32.売られたケンカは買います(ニッコリ)④
智ら3人は帰ってくるなりやいのやいのと唐津に対する文句を並べ始めた。
「いい機会ですので、この場面を配信しましょうか」
メイドさんがそんなことを言い出した。何か企んでるな? この辛辣メイドさんは。
瀬奈さんも「いーわねー」と乗り気だ。
「では準備を手伝ってください」
京香さんが音頭を取って配信の準備だ。といってもちゃぶ台にカメラを向けるだけなんだけどね。
零士くんは映せないのでカメラの後ろにいてもらう。
ちゃぶ台には俺、瀬奈さん、京香さん、智、美奈子ちゃん、葉子ちゃんが並ぶ。男は俺ひとりだ。
「カメラおっけー。配信開始」
京香さんがちゃぶ台の上のノートPCを操作した。画面にはちゃぶ台を囲む俺たちが映る。
妊婦さん、メイドさん、JKと作務衣の俺。違和感しかねえ。
「獄楽寺ギルドの緊急生配信です。アーカイブには残します」
京香さんが仕切り役だ。
「先ほど、日比谷の唐津氏から挑戦状という名の誹謗中傷を受けましたのでその対応を協議しています」
「あのキモイおっさんは何なの?」
「金髪が似合ってないし」
「ダサスギル」
いきなり話が脱線してる。
「なんかあたしらを嫁にとか言ってるバカもいたけど。あたしすでに人妻よ?」
「師匠より弱い男に興味はないわ」
「スケ兄以外の男に興味はネー」
けんもほろろとはこのことか。
「たかがレベル7で粋がるけつの穴の小さいおこちゃまに、あたしは興味なんてわかないよ?」
「レベル7なんて1年頑張ればなれるのに」
「そもそもレベル差はスキルで覆せッゾ」
「それね。あたしはハンター祭りの闘技大会で美奈子に負けたしねー」
「あれは師匠の教えのたまものよ」
「レベルよりもスキルをキタエロ」
3人は言いたい放題だ。
配信を見てる人もいるらしく、コメントもある。
――制服かわいい!
――ぺろぺろしたい!
――まったく相手にされてねーワラタ
――スキルを鍛えるのは大事だぞ
――JKに諭される俺ら
――制服でも隠し切れない巨乳
――やめろ、正論は俺に効く
一部おかしいコメント主はBANされた。
「本題に移ります」
「さっきの唐津氏の挑戦状とやらねー」
京香さんが仕切り直しをして瀬奈さんが誘導する。いいコンビだよなぁ。
「売られた喧嘩は買いますよ。やるなら盛大にやりたいので条件は付けさせてもらいますけどね」
俺の発言で京香さんがホワイトボードを出す。
『期間は三日間』
「ドロップ品で競うなら多いほうがいいでしょ。ということで三日間を提案しまーす」
指を3本立ててカメラに向ける。
「受けないとは言わせません」
「ホームダンジョンでも逃げちゃうのかしらー?」
「ホームでしかイキがれないザコなんでしょうか?」
「守くんは北浦にも池袋にも行って大量のドロップ品を持ち帰ってるんだけどねー」
笑顔の奥様ふたりが煽る。
「明日からでもいいですけど、キリのいい12月1日から3日までの三日間でどうですかね。開始時間は任せますけど、早朝は墓地ダンジョンの掃除があるので昼くらいがいいなぁ」
俺が提案する。どうせ悪巧みするだろうから準備期間を設定して向こうを有利にすれば釣られるでしょ。頭悪そうだし。
「ところで守君は日比谷ダンジョンは知っていますか?」
「実はさっき初めて知った」
「あそこはトカゲやドラゴンが出る竜ダンジョンと呼ばれています」
「へー、ドラゴンってことはドロップ品も期待できそう」
「現在の最下層記録は21階だそうです。入口の階段の広さから30階が最下層と言われています」
「おー、30階なら行けちゃいそうだね。勢いあまってダンジョンを踏破してなくしちゃったらごめんねー」
わざとテヘって笑う。智たちもアハハと笑ってる。
君ら、煽り方をご存じだね?
大変よろしい。
「まぁ守君ならやりかねませんが」
「守くーん、カメラで記録もしてねー」
「これをつけていきます」
ヘッドカメラを手にもってカメラに向ける。眼鏡型のカメラでフレームの端に小型カメラを取り付け可能なタイプだ。録画もできて、最長で48時間だ。
コメントも。
――できもしないことを言って恥ずかしくないのか?
――ビッグマウスすぎるw
――いいじゃんやれやれー!
――踏破したら鼻で焼きそば食うわw
――俺はへそでピーナッツ食うわw
とのせられている。計画通り。
「焼きそば君とピーナッツ君はIPを確認しましたので、守君が勝った暁には実行をお願いします。やらなかったら裁判起こしますので」
メイドさんがニッコリ笑顔で言う。
――辛辣メイドさんの笑顔きたw
――勝ちを疑ってないのすごすぎる
いい感じで沸騰しているな。
「じゃあこの辺で。えっと誰だっけ、カラスさんだっけ、お返事お待ちしてますねー」
「「「「ばいばーい」」」
みなの笑顔で〆た。
「舐めやがって!」
日比谷ギルドにあるクラン唐津組の事務所で、唐津雄一が叫んだ。律儀に獄楽寺の配信を見て憤慨しているのだ。
「おいおいおい、俺らに勝つもりかぁ?」
慎吾が鼻で笑う。こいつらはこいつらで勝ちを疑っていない。
「わざわざ日時も指定してきやがってぇ、こっちが有利になってやがるなぁ。なにかぁ裏があるのかぁ?」
慎吾は金髪をかき上げ、目をぐるりと回す。疑うくらいの知能はあるようだ。
「しかもダンジョン踏破まで! ウソつきも大概にしろってんだ!」
「なぁにを考えてるんだかぁ?」
念のためだと慎吾はスマホを手に取り、どこかに連絡を取る。
「あー、慎吾ですぅ、お世話様でぇす。あ、その件ですよぉ。好き勝手言いやがりますよねぇ。えぇえぇ、そうですぅ、許せませんよねぇ。え、事前にダンジョンでドロップ品を集めるんですかぁ? いいですねぇ、赤っ恥を書かせましょう。それとぉ、ダンジョンは危険ですからぁ、当日に彼をサポートするハンターもいたほうがいいですよねぇ」
慎吾と相手は謀を進めていく。
「ダンジョン踏破とか、寝言ですよねぇ。まったくですよぉ。ハンターTVは俺が抑えてるんでぇ、だぁいじょうぶですよぉ。今後ともよろしく頼みまぁす、ギルド長ぉ」
慎吾は通話を切った。満足そうな笑みを浮かべる。
「よぉし、祭りだぁ。雄一ぃ、組のやつらを呼んでくれぇ」
「はは、親父もやる気だな! いいぜ、その場であのうそつきの化けの皮をはがしてやろうぜ!」
「ギルド長もこっちの味方なんだぁ、負けるわけねぇぞぉ」
「くはは、あのバカはそれを知らずにあんな大口をたたいたのか! こりゃ楽しいぜ!」
「よぅし、そうと決まればダンジョンだぁ!」
唐津親子は意気揚々と事務所を出ていった。
ネットの反応はと言えば。
――おいおいやる気だぞ
――傷が深くなるだけじゃんw
――芝生える
――三日間もやるのか?
――よーし賭けよーゼ―
――さすがに唐津が勝つだろ
――賭けにならねーだろw
――僕は坂場君に賭けるよ
――お、あいつに賭けるあほ発見
――三日間でどれだけ稼げるんだろうな
――わくわくするぜ
――ハンターランクが変わるかもな
――あの子たちのことか?
――俺が引き取って嫁にするから大丈夫だ
――おまわりさんこいつです
――もし万が一、日比谷ダンジョンが消えたらどうなるんだ?
――国から苦情が行くんじゃね?
――無理だろw
――前例がないわけじゃないけど今のトップハンターでも無理じゃね?
――ユニークスキルを使えるってだけだしな
――レアスキルだけで最強だった零士ニキ
――【剣鬼】が関ケ原で亡くなったのは痛手だ
――それ以来踏破されたダンジョンはねーしな
――唯一生き残ったハンターがクランを継いでるんだっけか
――ちょっと前に本物の【羅刹】が見つかったって噂を聞いたぞ
――そうなのか?
――初耳だぞ?
――ダンジョンがなくなったら日比谷ギルドの職員はクビか?
――獄楽寺が引きとるって言ってるぞ
――勝つ気でいるのがスゲー
俺が負けることは確定らしい。楽しみにしているがよいぞー。




