30.秋のハンター祭り 午後の部 決勝戦
『さぁさぁさぁl!』
『とうとう決勝戦です!』
休憩時間が終わり、アナウンスがかかる。美奈子ちゃんと寄居ちゃんはすでに会場にいる。
二刀を腰に佩いて仁王立ちの美奈子ちゃんと腕を組んでガイナ立ちの寄居ちゃん。
セーラー服対黒道着。
ふたりとも気合ばっちりだ。
『闘技大会も過去6回ありましたが、今大会は一番ハイレベルな大会となっています!』
『1回戦で佐倉選手との激闘を制した四街道選手』
『拳で剣を打倒してきた寄居選手!』
『刀VS鉄拳!』
『わくわくしかありません!』
『いやー、今年の実況の座をつかみ取れて最高ですね』
『最高の思い出になりそうです!』
『さて存在が空気な坂場ギルド長にお聞きしましょう!』
『決勝戦は刀とこぶしという組み合わせですが、どう思われますか?』
会場からは軽い笑いが。
俺の扱いの軽さよ。まぁそれで盛り上がるなら道化師にでもなるさ。
「はい、存在が空気なギルド長です」
よしよし、会場から笑い声が聞こえるのでつかみはオッケーだ。
「えっと、これは師匠からの受け売りですが、ハンターの武器はその人のスキルで変わってくるんですよ。例えばですが、【怪力】スキルの男の子がいまして、全力で戦うと剣を壊してしまうのでうまく戦えないという悩みがありました。師匠は彼に剣よりも硬い鈍器系の武器がいいだろうとアドバイスしてました。たまたま持ってためっちゃ固いこん棒があったので渡したら全力で殴っても壊れないので納得した様子でした」
Aチームの館山君のことだけどね。
「あと、スキルはハンターになったときにひとつ得るんですけど、レベルが5ごとにも得るので、最低でもレベル5、できればレベル10のスキルを待って武器を決めたほうがいいだろうとも言ってましたね」
『なるほど、含蓄のある言葉です』
『さすが師匠というところでしょうか。さす師匠!』
『このことを踏まえて決勝のふたりの武器はどうでしょうか?』
「美奈……四街道選手に関しては、あの2本の刀は師匠が持たせたものなので、彼女のスキルを考えてのことなんだと思います。寄居選手に関しては、たぶんですけど上野さんが彼女のスキルを考えた上でアドバイスをしたんじゃないかと思います」
ビッチさんを真似たい寄居ちゃんの意思も入ってそうだけど。
『ほぅほぅ!』
『ということは、強くなるにはどこかに弟子入りするなどしたほうがいいと?』
「弟子入りというか、いままで卒業後はどうしているのか知らないですけど、先輩ハンターとかに教えてもらうとかすれば、ハンターとして長く活躍できるのかなとは思います。あ、うちでもやってるので興味ある人はどうぞ!」
『おおおっとー! さらっと宣伝までされてしまいました!』
『実績なんてあるんすか? 実績があればこの場でアピールも有効ですよー!』
実況のふたりが煽ってくる。
「実績としてはー、黄金騎士団の那覇さんが若いハンターを連れてきて、ちょっと前に俺が入手した【いわきダンジョン】で魔物相手に訓練してますねー。あと上野さんに連れられて寄居選手もきたよね?」
俺の話を聞いていたのか、寄居ちゃんが頷いた。実はこっそり来てたんだよね。
『黄金騎士団!?』
『イケメン那覇様ですか!?』
「黄金騎士団は那覇さんの奥様方が妊娠してて活動が減ってて時間が取れるからと若手にゴブリンと戦わせて評価と指導をしてますね。レベル10を超えてるハンターはオーガとかオークと戦ってます。食事ができる休憩所も用意してあるのでご安心です。詳しくは、あそこにいるメイド服のギルド職員にお尋ねください。資料を持ってるはずなので!」
京香さんが前に出て両手を振ってる。商売の話は京香さんにぶん投げだ。
情けないギルド長でサーセン。
『配信もされてますので、全国のハンター様方!』
『いかがでしょうか!』
『時間も押してますのでそろそろ決勝に移りたいと思います!』
始まる気配が強まり、会場が静まった。美奈子ちゃんが刀を抜き寄居ちゃんが半身になる。
『始めてください!』
合図がかかった瞬間、美奈子ちゃんが刀を反転させ峰を表にした。
「手を抜かれるなんて屈辱ですわね」
「抜いてない。この刃を向けるのは魔物だけ」
そう答えた美奈子ちゃんが身を低くして一気に間合いを詰めた。右手の【裁き】を掬うように振るう。
「甘いですわ!」
寄居ちゃんが左手のガントレットで刀を掴んだ。右腕を引き絞り殴る体勢にもっていった瞬間。
「【強打】」
美奈子ちゃんが【裁き】を振り抜くと寄居ちゃんの左手のガントレットが砕け散った。【いわきダンジョン】でやった寸勁の応用だ。
「はぁ?」
「あの体勢から振りぬくかぁ!?」
観客から困惑の声が上がる。当然配信でも同じだ。
体勢を崩した寄居ちゃんの腹に【白鶴】を一閃。寄居ちゃんの体は10メートルほど飛ばされて地面に激突。
後を追うように美奈子ちゃんが駆け、転がる寄居ちゃんに【裁き】を突き付けた。
「くっ……参ったわ」
苦痛に顔を歪ませた寄居ちゃんが負けを認めた。
「寄居、左手は大丈夫?」
「バッキバキに折れてますわ」
寄居ちゃんが左手を見せる。5本の指ぜんぶがあらぬ方向へ曲がっちゃってる。
美奈子ちゃんは納刀し、寄居ちゃんを抱き起す。
「ポーション!」
「ははい!」
美奈子ちゃんが叫べば救護班が駆け付けポーションを渡す。寄居ちゃんが無事な右手でポーションを飲めば、無残だった左手が元に戻り、痛みがなくなったからか表情も穏やかになった。
「まさか、あの状態から斬られるとは思いませんでした。完敗ですわ」
左手をプラプラさせた寄居ちゃんがため息をついた。
「今はレベルに差があっただけ。寄居がわたしと同じレベルだったらこうはいってないわよ」
「ご謙遜を」
「わたしは強くないし、まわりはそんな甘っちょろいこと言ってられないのばっかだから」
「……まぁ、そうですわね。私も精進して貴女をボコボコにできるくらいは強くなりますわ」
美奈子ちゃんと寄居ちゃんが握手した。いいねぇ。遺恨はあるかもしれないけど表には出さず。観客席にいるビッチさんも納得するでしょ。




