


「つけ和えにはポテトサラダときゅうりです。白子の玉ねぎの味噌汁もあります」

「うん、元気復活」

「よかった。ちょうど父さんも風呂から出たので食事にしましょう」


 テーブルに料理を並べていく俺と、缶ビールを並べていく小湊先生と勝浦さん。しっかり俺と父さんの分まで置かれてる。ずるいなぁ。

 10年前までは3人で座っていたテーブルには4人が席についている。妙な感じだ。母さんが生きていて、もしかして弟か妹がいたら、こんな景色があったのかもしれない。

 たらればを行っても現実は変わらないけど、妄想するくらいは仏さまも見ぬふりをしてくれるよね。


「からあげがおいしー! ビールが止まらなーい!」

「今日のからあげは濃い目で旨いな」

「おいひいもぐもぐおいひいぐびぐび」

「野菜も食べてくださいね」


 からあげが好評で嬉しい。小湊先生は食べるかしゃべるか飲むかのどれかひとつにしてください。

 しかし、ふたりのビールを飲むペースが速すぎる件。一応俺も父さんも付き合いで乾杯はしたけどひと口で止まってる。


「仕事のうっぷんを晴らすのは酒しかない」


 小湊先生が缶ビールを一気飲みした。空の缶がカコンとテーブルに置かれる。


「またセクハラー?」

「あのスケベハンターが食事でもどうって。仲間内で誰が一番早く私を落とすかを競ってる。私はトロフィーじゃない!」

「強いから文句を言いにくいのがまた面倒よねー」

「それを理解したうえでニヤニヤしながら来るからなおむかつく!」


 小湊先生が激おこぷんぷん丸である。なるほど、美人の受付はこんなセクハラがあるのか。高校の時も可愛い子はヤンキーに絡まれてたなぁ。逆にそれを使ってカースト上位に行った子もいたけど。


「私だって王子様は欲しい。でもあんなのしか寄ってこない」

「ほんとー、まともなのはすぐに()()()()()()()しー」

「世の中は不公平」

「そうだそうだー!」


 おっと、女子会的愚痴が始まったぞ。俺も父さんもお地蔵様になってやり過ごしてる。


「大人って大変だな」


 結局、飲み過ぎたふたりはうちに泊まっていくことになった。どうせ隣だしめんどくさいしとスーツのまま寝そうだったので強制的に着替えさせた。見えちゃいけなさそうな布が垣間見えてたけどオレハソンナモノハシラナイ。

 飲みすぎはよくないね。

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