32.売られたケンカは買います(ニッコリ)③
「このきもいおっさんとガキって」
「おっさんがクラン唐津組の組長でー、ガキがその息子で日比谷高校のハンターコースに通ってるのねー」
「東京にもハンターコースってあるんだ」
びっくり。
「日本にはハンターコースを開設している高校が6校あって、都立日比谷高校が一番古くて、市船の1年前に開設してるのよー」
「古いって言っても1年違いかー」
そんなん誤差じゃん。
「これがこの馬鹿親子のデータ」
京香さんが紙を差し出す。
唐津 雄一 18歳
ユニークスキル【竜化】を持っている。
身長が155センチと小さいのでコンプレックスがあり、これによって小型犬のように好戦的な性格をしている。威圧感を与えるように髪型を金髪リーゼントにしている。
威圧的な態度でクラスを支配しており、ハンターコースの癌。
彼に逆らえるものはいない。彼の父もまたユニークスキルを持っていて、地元たる日比谷ダンジョンを拠点として幅を利かせている。
唐津 慎吾 42歳
レベル19
ユニークスキル 【盗人】
魔物と相対したときにドロップ品を盗むことができる。人間相手も可能だがひとつだけ。
偶然ダンジョンに入ってユニークスキルを得た中年で金髪が似合わないおっさん。
ドロップ品を盗めるので小金持ちではある。
すでに結婚していたがユニークスキルを得たことで増長し浮気をくり返し離婚、現在は愛人が3人いる。
過去に零士にケンカを売ってコテンパンにのされたことがある。零士の死を喜んだ外道。
クラン唐津組のリーダー。
「うーん、閻魔様を通り越してさっさと六道で修行し直せって感じの人だね」
特に零士君の死を喜んだあたり、今世では救いようがない。
「で、これが配信された関係で、ネットで野次馬が騒いでます」
――ホームダンジョンで勝負とかダセェ
――獄楽寺はどう動くんだ?
――嘘つきだから出られねーんだろ
――やりあえー、もっとやりあえー
「ちなみに、クラン唐津組は日比谷ダンジョンでしか活動していません」
「それで日比谷でやろうやって言ってるの? チキンすぎるでしょ」
俺なんて先日広島にも行ったってのに。
――嘘だった場合はどこからそのドロップ品を得たのか
――じゃあ流通しているポーションはどこから来たわけ?
というようなまっとうな意見もあるけど無視されている様子。
「ワイドショーと一緒で騒ぐだけで根拠なんてありません」
京香さんは無表情で切り捨てた。俺もそう思う。
「智も美奈子も見たようで、帰ったら話がしたいとメールがありました」
「わたしにも美奈子から連絡来たけど、智がブちぎれてて日比谷に殴り込みに行く寸前だったみたいねー。寄居がなんとか止めたみたいだけどー」
「うーん、寄居ちゃんに感謝だ」
よし、上野さんに賄賂を送ろう。
「やられっぱなしでは胎教に悪いので、少々探ってみました」
京香さんがまた紙を出してくる。
またハッキングでもして情報を抜いてきたのか。怖いメイドさんだ。
「クラン唐津組ですが、アイテム収集クランを謳っております。実際には唐津慎吾のみがドロップ品を集めていて、残りはその護衛もしくはギルド職員恐喝要員です。恐喝による不正な鑑定で魔石ランクアップし、買取金額を釣り上げているようです。調べた結果、ハンターTVの運営会社に唐津組から金が流れているのが判明しました。またクラン唐津組と日比谷ギルドとの癒着も見つかり、日比谷ギルド長個人にかなりの金額が流れています」
「日比谷ダンジョンで唐津組は特別扱いされてるみたいねー」
ふたりの話を聞いてると胸糞悪くなってくる。
「それってヤクザと同じじゃない?」
「極めて悪質です。この恐喝によって首になった職員もいますし、濡れ衣を着せられ自殺した職員もいます」
「そんなクランが存在すること自体おかしいなぁ」
閻魔様の前に連れ出さないとだめでしょ。
「いっそ日比谷ダンジョンをつぶしますか?」
「見せしめにはいいかもよー?」
笑顔の奥様ズが悪魔の提案をしてくる。その案が魅力的に思えちゃうのは悪行が過ぎるからだろうなぁ。
「ハンターとしちゃ、舐められっぱなしってのはよくはねぇ。アホほど絡んでくるからな」
おはぎを食べ終わったのか、零士くんも口を出してきた。
「零士さんは昔絡まれたって」
「記憶にねーんだよなぁ。たぶん有望とは思ってなかったからだろ」
那覇さんみたいに有望な人は覚えてるけど雑魚は覚えてもいないんだね。それでいいと思う。
「それに、智たちにも悪影響ねー」
「嫌がらせとかされかねない」
3人の意見はもっともだと思う。
俺だけならいいけど、周りの人を巻き込むのは許せない
もしかしたら寺に押しかけてきて幼稚園に迷惑をかけるかもしれないし。幸せの対極にある行為だ。
それはだめだ。俺の理念に反する。
「日比谷ダンジョンを潰しましょう。もしかしたら資金が反社に流れているかもしれません」
「少なくとも、唐津の資金源はつぶせるわねー」
「日比谷ギルド長は脱税もしているようなので、国税局にも情報を流しましょう」
過激な奥様方だ。
「ダンジョンをつぶして困る人はどれくらいいるのかなぁ」
これなんだよな。感情のままに突っ走って不幸にする人を増やしたら本末転倒だ。
「日比谷ギルドがなくなっても近隣のギルドに就職すると思うわよー。どこも人が足りないからねー」
「ダンジョンがなくなってギルドが解散した時には、まじめなギルド職員を引き抜きましょう」
ハンターはどこにでも行ける。放置でもいいかな。
再就職できなかったまじめな職員はうちで働いてもらおうそうしよう。
とは思ったけど、ダンジョンをつぶすってのは収納すればいいのかな。いままでは小さなダンジョンだったからできたけど。墓地ダンジョンは収納できなかったんだよね。できればよかったのに。
「あそこはランク3のダンジョンだ。おそらく最下層は30階だろう。走れば1日で行けるな」
それって走りっぱなしで、デスヨネー。
「最下層にいるダンジョンボスを倒すってことですか?」
「それしかねえだろ。当然俺も行くぞ? こんな楽しいことは見逃せねえ」
零士くんがやる気だ。煎餅に手を伸ばした。まだ食べるのか。
「守くん一人でも行けるとは思うけどー、零士さんが行ってくれるなら安心だわー」
「零士さん、よろしくお願いします」
「まかせとけ。守は生きて返す」
計画の詰めに入るというタイミングで、葉子ちゃんからそろそろ東金駅に着くとの連絡が入る。
京香さんが3人を迎えに行った。その間にちょっと詰めておこう。




