33.日比谷ダンジョンでドロップ品勝負③
その頃の1階では、洪水の水が引くのを待っていた。ばらまかれた海水は階段から2階へ落ちていったが表面張力もあって10センチ程度の厚みで残っている。防水の靴でなければ濡れて不快だ。動きも阻害されるし走ろうものなら水しぶきが飛ぶ。しかも海水なので目に入ればしみる。
「面倒なことになってるなぁ」
ダンジョン1階の様子はハンターテレビでも中継されており、ネット上でも「あの水はどこから?」と話題になっていた。だが誰も守のやったことだと認めたくないので不思議な現象扱いをしていた。
「あいつはどこへ消えたぁ」
「2階に行ったのは見てます」
1階で守を襲った唐津の仲間の証言だ。
「汚い真似をするなぁ」
唐津は自分のしでかしたことなど棚上げだ。鏡を見ろと言いたい。
「俺が行くぜ! 俺なら空を飛べる!」
唐津雄一がダンジョンの階段へ向かって走った。
「雄一って行っちまいやがったなぁ。期間は三日間もあるんだぁ。もう少し待てば水も引くだろぅ? そうしたら改めてはいりゃいいしぃ、なーに、昨日までにため込んだドロップ品もある」
唐津慎吾はにやりとした。
そう、彼らは今日のためにドロップ品をため込んでおいたのだ。守が如何な量を持って帰ろうともかなわぬ程、と信じて疑わなかった。
「初の11階!」
11階からは低木しかない急峻な地形。山岳地帯だった。ハンターの姿も見かけない。
空には鳥とは異なったシルエットの魔物が飛んでる。プテラノドンとかにも見えるけど、あれなんだろう。
「ありゃワイバーンだな」
「へー。名前は聞いたことがあるなぁ」
ゲームとかファンタジー小説とかにも出てくるし。前足と翼が一体化してるドラゴンの亜種って位置づけだったよね。指輪をめぐる映画にも出てきたけど、割と強くって中ボスくらいなイメージ。
「襲ってこなけりゃ無視だ」
「それフラグー」
ほら、こっちに飛んできたー!
大きな翼をばっさばっさしながらプテラノドン改めワイバーンが突っ込んでくる。
「対空戦ってどうしようかな」
ファイヤーボールで牽制?
俺が考えてる間に零士さんは闘刃をワイバーンに放って撃墜してた。
「飛び道具ずるい」
零士さんは落ちたワイバーンに駆け寄ってとどめを刺した。
「落としたくらいじゃ死なねーからな」
そう言いつつ魔石を拾い上げた。ドロップ品はないようだ。
「こいつのドロップ品は肉と皮だ。もしかしたらレアがあるかもしれねえから今度は収納してみてくれ」
「おっけー」
ということで、上空を旋回してるワイバーンを零士さんは撃ち落としていく。つるべ打ちだ。
いろいろなところに墜落していくワイバーンを追って駆け回るのは俺なわけで。
「忙しい!」
もう10体は収納してるぞ。でも上空にはワイバーンがまだ旋回してる。零士さんを警戒してかかなり遠巻きにはなったけど。
「そろそろいいだろ」
ということで経験値にしてしまう。
【ワイバーンの魔石×11】
【ワイバーンの肉×5】
【ワイバーンの皮×11】
【飛翔の魔法書×1】
『レベルが上がりました』
スキル【鎮魂の鐘】を覚えました。
【鎮魂の鐘】?
もしや成仏系のターンアンデッドスキルかな? 詳細は?
『音の響く範囲の任意の生けるものらを麻痺させる』
わぁ……【説法】よりも極悪だ。仏様の無慈悲な一撃だなこれ。
でも不殺は変わらずだ。
俺のスキルって、基本的に不殺なんだよね。
「何か出たか?」
「飛翔の魔法書って出てきた。あとついでにレベルも上がりました。とうとうレベル25で【鎮魂の鐘】ってスキルを覚えました」
「飛翔の魔法か。そのスキルも聞いたことはねえ。というか守のスキルはどれもこれも初物だろうな。効果はなんだ?」
「音の響く範囲の生けるものを麻痺させるっていう、やばいスキルですね」
「守、順調に人間を辞めてるな」
「俺はどこに出してもおかしくない普通で平凡な一般人ですよ」
「突っ込みどころしかねえぞ。まぁあのワイバーンで試してみるか」
零士さんが空を見上げた。ワイバーン5体が旋回をして俺たちの様子をうかがってる。
じゃあ試してみよう。
「【鎮魂の鐘】」
スキルを発動させるとゴーンと重厚で荘厳な鐘の音が轟き、ワイバーンが墜落していく。
「効果は抜群だ。抜群すぎて引いちゃうよ」
「……えげつねえ。クールタイムは……広範囲だから連発する必要もねえか」
頑張って走り回って墜落したワイバーンを収納していった。
結果。
【ワイバーンの魔石×16】
【ワイバーンの肉×8】
【ワイバーンの皮×16】
【飛翔の魔法書×1】
魔法書は10体倒さないと駄目なくらいレアな奴だった。京香さんに確認してもらおう。できればもう少し欲しいかな。
「よし、時間もねえし、先を急ぐぞ」
階段の位置は日比谷ダンジョンにデータがあったのでわかってる。それも20階までだけど。だから走るしかないのだ。
走りながら衝突しそうな魔物だけ倒すか収納しながら走る。俺は【師走】で、零士さんは人間を辞めてるレベルの身体能で走って4時間。20階のボスエリアに到達した。
周囲を山に囲まれた窪地。それを上から見下ろしてる。当然階段は底にあるわけで。行くしかないよねー。
ここに来るまでに遭遇した魔物は二足歩行のトカゲたるリザードマンが多く、こいつは鱗が固いわ鉄の槍も持ってるわ徒党を組んでるわで厄介な魔物だった。墓地ダンジョンのマミーとどっこいだよ。
10階のボスだったランドドラゴンも普通に出てきてた。もちろんワイバーンもいたし、かなり高レベルのハンターじゃないと生存も危ういんじゃ?
俺はスキルでズルで楽してここにいるんだけどさ。
「ここのボスはエキドナだったか」
窪地には上半身が美女で下半身が大蛇のエキドナがいた。




