29.黄金騎士団の鍛錬①
その日の寺は朝から忙しなかった。寺の駐車場には中型バスが止まってて、中から続々と若者がおりてくる。最後のほうに那覇さんがおりてきた。
今日は黄金騎士団が【いわきダンジョン】で訓練する予定だ。
18歳から20歳でレベル10までの新人が8人とレベルが15前後の中堅が10人。男が6割な感じ。
それと那覇さん、奥様方であるポニーテールズ(命名俺)の黒髪ポニテの宮古さん、金髪ポニテの石垣さん、茶髪ポニテの与那国さん。
総勢22人の大所帯だ。このほかにもダンジョンに潜ってるパーティーがいるとのこと。大人数をまとめ上げてる那覇さんはすごい。
「今日はお世話になるね」
さわやかイケメン那覇さんが歩いてくる。後光を幻視できそうだ。
「那覇様おはようございます」
メイド服の京香さんが挨拶を返す。黄金騎士団の若い男子がチラチラ見てる。やっぱり気になるよね。
「荷物は運ぶんで、いったん寮の食堂で休憩してくださーい」
案内は瀬奈さんと京香さんに任せて俺はバスのトランクルームから荷物を収納していく。智は当然学校だ。
「あれが獄楽寺の……」
「荷物が消えてくぞ……」
なんとなく胡乱な視線を感じるけどスルーだ。
寮の食堂へ移動したら荷物を取り出して休憩がてらの説明に入る。飲み物各種とお茶菓子は欠かせない。
「初めまして、獄楽寺ギルドの小湊です。それとこちらが勝浦です。皆様のサポートに回ります」
「休憩と昼食はここになりまーす。奥には浴場もあるので、終わったら汗を流してねー」
ふたりがあいさつすると与那国さんから補足が入る。
「見てわかると思うけどよー、このふたりも妊婦さんだ。粗相したらそこのおっかねえギルド長に存在を消されるからな」
ビシッと指さされた。そんなひどいことはしないって。
「怖くないですよー。でも、このふたりに何かしたら閻魔様の前に引っ立てるのでやらないようにね」
フレンドリーさを出すためにニッコリしておく。笑顔は苦手だからひきつってなければいいなぁ。
「よし、食べながらでいいから聞いてくれ。今日は【いわきダンジョン】で魔物と戦ってもらう。午前中は個別で。午後は集団戦の予定だ」
那覇さんが立ち上がって説明をしていく。
新人たちはゴブリンと。中堅はオークと戦う予定だ。それぞれ3回。
話を聞いている新人たちはそわそわして早く行きたがってるようなので早速ダンジョンへ向かう。
「おーここが墓地ダンジョンかー」
「でも【いわきダンジョン】でって言ってなかった?」
疑問に思うよね。
でもダンジョンを地上に出してしまうと報告と管理義務が発生してギルドを設立しないといけなくなるんだって。だからダンジョンの中に出して「あくまで獄楽寺ダンジョンの一部なんです!」って言い張るんだって。大人の論理ってずるいよね。
皆がダンジョンの1階に入ったのでさくっと【いわきダンジョン】を出す。
「「「「は?」」」」
地面に突然階段ができたら驚くよね。この反応はいつ見ても面白い。
「この先が【いわきダンジョン】です」
俺が先導して入ると那覇さんも続く。こうしないと入ってくれそうにないしさ。
「いやー、話は聞いてたけどよー」
与那国さんが【いわきダンジョン】の雑木林を眺めながらつぶやいた。
「ダンジョンの中にダンジョンとか、理解に苦しみますわ」
石垣さんが白目になってる。お嬢様っぽい石垣さんはショックの受け方もお嬢様だ。
「へー、池袋よりは木がまばらだね」
宮古さんは通常運転だった。ポニーテールズの中で一番打たれ強いかも。
「さぁ、まずはゴブリンと戦ってもらうよ」
那覇さんが手を叩いて注目を集めれば皆の顔も引き締まる。さて鍛錬開始だ。
黄金騎士団の新人がゴブリンとタイマンしていく。戦いに慣れている子慣れていない子がいて、ケガをする子もいる。ひーひー言いながらゴブリンを倒したけど疲労で地面に座り込んじゃう子も。
ケガはポーションで治すけどね。
「こう見ると、Aチームでも優秀なんだね」
ポニーはこれ以上だし智らは完全にレベチだ。
彼ら彼女らが悪い道に行かないように気を付けないとだなぁ。
新人が終わって中堅の番なので4階へ向かう。彼らの相手はオークだからね。
「4階だって。俺初めてだよ」
「俺もだって」
新人君たちが小声で会話してる。そうだよね、行ったことないよね。
俺も新人なはずだけど、池袋とか北浦とかで2階以降に行っちゃってるな。おかしい!
「さて、次はオークが相手だ」
中堅の番だけど、実はクロスボウ持ちが4人もいて、みな女性だ。
実は美奈子ちゃんがオークと戦ってるんだけど、オークってのは直立した猪で、毛は硬くて皮膚も堅い。パワーもすごくて、鉄パイプくらいなら曲げちゃう。ホブゴブリン以上オーガ以下な強さだ。
矢じゃ倒せなかった時が大変なことになっちゃう。
なお、美奈子ちゃんはザクザク斬り倒してた。
「最初は……知立!」
「おうさ」
指名されたのはプロレスラー並みにガタイのいい男性だ。武器はでかい斧でバトルアックスと言うんだって。ぱっとみ山賊だ。
準備が良さそうなので遠くにオークを出現させる。
『ブッホォォォ!』
直立するイノシシが吠えた。迫力はゴブリンなんて目じゃない。新人たちはブルっちゃってる。
「こいやぁ!」
『ブモォォォ!』
知立さんの煽りにオークが触発されて走り出した。重量感あるドドドと響く音で迫ってくる。
「どっせい!」
オークが当たる直前に横にずれてバトルアックスを振り下ろす。ガスっと斧が首に食い込んだけどオークは止まらず、待機してる新人たちの直前で転倒した。そしてそのまま光となって魔石を残した。
「わわわ!」
「ひぇ!」
新人が悲鳴を上げる。
「狙うなら首よりも足がいいかな。これがパーティだとしたら仲間に被害が出かねない」
那覇さんから注意が飛ぶ。一撃で倒せないのなら足を狙って転倒を狙ったほうがいいのか。
「気を付けます!」
「うん。オークの突進はなかなかきついからね」
後退して次の中堅に代わる。そのうちクロスボウの女性の番になる。どうするんだろ。
「瀬戸、クロウボウでオークの足止めを狙ってほしい。弱点である目、ないしは膝だ」
「はい!」
「知立。オークのとどめを頼むよ」
「承知ッ!」
なるほど、タッグでやるのか。おっとオークを出さないと。
『ブッフォォォ! ブッフォォォオオ!』
出現したオークはすでに興奮状態だった。一目散に知立さんに向かっていく。虚を突かれたのか瀬戸さんがもたついてる。
「ちょ、この!」
慌てて撃ったからか矢はオークの腹に刺さった。
「慌てないで次だ。知立はもたせて」
「は、はい!」
「任せろ!」
知立さんは斧をフルスイングしてオークを吹き飛ばす。距離が稼げたからか、瀬戸さんは落ち着いて照準を合わせている。
「ヨシ!」
クロスボウから放たれた矢はオークの左ひざに刺さった。オークが膝をつき立てなくなった。
『ブ、ブモモモ!』
「今度は失敗しねぇ!」
オークが怒ってるようだけどすでに知立さんの斧が迫っていた。
バトルアックスは首に吸い込まれ、見事に切り裂いた。オークは光に消え、魔石となる。
「知立、よくやった」
「汚名返上っシャー!」
「瀬戸、ミスってもリカバリーはできる。焦らないことが大事だ」
「はい」
「大丈夫。次を頑張ればいい」
「はい」
瀬戸さんはしょんぼりしてるけど那覇さんは必要以上に責めない。褒めて伸ばす方針なのかも。
こんな感じでオーク戦も終えた。




