30.秋のハンター祭り 午後の部 第一試合
8人が会場の真ん中に集合する。「セーラー服!?」「メイド服!?」「ガントレット!?」「裏番長?」とざわざわする観客席。そりゃそうよ。俺も知らなかった。スマホで配信を見たけど、大騒ぎだった。
『さぁ、対戦相手はこれから決めます』
『公正のためにくじ方式です』
箱を持った生徒と校長が出てきた。箱は上部が開いててひもがだらっと垂れ下がってる。
『4本のひもで対戦相手を決定します。紐の真ん中に番号があり、同じひもを持った同士が対戦相手になります』
『さぁ引っ張ってください!』
ひとり1本を掴んで引っ張ると、4本のひもになった。智が持ってるひもは美奈子ちゃんとつながってる。
「えぇぇぇぇ智と美奈子ちゃんが対戦!?」
思わず叫んじゃったよ。
メモをしてた生徒がこっちに走ってくる。
『対戦相手が決まったようです!』
『第一試合は千葉VS品川、第二試合は四街道VS佐倉、第三試合は市原VS寄居、第四試合は足立VS成田となりました!』
『2回戦の準決勝は第一試合の勝者対第二試合の勝者と第三試合の勝者対第四試合の勝者となります!』
『校長先生から注意があります。校長先生お願いします』
校長がマイクなしに声を張り上げる。
「ここにいる8人はみな自薦と聞いています。授業と違い友人と戦うことになりますが手を抜くようなことがないように。手を抜くということは相手に失礼なことです。全力で3年間の成果をみせてください。以上!」
校長先生が引き上げていく。挨拶も短めで好印象だ。
『第一試合の千葉、品川両選手以外は待機場に移動をお願いします』
智たちが移動していくけど。待機場は実況席の真横だった。智が「むむむ」と何か言いたげな顔をしてる横で美奈子ちゃんはやる気みなぎる笑顔だ。
というか君らの恰好はなんだね。お兄さんはびっくりだよ。
『さー始まりました本日のメインデッシュ、闘技大会!』
『入場時はさらっとした紹介でしたが準備している間に補足をいたします!』
『千葉選手ですが、Aチームという男子5人組で活動しています。先月あたりから自主的に鍛錬を始めたようで、いつの間に細身のムキムキに変身していたという話を聞きました! 細マッチョいいです!』
『品川選手ですが、ポニーという女子4人組で活動しています。夏ごろから急激に力をつけて、遠征先の勝浦ダンジョンでのサハギンスタンピード時はクラスメイトの先頭に立って戦っていた武勇もあります!』
『裏情報ですが、Aチームとポニーは学外でも交友があるらしいですねえ』
『いいいなぁ、うらやましい! 私も男の子と遊びに行きたい!』
『欲望が駄々洩れなうちに準備が整ったようです!』
『では第一試合を始めてください!』
会場たる校庭には千葉君と品川ちゃんが相対してる。ふたりとも長剣だけど、品川ちゃんが【牙突】スキルなのでやや細身だ。やる気な千葉君に対してちょっと困惑してる品川ちゃん。
千葉君がゆっくり剣を持ち上げ、品川ちゃんに向けた。
「俺はお前が好きだ。俺がこの試合に勝ったら、付き合ってくれ!」
「……なんて?」
一瞬でフリーズし、すぐに解凍した品川ちゃんが叫ぶ。
「はぁぁぁ? おおおおまえ、こんなところでなに言ってんだよ!」
「俺が鍛えたのは、お前よりも強くなって、お前を守るためだ!」
「な、なんだそりゃぁぁ!」
告白された品川ちゃんは耳まで真っ赤だ。
そっか、千葉君はこのためにうちに来たのか。
俺含む周囲はわかってたことだけど、嬉しいけど恥ずかしすぎだよなこれ。
「うぉぉぉぉ!」とどよめく会場。「いいぞ!」「男を見せろ武志!」とクラスメイトの男子から応援も飛んだ。
『ここここ公開告白キタァァァァ!!』
『チクショウ、青春じゃねえかぁ!』
横にいる実況のふたりが荒ぶってる。待機場にいる足立ちゃんは腹を抱えて爆笑して、市原君は知ってたのか腕を組んで「うんうん」としたり顔だ。
「千葉ぁ、こう、もっと普通に言えねえのかよ! これじゃ負けられないじゃないかぁ!」
「大丈夫だ、俺が勝つ」
怒ってるけどうれしさを隠し切れずにブちぎれる品川ちゃんに対して千葉君はガンギマリだ。
「わたしが勝ったらどうするつもりなんだよ」
「……負けるなんて考えてなかったな」
「おいおいおい! じゃあそうだ、わたしが勝ったら原宿に連れてけ!」
「んなもんいつでも連れてくぞ」
「そうじゃねえだろそうじゃ! ふたりでだよ! ささっと連れてってくれりゃよかったじゃねえかよ!」
「いやぁ、原宿行きたいとか聞いたことなかったし」
なにやら痴話げんかが始まりそうだ。
『えええええぃ、痴話げんかしてねえで試合を開始しやがれぇぇ! うわぁぁぁぁん!!』
あ、実況が壊れた。
「あああ、もう行くぞ!」
今だに顔が真っ赤な品川ちゃんが突っ込んだ。剣を伸ばして突きを放つが千葉君は構えた剣で受け流す。結構な威力の突きだと思うけど千葉君の体勢は崩れない。
品川ちゃんはさっと距離をとった。
「硬いじゃん」
「鍛えたからな」
「そうなんだ!」
品川ちゃんがまた突きを繰り出すけど千葉君は冷静に受け流す。品川ちゃんがフェイントを使っても千葉君は引っかからないでどっしり構えてる。
「攻めにくいッ!」
「鍛えたからな」
「それしか言わねえのか!」
攻めあぐねてる品川ちゃんがヒートアップしちゃってるなぁ。冷静さを欠くとまずいんじゃないのかな。
「これなら!」
「ふん!」
品川ちゃんの突きを、千葉君は受けとめて鍔迫り合いに持ち込んだ。
「んぐぐぐ!」
「ぬぬぬ!」
つばぜり合いは力比べだけど、ここでも千葉君には余裕が見える。
「うらぁ!」
千葉君が剣を押しだして品川ちゃんを突き放す。たたらを踏んだ品川ちゃんだけどすぐに体勢を戻して鋭く突きを放った。
「ここだ!」
千葉君は体を横に逃がして品川ちゃんの剣を上から叩いた。
「イタッ!」
ガキンと剣をたたかれた品川ちゃんは衝撃で剣を手放した。千葉君の剣が品川ちゃんの首筋に突き付けられた。
品川ちゃんが静かに両手を上げる。
「……降参」
「ッッッッッッシャァァァ!!!」
千葉君が剣を突き上げて吠えた。
「「「うぉぉぉぉお!!」」」
「すげー!」
「やったな武志!」
「やっとかよお前ら!」
「ヒューヒュー!」
「品川おめー!」
観客席からは歓声と拍手と指笛の嵐。今日一番の盛り上がりだ。
「あーあ、負けちゃったー」
品川ちゃんが嬉しそうに笑う。ニヒルな笑みの千葉君が品川ちゃんの剣を拾って返した。
「このために鍛えたからな」
「またそれかよ。なんだかなー、わたし的には普通に告白してほしかったなー」
「わりいなーこんな男で」
千葉君が品川ちゃんの手を握る。品川ちゃんもしっかり握り返した。
「ってことで、彼氏彼女でいいな?」
「しょーがない」
千葉君が不安そうに確認すると、品川ちゃんがニパっと笑った。
晴れて恋人同士になったふたりが手をつないで退場する。といっても待機場に戻ってくるんだけど。
『告・白・成・功でェェェす!!』
『改めておふたりに拍手をぉぉぉ! 幸せに爆ぜやがれぇぇぇ!』
『『くっそー、わたしも言われてみたぁぁぁい!』」
ぶっちゃける実況に会場も沸く。だが配信はお通夜のようだ。
――いいなぁ
――あおはる……俺にはなかったな
――えんだぁぁぁぁ!!
――羨ましくなんかないぞチクショー!
――彼氏欲しいー
まぁ、ガンバレ。
「1試合目からすごいなー」
来年から公開告白が当たり前になったりして。なわけないか。
来賓席の大多喜さんと足利さんの顔が引きつってる気もするけど見なかったことにしようそうしよう。




