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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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30.秋のハンター祭り 午前の部② 障害物競争

「アンタらは朝から騒がしいねぇ。あ、住職殿、お久しぶりでございます」


 席に着くと隣にいた大多喜さんに絡まれた。今日もお菓子(うまい棒)を片手に持ってる。


「守が世話になっております。ありがたいことです」

「俺との態度が違いすぎる」

「そりゃそうさ。アンタはうちの有能な職員をふたりも引き抜いてったじゃないか」

「それを言われちゃうと厳しいなぁ」

「おやおや、私も混ぜてくださいな」


 勝浦ギルド長の足利が混ざってきた。恰幅のいいおっちゃんだ。50代の父さんよりは若そうだ。


「いやぁ、今年のハンター祭は楽しみですねぇ」


 足利さんが探るような目で見てくる。

 なんだろう。2週間前にあったが、探られるようなことはした記憶はないけど。


「ダンジョンを所有したと聞きまして、ぜひ詳しく聞きたいと思ってましてねぇ」

「足利ギルド長、これを」


 すかさず資料を差し出す辛辣メイドさんこと京香さん。受け取ってぱらぱらめくっていく。


「黄金騎士団がお試しで使ってみたという話を小耳にしましてね。うちの若手の研修で利用できないかなーって考えてまして」


 足利さんが胡散臭い笑みを俺に向ける。腹黒商人って感じでイヤラシイ。

 まあでもハンターコースの遠征には全面協力してもらってて借りがあるんだよねー。零士くんの存在を隠せれば問題はないか。


「先日、ここの生徒数人とお試しでやってみました。ハンターのレベルに合わせた内容なら価値はあると思いますよ」

「ほうほぅ、それはあの3人とポニーの4人ですかな?」


 む、情報が抜けてる?

 京香さんをチラ見したけど表情は変わってないので織り込み済みかな。


「他の生徒もいましたけどね。その辺は個人情報なので伏せますけど」

「おー、それはすごいですね!」


 大げさに驚く足利さんの後ろでギルド職員らしき女性がメモしてる。油断も隙もないなこの人。おっかない世界だ。


 勇まし気な音楽がかかり『3年生入場』とアナウンスがある。始まるようだ。


『ハンターコース7期生の入場です』


 会場端の入場口から生徒が入場してくる。ジャージだけどそれぞれ武器を持ってて、普通の体育祭とは違うんだという空気を感じる。剣を肩に担いだりちゃんと腰に佩いてたりと色々で個性が出てる。

 ちなみに美奈子ちゃんはあの刀を両腰に履いてて、智は、なんでか持たされてる【羅刹】を背中にしょってる。こん棒もいる。


「おお! 二刀流!」

「大太刀、扱えるのか?」

「四街道様、麗しい!」

「こん棒!?」


 ハンターコースの生徒として異例な様子に観客がどよめいてるのがわかる。行進は来賓席まで来て止まった。横に9人並んでそれが3列だ。

 智が俺を見てにっこり笑顔になる。相変わらず可愛いぜ。


『校長挨拶』


 アナウンスに促されて校長と思われるおっさんが歩き出てきた。


『おはようございます。会場にいらっしゃった生徒の関係者の皆様、そしてハンター祭りに協力してくださった各ギルドの皆様。感謝を申し上げます。いままでの皆様から賜ったご協力やご支援で、今日は目の前にいる生徒たちの3年間の集大成をお見せできるはずです。みなさん、できますね?』

「「「「はいっ!!」」」」

『いい返事ですね。今日は獄楽寺ギルド様からポーションなどの供与もいただいて万全の体制となっています。ネットで中継もされるそうですね。全国からあなたたちは見られています。情けない姿をさらさぬよう、全力を尽くしてください。以上』


 さっと短い挨拶で校長は引っ込んだ。端的に生徒のやる気を引き出した、いい挨拶だなって思う。


『選手宣誓』

「はい!」


 返事をしたのは委員長の成田くんだ。俺の顔を見てびくっとしたのはご愛敬。列の前に出てマイクを手にする。


『宣誓! 我々は今までの努力を、お世話なった方々に見てもらうために、死力を尽くすることを誓います! ネットでも公開されると聞き、勝浦ダンジョンのスタンピードから生きて帰った僕らの代が、どれだけなのかを、見せつけたいと思います! やるぞみんな!』

「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」


 生徒たちが一斉に腕を突き上げた。割れんばかりの拍手だ。

 いいねぇ、いいねぇ。見てる俺の気分も盛り上がる。


『競技①、100メートル障害物競争。出場者15名はスタート地点に集合してください』 

「お、智が出るやつだ。確か渋谷ちゃんも野田くんも出るんだっけ」

『100メートル障害物競争はタイムを争うものではありません。ダンジョン内での過酷な環境になぞらえた障害を越えることに意義があります』


 へぇ、そうなんだ。


『選手は20キロの重りを背負い、15段の跳び箱を超え、5本の丸太を乗り越え、最後にパンチングマシーンを殴ります』

「最後のパンチングマシーンって……」


 意義はあるのかな。

 会場では下級生らしきジャージの子らが準備をしている。跳び箱とか重そうにしてる。丸太は直径1メートルはありそうな大木で、さすがに先生方が運んでる。先生もハンターだしね。

 その丸太が台に載せられているので高さが1.5メートル近くになってる。乗り越えるのも一苦労だ。

 パンチングマシーンは吊り下げ型でガチ本気なブツらしい。


『準備ができたようです』


 ランドセルのような重しを背負った生徒3人がスタートラインに並ぶ。寄居ちゃんと一緒にいた金ギャル銀ギャルがいる。名前は、忘れた。

 パンとピストルが鳴ると金銀ギャルが飛び出した。15段の跳び箱を難なくクリアし、丸太にたどり着く。


「おらぁ!」


 金ギャルが威勢のいい掛け声で丸太に足をかけ、飛び上がった。


「「「おお!」」」


 観客から歓声が上がる。


『熊谷選手、すごい! 浦和選手も負けじと追いかける』


 あ、実況もしてくれるのね。そういえばあの子たちはそんな苗字だった。


『最後のパンチングマシーンです! おっと出ました278kg! 高校生女子のパンチ力は80kgほどといわれていますので、強烈なパンチ力です! 浦和選手も352kgとこれもすごい!』


 おお、すごいな。さすがハンターコースだ。

 1レース3人のようで、智は最後だった。


『さぁ、最終レースです』


 智の他には渋谷ちゃんと野田くんだ。


『裏情報ですが、佐倉選手はパンチングマシーンを壊しかねないということで最終レースにされています』

「おいおいおい!」

「まじか!?」


 ぶっちゃけたアナウンスに観客がざわついてる。


「まぁ、やりかねないかな」


 俺と同じレベルだし。


『用意!』


 ピストルの音と同時に智がダッシュした。右足で地面をけって跳び箱の上に着地、そのまま飛んで丸太の上まで飛んだ。


「「「「「おおおお!!」」」」

『佐倉選手、やはりやらかしたぁ! 走ったまま跳び箱に飛び乗りそのまま丸太を八艘飛びしていきます! 勝浦ダンジョンではケガをしたクラスメイトを抱えて岩場を駆けたと聞いています! 20キロの重りなど空気も同然でしょう! 渋谷選手と野田選手が続きますが、こちらも軽々とクリアァァ!』


 実況が興奮し始めてる。まだ1種目なのにいいのか?


『さぁパンチングマシーンです。佐倉選手構えて、いったぁ!』


 智がぶっ放したパンチはパンチングマシーンの的を粉砕してしまった。


「「「「おお!」」」」

「「うそ!」」

「は?」

『やはり壊れました! 計測不能! 過去のハンター祭りでもなかった珍事です!』


 智はどこかすっきりした顔でゴールに入った。


『渋谷選手はなんと350kg! 野田選手は378kg! これはスキルも関係してくるので高ければ強いというわけではありませんが、パンチングマシーンを破壊してしまった佐倉選手は強いと断言してもいいでしょう!』

「「「すげー!」」」

「ヒューヒュー!」


 会場は拍手と指笛が鳴り響いてる。


『なお、パンチングマシーンは1トンにも耐える設計になっていますが瞬間的に膨大な力を受けると壊れるそうなので、佐倉選手のパンチは速度もあったに違いありません!!』


 アナウンスのフォローが入った。女の子の名誉を守るためだろう。


『最初から飛ばし気味ですがまだ1種目です! 次は競技②番、全員参加の綱引きになります! 準備をお願いします!』

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