30.秋のハンター祭り 午後の部 準決勝
『さぁこれからは2回戦、いわゆる準決勝となります! 勝ち進んだのは千葉選手と四街道選手!』
『両選手、会場へお願いします!』
アナウンスされ、ゆっくり会場へ歩く千葉君と美奈子ちゃん。美奈子ちゃんはすでやりきった顔をしてて清々しさを感じる。もう消化試合なんだろうな。
千葉君も目的が達成されたからか、笑顔を隠せないでいる。
「武志! 大ケガしないうちに負けろよ!」
「わーってるよ八重」
品川ちゃんにそんなことを言われても悔しさのかけらもない。
というか、すで名前呼びなんだね君ら。実況のふたりがグヌヌって顔してるぞ。
『始めてください!』
「ハッ!」
開始直後、美奈子ちゃんがスキルで突貫、峰打ちで千葉君を15メートル以上吹き飛ばした。千葉君が立ち上がろうともがいたところに刀を突きつけ終わった。速すぎでしょ。
『人間をあんなに飛ばすとか、どんな筋肉なんでしょうか……』
「あれだけ飛ばせちゃうのはスキルを載せてるからだね」
『スキル、ですか』
「そ。スキルで戦うのではなくてスキルを載せた武器で戦えってのが、美奈子ちゃんの師匠の指示だからね」
『師匠!? 四街道選手には師匠が!?』
『坂場ギルド長ではなく?』
「俺は剣とか使えないし習ったこともない、ただの坊主見習いだもん」
『ただの坊主見習いがルーキーランキングのトップだそうですよ!』
『世界を敵に回したかもしれません!』
「わざと敵を作るような発言は慎んで!」
まったくもう。
『さぁ準決勝第2試合!』
『寄居選手と足立選手の試合です!』
寄居ちゃんと足立ちゃんが会場へ歩く。足立ちゃんはうち。寄居ちゃんはビッチさんで鍛えられてる。これはどっちが勝つかわからないな。
剣を構える足立ちゃんと両手のガントレットを打ち付ける寄居ちゃんが睨み合う。
「やっとまともな戦いができそうだよ」
「委員長よりはもってくださいね?」
バチバチとガンギマリバーサーカー同士が牽制しあってる。興奮と不安がごちゃ混ぜになってるのかも。
『始めてください!』
「うらぁ!」
「ハッ!」
合図と同時に飛び出す二人。足立ちゃんが振り下ろす剣に寄居ちゃんはガントレットで真っ向勝負を仕掛けた。
ガギンと重い金属音で剣とガントレットが止まる。
『おおおっと、拳で剣を受け止めたぁ!』
『これはすごい!』
「チッ!」
「パワーでは負けませんわよ?」
押しきれずに舌打ちする足立ちゃんに対して寄居ちゃんは余裕を見せる。たしか寄居ちゃんは【怪力】スキルだって聞いたぞ。智からだけど。
足立ちゃんは【切り裂き】【強打】で力比べだと負ける。【強打】は瞬間的な打撃力だし。
「これなら!」
「クッ、フェイントですの!?」
足立ちゃんがフェイントを使って斬りかかると寄居ちゃんはつり出されてギリギリのところをガントレットで弾いてしのいだ。実戦経験は足立ちゃんの方が上だ。
「こちらから行きますわよ!」
寄居ちゃんは右手で掴みに行って足立ちゃんが避けたところを左手のストレートで狙った。両手という武器をふたつ持つ強みを使ってる。足立ちゃんは剣の腹でガントレットを受け流した。
「やりますわね!」
「あっぶな!」
いったん下がって距離を取るふたり。戦い方が違ってるからお互いやりにくそうで、でもいい勝負だ。
「うらぁ!」
「甘いですわ!」
足立ちゃんが振るう剣を見切り、寄居ちゃんが横から殴る。足立ちゃんはバランスを崩され、寄居ちゃんが追い打ちをするも剣で牽制され不発に終わる。ビッチさんに鍛えられた寄居ちゃんが思った以上に強い。
「拳で互角の戦だぜ!」
「すげぇ」
「いけー!」
斬るVS殴るが繰り広げられてて会場の歓声もすごいことになってる。
『すごいすごいすごい!』
『お互いに一歩も譲りません!』
『すでに10分が経過しております!』
『今までの試合で一番の接戦です!』
「はぁ、はぁ、しぶといですわね!」
「お互い様だ!」
開始から10分以上たっても決着せず、ふたりとも肩で息をして疲労が激しい。1回の戦闘がこれだけ長い経験はないし、体力も気力も使い切っちゃうよね。
「どっちも頑張れ!」
思わず叫んじゃった。
『おっと、坂場ギルド長も興奮しております!』
『がっぷり四つのこの試合!』
『見ているわたしたちの心臓も大噴火です!』
『どかーん!』
実況もはっちゃけてる。
「くのぉぉお!」
もうお嬢さま言葉が出なくなってしまった寄居ちゃんが渾身の右ストレートを繰り出す。足立ちゃんが剣でいなそうとしたけど腕が上がらず、もろに食らってしまった。胸にヒットして後ろに飛んでいく。
2メートルくらい転がった足立ちゃんは寝ころんだまま動かない。胸は荒く動いてるから生きてるけど。
寄居ちゃんがふらつきながら近寄る。
「降参ですの?」
「もう動けなゴホッゴホッ」
「手加減してたら負けてしまうので全力で殴ってしまいましたわ。折れてないとは思いますが、念のためポーションを飲んでくださいまし」
「そうするさ」
寄居ちゃんが屈みこんで足立ちゃんをお姫様抱っこした。それくらいの余力はあるみたいだ。
「……どうせなら男にされたかったなー」
足立ちゃんがぼやいた。
『勝者寄居選手!』
『鉄拳が剣を上回りました!』
『決勝戦は、四街道選手対寄居選手となりました!』
『試合をしたばかりなので30分の休憩を取ります!』
『おトイレに行くなら今しかありません!』
『トイレは、校舎1階並びに体育館を開放しております!』
『お行儀よく並んでご使用ください!』
『守らない子は坂場ギルド長がせっかんするそうです!』
うおおおい!
折檻しないって。
「やべぇ、ケツバットされる」
「全裸放置って噂を聞いたぞ?」
会場からそんな声が聞こえてきた。
ぐぅ、事実だから反論できない!
配信でも。
――船橋ダンジョンで因縁つけてきたハンターを裸にして縛ったらしいぞ
――これか【写真】
――変態だー!
――オマワリさんこいつです!
あの時の写真が流出してたらしい。知らんがな。
そんな俺をよそに、待機場にいる智が寄居ちゃんに近づいてた。
「【癒歌】」
合掌してる智がスキルを使うと、待機場にいる出場者全員の体が緑色に光った。
「これで疲労も減ったでしょ? 【癒歌】はポーションでも回復できない疲れをとるスキルなのよ!」
智がどや顔だ。
「体が軽い!」
「智、わたしはいらなかったけど?」
「うっわ、寄居との試合の疲れが消えた!」
「……なんですの、そのずるいスキルは?」
眉根を寄せた寄居ちゃんが食いついた。その顔は汚れてるけど肌は艶々してて疲れなんて見えない。
「最初のスキルが【祈り】って残念スキルだったからその反動よ。たぶん」
「まったく。あなたたちはとんでもないですわね」
寄居ちゃんがあきれた風にため息をついた。
「寄居だって強くなってるじゃん。聞いてるよ? 上野さんとこでがっつり鍛えてるんでしょ?」
「……私などまだゴミですわ」
智が称賛するけど寄居ちゃんは苦笑いだ。
「そのゴミに負けたわたしが切なくなるからやめてよー」
足立ちゃんが座ったまま手をひらひさせてる。その言葉に寄居ちゃんが大きく目を開いた。
「そうですわね。失礼すぎますわね」
「寄居は結果を出してるんだから自己評価を低くしなくてもいーのに」
「智がそれ言う?」
智が美奈子ちゃんに突っ込まれた。




