31.備後ダンジョン譲渡③
さて、転がってるおっさんの処理だ。【説法】を解除すればすぐに目覚める。
「んがっ。なんで道路に寝てるんだ?」
「こんにちは、言葉が分かりますか?」
「なっ! テメェは!」
「おや、あんなところにダンジョンの入り口がありますねえ」
白々しく、こいつの家の玄関を見る。
なんということでしょう、何もなかったはずの玄関前の道路にダンジョンの入り口たる石造りの階段があるではないですか!
まぁ、俺が【いわきダンジョン】を出したんだけどね。流石に収納したばかりの【備後ダンジョン】を出すわけにはいかないからね。
「な、な、なんで俺の家の前にダンジョンがあるんだよ!」
「わあ、本当だ(棒)」
わざと棒読みすれば京香さんがちらと視線を向けてくる。
「しかも道路になんて。だれが管理するんでしょうか(棒)」
京香さんが合わせてきた。さすが奥さんだぜ。
「個人の土地なら土地の持ち主だけど、道路の場合はどうなるんだろう(棒)」
「国か自治体ですよきっと(棒)」
「お、お前らなんとかしろ!」
「国か自治体に言ってくださいよ(棒)」
「管理権限はそちらですし(棒)」
「勝手にやると逮捕されちゃうし(適当)」
「そもそも私達にその義務はありませんし(棒)」
「横島さん、困りましたね(棒)」
横島さんにキラーパスを送る。
「え、こ、困りましたね。でもうちじゃどうにもできないですから!」
「そうですよね。横島さんは関係ないですしね」
横島さんから切り離す宣言をする。
「いやー困った困った(棒)」
「私たちも関係ないですからね」
「「ではこれで失礼します」」
「ふ、ふざけんな、知らねえ、俺は知らねえ!」
おっさんはダンジョンの入り口を避けて家の中に逃げていった。さっとダンジョンの入り口を収納する。
「あ、あれ、消えた?」
横島旦那さんが目をぱちくりさせた。
「これであの人も少しの間は静かになるんじゃないでしょうか」
「そ、そうですね。その間に引越し先を見つけたいと思います」
横島さんは少しホッとした顔になった。前向きになれたようで、来た甲斐があったよ。
「ではこれで失礼します。皆様に幸せがありますように祈っております」
横島さんに別れを告げ福山駅に戻った。
「早速ですが宿に行きましょう!」
メイドさんの鼻息が荒い。雰囲気から察するにここからが本番らしい。
タクシーを拾って宿まで。駅から30分ほどのところだとか。海沿いの道なので夕日に染まった海がきれいだ。
「海のそばで景色がよくって温泉もついてて極楽だ」
高級旅館。まさにそれだった。
メイド服の京香さんがカウンターに向かう。カウンターの従業員も動揺することなく普通に手続きが完了して部屋に案内された。高級旅館スゲー。
「事前にメイド服で行くと連絡しておきました」
手抜かりナッシングだった。
妙齢の仲居さんに、何とかスイートとかよくわからない名前の部屋に案内された。12畳くらいの和室があって、奥には寝室がある。ダブルベッドだ。
「部屋付きの露天風呂がございます。もちろん温泉です。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
仲居さんはすすっと消えた。
「まずはお風呂、と言いたいのですがダンジョンについて確認しましょう」
京香さんが仕事モードに戻った。頭の中でダンジョンの情報を整理する。
1~3階 ホーンラビット、大蛇(体長5メートル毒あり) 1~30体
2~4階 ヤマネコ 1~30体
3~6階 ダイアウルフ 1~30体
4~7階 マッドベア 1~10体
5~8階 サンダーボア(牙からサンダーを使ってくる大型の猪) 1~30体
6~9階 サーベルタイガー(巨大な牙を持つトラ。全長は3メートル) 1~20体
7~10階 白狼(真っ白な狼で牛ほどの大きさ。吹雪のブレス) 1~10体
メモを取って京香さんに渡した。京香さんはノートPCに高速タッピングだ。
「全10階層のダンジョンで、魔物は獣系だね。森みたいだ」
「ここに出して中を確認しますか?」
「そうだね。ついでに魔物も出してドロップ品も確認したいかな」
ということで畳の上にダンジョンの入り口を出す。畳から突然石造りの階段になるので脳みそがバグりそうだ。
「ちょっと行ってくるね」
「私も行きます。ご主人様とは一心同体」
メイドさんが左腕にしがみついてる。これは、一歩も引かないぞとの主張だ。
こうなった京香さんは頑固一徹の職人になっちゃう。
「じゃあ一緒に行こう」
俺が守ればいいのだ。靴を持ってきてダンジョンに入る。魔物はすべて撤収させてあるのでご安心だ。
ダンジョンは、鬱蒼とまではいかないものの森の中だ。杉に似た木が生えてる。日が当たらないからか下草はなく、落ち葉と土があるだけだ。この木とか草が生きてるとは思えないけど。
踏み固められた獣道があるんだけど、ダンジョンが用意したものなんだろうか。道通りに進んだら何があるのか。不気味ですらある。
「とりあえず魔物を1体ずつ出していこう。で即収納しちゃう」
1階はウサギと蛇だ。1階に出てくる一番弱い魔物はドロップ品はないんだよね。
京香さんがカメラを構えて、俺が出現させて収納する様子を撮影する。出てくる魔物を記録する意味もある。強さの評価は零士くんにお願いしよう。
2階から出てくるヤマネコは虎模様でかわいかったけど魔物だ。ペットじゃない。
ダイアウルフとマッドベアは骨版が出てくるのでわかる。こいつらもドロップ品はないんだよね。
5階のサンダーボアは静電気バチバチのイノシシだった。大きさは普通のイノシシと同じなんだけど殺意が強くて出現させた途端襲ってきた。
「えぇー、ドロップ品がないのー?」
「オーガのポーションと一緒で複数体につき1個なのかもしれません」
「じゃあ合計10体収納してみよう」
ということで、結果として10体収納して3つのドロップ品をゲットした。
【サンダーの魔法書×3】
「おお、魔法書だ!」
「サンダーの魔法を使えるようになりますね」
「勇者が使ってたやつか」
「あれよりは弱いとは思いますが、目標を貫通しますし、水があれば感電もします」
「勝浦とか北浦ダンジョンで無双できそう」
ということでこいつは限界まで絞りとることに。
サーベルタイガーは、牙が巨大化した大きな虎だ。ちょっと賢いみたいですぐには襲ってこない。【説法】で眠らせて収納だ。こいつも10体収納してドロップ品を確認する。
【サーベルタイガーの牙×10キロ】
「なんだろこれ」
「牙を混ぜた武器だと魔物に対して追加ダメージを与えるようです。防具にも使えると記録があります」
「加工が必要だけど、有用だね」
「ビッチ様に相談しましょう」
これも限界まで搾り取ることに。
「最後は白狼か。かっこいい名前だね」
出現させれば、牛くらいの真っ白な狼だった。赤い瞳で俺たちを睨み唸ってる。
でけえ。
かっこいい。
ふっさふさなのでモフモフしたい。
魔物だけどさ。
「ヤマネコといい白狼といい、戦う意欲を失わせる魔物が出てきますね」
でも収納しちゃう。魔物だし。これも10体収納する。
【吹雪の吐息のスキル書×2】
「これって、白狼がブレスを吐くってことかな?」
「おそらく。これもあまり見かけないレアなものですね」
即収納しといてよかった。様子見してたら大ケガだったぞ。
「これも有用ですが、使う場面は限られそうです」
「味方にも被害が行っちゃうよね、これ」
どうするかはみんなで考えよう。
ドロップ品がある魔物はダンジョンの限界まで搾り取る。部屋に戻ってダンジョンをしまって、戦果の確認だ。
リザルト。
【サンダーの魔法書×16】は300万円/1個
【サーベルタイガーの牙×45キロ】で50万/1キロ
【吹雪の吐息のスキル書×3】で500万円/1個




