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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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33.日比谷ダンジョンでドロップ品勝負⑨

 俺の足元の光が収まると、目の前にはゲートがあり、なんだかたくさんの呻き声が聞こえる。まさかの地獄か?

 ここはどこだと視線を巡らせれば、こっちを見てる智を見つけた。無事に地上に戻れたらしい。


「ただいまー。踏破してきたよー」


 智たちに軽く手を振る。


「踏破?」

「は?」

「ここって、待合場か?」

「ダンジョンから追い出されたのか?」

「嘘だろ?」

「階段がねえぞ!」

「まじかよ!」


 騒がしいハンターは無視してゲートを通って智がいるところに歩いていく。ハンターたちがさーっと道を作ってくれるので気分はモーゼだね。異教徒だけどそれを受け入れちゃうくらい仏教は懐が深いんだぜ。


「守、ほんとに踏破しちゃったの?」

「してきたよ。いろいろゲットしたんだけどって、あぁ、ドロップ品競争だったっけ」


 踏破が目標になっちゃってて本来の目的を忘れてたよ。アイテム争いしてるんだったね。


「なんだなんだ、騒ぎが起こってて、なななななな、ダダダダダンジョンの階段がないぃぃ!!」


 ゲートの近くでサスペンダーの中年デブが叫んでる。日比谷のギルド長だったか。


「お前は獄楽寺の嘘つき! おい、きさまぁぁ!」


 俺に気が付いたデブがどすどす歩いてくる。床が抜けそうだぞ。


「ダンジョンを、何処にやったぁ!」


 唾を飛ばして叫ぶので金剛杖をこいつの腹にあてて近寄らないようにした。バッチイなぁもぅ。


「きさま、ギルド長にたいしてこの狼藉! 許さんぞ!」

「俺もギルド長なんだけど? それと唾飛ばさないでください、汚い」

「お、汚物扱いだとぉ!」

「部下にパワハラして職員を自殺に追い込んだクズだってのはご存じですけど」

「な、な、な!」

「そこにいるキモ金髪から多額に資金をもらってた金の亡者ですよね?」

「な、なにおお!」

「あ、ダンジョンが消えたらギルドも必要なくなるので、ギルド長ではなくなりますよね」

「な、なんだとぉぉ!!」


 デブがわかりやすく激高した。吐く息が臭いからこっち向いて叫ばないでほしい。


「所轄の税務所及び東京国税局には金の流れと振込明細なんかの資料を送ってますのでご安心です」


 ついでにギルドを束ねる総務省にも、これ以上各地にはびこる悪徳ギルド長を野放しにするならダンジョンを踏破しまくっちゃうぞって通告をしてあるんだ。


「そんな、そんな。いや、これは大嘘だ! こいつは大ペテン師だ! こんな奴の言うことなど信じる必要はない!」

「希望的妄想に走るのは結構ですけど、ダンジョンがなくなったのは事実ですので現実を直視されたほうがいいですよ」


 金剛杖をサスペンダーに当てて、収納する。すとんとズボンが落ちて赤いブリーフが丸見えになった。似合わねー。


「これも嘘だといいですねー」

「おおおぉぃ、何やってくれちゃってんだぁ?」


 いつの間にか。唐津親が近づいてきてた。体を斜めに傾けてチンピラしぐさだ。全然怖くないぞ?


「ダンジョンをどこにやった!?」


 おや、あの気持ち悪い喋り方から変わったぞ。

 化けの皮がはがれちゃったね。

 しかも配信されてるのに気がついてないな。


「ドロップ品集めは順調ですか? あ、ダンジョンがなくなっちゃったんで、勝負はここまでのアイテムでいいですよね?」

「あぁ?」


 わかりやすく青筋が見えるぞ。


「三日間やってもいいですけど、日比谷ダンジョンがなくなっちゃったらドロップ品も何もないでしょ?」

「ダンジョンを戻しやがれ!」

「いやー、踏破しちゃったからどうにもできないですよー。それに、踏破以上のドロップ品なんてないでしょ?」

「生意気言ってんじゃねえこのクソガキがぁ!」


 唐津親が殴り掛かってきたので、手首をつかんだ。


「ははっ! 引っかかったな! 俺のスキルを食らいやがれ!」


 唐津親が何かしそうなので収納収納と念じ続ける。


 【盗人スキルの書×1】


 ん、なんだこれ。


「くそ、なんで盗めねえ! クソ、これでどうだ!」


 唐津親が俺に手をつかまれたまま騒いでる。

 あー、【盗人】スキルで俺から何かを盗もうとしたのか。で、逆に俺にスキルを取られちゃったと。

 哀れだな。


「喧嘩売ったんだからやり返される覚悟はあったんですよね?」


 オーバーキルかもしれんけど。

 手をぐいと引っ張ってデブのほうに放り投げる。ボーリングのピンみたいにガコンって共倒れした。相手をするのも面倒なので【説法】で眠らせておく。


「親父! てめえ親父を! 許さねぇ!」


 そう叫んだ金髪リーゼント君の体が変化していく。顔は細く首は長く伸び、体が膨張して服が破けた。背中からは羽が生え、手足の爪が鋭く伸びる。皮膚は鱗にとってかわられ、その姿は人型のドラゴンだった。

 こいつのスキルって【ドラゴラム】だったね。


『お前みたいな悪党はこの世に生きてちゃいけねーんだよ! 死ね死ね死ね死ね!』


 鋭い爪で襲い掛かってきた。見かけはともかく心は魔物に落ちてしまったみたいだ。 


「ハンター同士の諍いは御法度じゃないのかなー」


 少しだけ下がって爪攻撃を避ける。ついでに足をかけて転ばせた。


「ぐはっ!」


 ドラゴンもどきが床を転がってく。転がり終えたら立ち上がった。


「馬鹿にしやがって許さねぇぇぇ!!」


 ドラゴンもどきは翼を羽ばたかせて空中に浮いた。天井近くまで上がって俺に顔を向けた。


「ぎゃはははは! 謝るなら今のうちだぞ! ブレスで焼き殺してやる!」


 あのもどきはブレスも吐けるのか。


「はいはい、御託はいいから早くブレスを吐きなさいな」

「て、てめえぇぇぇ! 本当に死ねぇぇ!」


 ドラゴンもどきの口から炎が迸る。


「【フリーズスパイラル】」


 ブルードラゴンのブレスで迎えてあげた。青の奔流が炎を駆逐してドラゴンもどきに襲いかかる。


「う,嘘だァァぎゃぁぁぁぁ!!」


 ドラゴンもどきはブレスに吹き飛ばされて待合場の壁に激突して墜落した。床に転がって動かない。まぁ生きてるでしょ。


「これにて掃除完了」


 カメラに向かってVサインした。

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