30.秋のハンター祭り 午後の部 第二試合②
大多喜さんに続いて足利さんも飛び出した。ふたりはそのまま智と美奈子ちゃんの間に入った。
「ちょっと審議するよ! あんた来るんだよ!」
「あ、はい」
大多喜さんに呼ばれたので【師走】スキルを使って向かう。1秒かからないでついた。
「……スキルを使ってまで急がなくってもいいんだよ」
呆れられた。だって急がないとまずそうだったし。
『えー、審議のようです』
『我々もマイクを持って向かいます。少々お待ちください』
実況のふたりがとてとて小走りでくる。先生方も集まってきた。
「さすがに【闘刃】はどうかと思うよ」
「私も同感ですねぇ。ダンジョン内で対魔物ならいいと思いますが」
大多喜さんと足利さんの意見だ。ちなみにマイクを通して会場には聞こえてる。
「でも、【闘刃】含めてわたしの実力なので使用したいです!」
「ちょっと美奈!」
美奈子ちゃんはあくまで使用したいと主張する。全力で智とやりたいんだろうけど、観客がいるしなぁ。でも闘技大会なんだから全力を出したい気持ちはわかる。
どうしたものか。
中継しているネットでも大騒ぎだ。
――【闘刃】って!
――おいおいおいおい、うちのクランリーダーでも使えねーのに高校生が使うかぁ?
――インチキだって言いたいけど現地で見てるやつらがいるんだよな
――現地で見てるけど、何が何だかわからねーけど何かが飛んで行ってアイツが何かしたら消えたぜ
――現地観戦組だけど、あまりにも危険じゃないかって審議でもめてる
――じゃあガチなのか
――あの子らのレベルはいくつだよ
――24と16っていってたろ
――スキル構成が知りてー
――そんだけレベル差があったら試合にならねーはずだけど
「おにーさんが対処してくれれば……」
美奈子ちゃんが俺をジトっと見てくる。先生方はもう判断を放棄したらしく、黙ったままだ。
いいのか先生!
「よし、それでいこうかね。強くしちゃったのはあんたの責任さ。責任は取らなきゃ」
大多喜さんがポケットからクッキーの束を取り出してむしゃむしゃし始めた。ちくせう、ぶん投げたな!
美奈子ちゃんが満面の笑みで、智は「マジかよ!?」って顔してる。女の子がそんな顔しちゃいけません。
「おにーさん良いですよね!」
「むー、そんな顔されると期待に応えなきゃいけなくなっちゃう」
「よし、決まりさね」
『審議の結果、獄楽寺の坂場ギルド長が責任をもって処理するとのことになりました。試合続行です!』
俺が【闘刃】を処理することで妥結してしまった。しかたない、投げ網を手にして会場わきに立つよ。
『試合再開です!』
「ハッ!」
美奈子ちゃんが【闘刃】を撃っててそのまま突撃する。智は【羅刹】を上段に構えた。
「為せば成る! 為さねば成らぬ! うりゃぁぁぁ!」
智は【羅刹】で【闘刃】を迎え撃ち、見事に【闘刃】を砕いた。が美奈子ちゃんは目の前に来てる。
「甘い!」
「クッ!」
美奈子ちゃんが【裁き】で斬りかかる。智はかろうじて【羅刹】で受ける止める。美奈子ちゃんが【白鶴】も添えてつばぜり合いになるふたり。
「ちょっと智! 【闘刃】を斬るとかおかしくない!?」
「気合と根性よ!」
お互いが後ろに飛び、距離をとる。うぉぉぉおぉぉ!と会場は大騒ぎだ。
――嘘やろ!?
――あのメイド、【闘刃】をぶった斬ったぞ!?
――根性最強説爆誕!
――おかしいぞあのふたり!
――怪獣大決戦や!
配信も大騒ぎだ。
「ハッ!」
美奈子ちゃんがまた【闘刃】を飛ばすが智は大きく避けた。【闘刃】はまっすぐ観客席に飛んでいく。
「まじかー!」
【師走】スキルで駆け、飛んでくる【闘刃】に投げ網をかけて収納する。
「まにあった!」
試合でもどよめくけど俺が【闘刃】を収納しても沸く。そんな俺をよそにふたりは斬り合ってる。
「これなら!」
「あっぶな!」
智と美奈子ちゃんの服には細かい切り傷が増えていく。打ち合うふたりは肩で息をしてて、涼しい時期なのに汗だくだ。
白熱する試合だけど響くのは風鈴の音という場違いな音。たまに飛んでいく【闘刃】とそれを追いかける俺。ボールボーイな気分だ。
「四街道が肩で息してるの久しぶりに見た」
「顔が焦ってるもんな」
「佐倉って、あれでスキル使ってねーんだろ?」
「どっちもがんばれ!!」
観戦しているクラスメートの声だ。
手数と技術では勝ってるのにパワーで跳ね返される美奈子ちゃん。スポーツの世界でフィジカルの壁にはね返される日本人みたいだ。
悔しいのか唇をかんでる。
「これで!!」
美奈子ちゃんがスキルを載せた【裁き】で渾身の一撃を打ち込む。智は【羅刹】で受け止めたけど苦痛に顔をゆがめて【羅刹】を落とした。美奈子ちゃんも右手の【裁き】を落とすも左手の【白鶴】を智に突き付けた。
「はぁ、まいった」
智が両手を挙げて降参。挙げた手がプルプル震えてる。余程の衝撃だったんだろう。美奈子ちゃんの右手もだらんとしてて力が入らないみたいだ。
『しょしょしょ勝者、四街道!』
『激闘を制したのは、四街道選手!』
「「「「うおおおおお!!」」」」
美奈子ちゃんが黙って【白鶴】を天に突き上げる。白い刀身が陽の光で眩く輝いた。
やべえ、かっこいい。
『おっとー、脳を焼かれた生徒が出ているようです!』
会場では失神した普通科の生徒が出たようで救護班が駆けまわってる。配信はと言うと、やっぱり騒いでる。
――レベル差をひっくり返した!?
――スキルがあったとはいえ10近くレベルが違ったら身体能力は5割違うってことやぞ?
――あの巨乳も鍛えてるだろ。両手に刀持ってるのに構えもぶれずにいるくらいの体幹があるで
――少なくとも俺よりはツエーな
――どっちもおかしいやろが
――おっぱい揉みてー
――嫁に欲しいぞ
――セクハラ野郎はBANされろ!
「はぁはぁ、やっぱ智は強いなぁ」
「いたたた、あたしは強くないよー」
「それは『おにーさん比』でしょ? 智は戦闘スキルなしなのに、わたしはぎりぎりでしか勝てないんだから」
「そんなことはないってばー」
美奈子ちゃんは【白鶴】を納刀し、左手を差しだして智を引き上げる。
「負けちゃったし、あたしはこれでのんびり観戦だー」
「ふふ、さっくり優勝してくるから見てて」
「期待してるよ!」
美奈子ちゃんは【裁き】を拾って納刀。そして【羅刹】も拾ってさやに戻した。ふたりは手をプラプラさせてしびれを取って、ふたり並んで仲良く退場。
『本気で戦えるのも友情の証でしょうか! ふたりに盛大な拍手を!』
「すごかったー!」
「ふたりともかっこいいー!」
歓声を背にふたりは待機場に戻った。




