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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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30.秋のハンター祭り 昼休み

 昼休憩だ。智たち生徒は教室で食べるのでいない。片づけをすれば会場のどこで食べてもいいらしいので会場にシートを敷いてそこで昼食にする。さすがにテーブルを出す勇気はなかったよ。


「こんにちは、お邪魔します」

「……邪魔する」


 智のお父さんと兄の勝也くんが来た。勝也くんは無愛想だけどお父さんは晴れやかな顔だ。うちの父さんがにこやかに近づいた。


「寺でも見ていましたが、智美さんはすごいですなぁ」

「こんにちは司さん、驚きましたよ。ハンターとしての智美は初めて見ましたが、とんでもないことになってました」

「おかげで魔物がダンジョンから出ないで済んでおります。感謝しかありません」

「いえいえ、娘が役に立っているのなら私も嬉しいですから」


 父親同士の会話だ。まぁこの人も俺の父親になるんだけど。


「乱暴なだけだろ」


 勝也くんは不機嫌を隠さない。ハンターが嫌いなのはいいけどさ、もう少しほめてもいいんじゃないかな。


「お、おくれました」


 葉介さんが汗を拭きながらやってきた。たぶん葉子ちゃんにつかまってたんだろう。普段は遅刻しない真面目な人だからさ。

 カエデちゃんも誘ったけどふたりでいちゃいちゃするんだって。若いなー。俺も若いけどさ。

 これで全員揃ったことになる。


「お昼にしましょう」


 お昼は用意をしてきた。ハンター祭りには売店もでるし生徒による出店もある。でも大混雑だろうなって予想したからね。後でこっそり買いに行こう。

 収納からごそごそ取り出す。ご飯はおにぎりで、おかずはお重にしたよ。おせちに見えちゃうけど、ただのお弁当さ。

 おかずは定番の卵焼き、から揚げ、やさいの素揚げ、お手製プライドポテト、ほうれん草のおひたし、たこさんウインナーに枝豆。栄養と色彩にもこだわってみました。


「おにぎりは梅干し鮭シーチキン昆布でたくさんあります。こっちがおかずです。卵焼きは智が作ってくれました。野菜の素揚げは京香さんが、から揚げは瀬奈さんがそれぞれ手伝ってくれました!」

「ほう、智美が料理を……」


 智のお父さんが卵焼きに箸を伸ばした。パクリとひと口で食べる。


「……ふむ、ちょっとしょっぱいかもしれんが、こんなもんだろう」


 辛口評価だけどお父さんの目元は緩みっぱなしだ。相当嬉しいんだね。俺は味見で食べてるからみんなに食べてもらいたい。おっと、勝也くんはふてくされながらも食べたね。


「守君、野菜も食べる」

「あ、はい」


 口に野菜の素揚げを詰め込まれた。おいしいですはい。


「智美から、今年は人が多いと聞いてはいましたが、すごいですな」


 お父さんが観客席を見渡してそうこぼした。家族も多いけど普通科っぽい子が多い。制服だからわかるんだけどね。


「入りきれなくて文句が多かったのでネットでも配信されてます。これです」


 京香さんがすっとスマホを差し出す。画面には休憩中と文字があるがライブ映像が垂れ流しだ。会場にいる俺たちの姿も映ってる。俺たち以外にも会場でお昼を食べている人が多いので目立ってるわけじゃないけど。


「文字が流れて行っているようだけど、これは何かな」


 自分のスマホで見てみると、午後の闘技大会で誰が出るかの予想がされていた。圧倒的に美奈子ちゃんの出場予想がされている。


「闘技大会の出場者予想をしてるみたいですよ」

「ふむ、智美の名前はないようだね」

「外部には出場者は伏せてますからね。でも今まで競技に出てない生徒が出るって推測されてて大体当たってます」


 智は障害物に出てるから候補から外されてるけどね。選手入場でどよめくがいい。


「ちょっとトイレに行ってくる」


 勝也くんが立ち上がった。今の時刻は12:50だ。


「そろそろ休憩も終わりますし片付けましょうか」


 会場準備の邪魔になっちゃう。


『あーあー、そろそろ13時になります! 午後の部闘技大会の準備をお願いします!』


 アナウンスがかかると観客席が座る位置を直し始めた。見やすい体勢があるのだ。俺も来賓席で姿勢を正してる。


『実況は午前から変わりまして普通科放送部3年の小金井と』

『同じく普通科放送部3年の馬橋がお送りします!』

『『よろしくお願いします!』』


 アナウンスが変更になって、自己紹介まであった。まばらだが拍手が起きる。


「馬橋先輩頑張ってー!!」

『応援ありがとー! でも応援は選手にお願いしまーす!』

『あれー、私にはないのー?』

「小金井先輩もがんばー!」

『も、かー。でもありがとー!』


 会場がどっと沸いた。なかなかうまいな。


「毎年闘技大会の実況は激しい争奪戦で、今年はあのふたりが勝ち取ったんですね」

「うわ、そんなに」

「普通ではない大会のリアル実況なんてやる機会はありませんから。特に今年の実況争奪戦はすごかったと聞いてます」


 京香さんに説明されて納得しかなかった。

 そりゃやりたいよね。


『さて馬橋さん。実はもう一方(ひとかた)、実況がいるんですよね』

『小金井さんそうなんです!』

『『特別ゲストとして、いま話題の獄楽寺ギルド長の坂場守さんに登場していただきます!』』

「は? 俺?」

「守君、呼ばれてますよ」

「いやいやいや、聞いてないんだけど?」

「そうですよね。言ってませんでしたから」

「京香さん知ってたの???」

『坂場ギルド長』

『実況席までお願いします!』


 まじかー。京香さんがぐいぐい押してくるから仕方なし。

 ちょっとすいませんと言いつつ実況席とやらに向かう。来賓席からちょっと離れた場所にあった。

 そこには黒髪ベリーショートの子とポニテの子がいた。ショートの子が小金井さんでポニテが馬橋さんとのこと。ふたりとも地味っぽいけどかわいらしい感じ。


『はい、坂場ギルド長にお越しいただきました!』

『ギルド長、ハンター祭りはいかがですか?』

「えっと、ここに呼ばれることはサプライズされてて何も考えてないんですけど、みんなが楽しんでるのでヨシ!、です」

『当たり障りのないコメントありがとうございます!』


 わー、毒があるよー。


『さて闘技大会ですが、実は参加者が公表されていません!』

『毎年のことですけど開けてびっくりなんですよー』

『さて、時間も押してますので!』

『選手入場です!』


 スピーカーから、ゲームのボス戦っぽい勇ましい音楽が流れてきた。聞いてるだけで心拍数が上がる気がする。


『さぁ選手の紹介です! 出席番号順となります!』


 参加者8人が歩いてくる。観客がざわつき始めた。


『1番、足立恵美。武器は長剣。ポニーテールがトレードマークの彼女は勝浦ダンジョンでは最前線でサハギンの群れと戦った勇者です!』

『2番、市原健太。武器は長剣。恵まれた体格を生かした一撃がウリです!』

『3番、佐倉智美。武器は大太刀。勝浦ダンジョンでは殿を務め、先日はクイーンシルクのウェディングドレスのモデルもこなし、本日の障害物ではパンチングマシーンを破壊したハンタークラスの()()()ですが今はミニスカニーソメイド姿で大太刀を背負っております! 絶対領域がまぶしい!』

『4番、品川八重。武器は長剣。ツインテールの彼女も勝浦ダンジョンでは足立選手とともに戦線を維持した勇者です!』

『5番、千葉武志。武器は長剣。先月からメキメキと実力を発揮してきました有望株です!』

『6番、成田博。武器は長剣。ハンタークラスの委員長です! 見た目も委員長なのでこれで良し!』

『7番、四街道美奈子。武器は二刀流。勝浦ダンジョンでは単身でサハギンの群れに突撃して道を開いた勇者で、先日はシルク製のキャミソールのモデルをこなし、その恵体で全国の男の子を虜にしましたが今日は夏用セーラー服ミニスカートに黒のスパッツと、憧れの先輩である勝浦先輩リスペクトとのことです!』

『8番、寄居美里。武器は両腕にはめたガントレット! 人生は殴ることと見つけたり! アイアンビューティー♡と刺繍された黒い道着を着用しています!』


 うん、智と美奈子ちゃんと寄居ちゃんの恰好がおかしい。コスプレ会場ではないはずだ。あと、智の大太刀は【羅刹】だ。いいのか持たせて。

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