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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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28.零士くん②

 零士くんが語りだす。寺の本堂前でショタ武者が缶コーヒーとか絵面がすごいけど。


「高校を卒業した俺は岐阜県警に入って、ガタイのいい俺は機動隊に配属された」

「師匠、機動隊員って?」

「警察の中でもとびっきり暴力的な部隊だ」


 美奈子ちゃんの問いに零士くんがニヤッと答えた。まぁショタだから可愛いだけなんだけどね。


「俺が23の時にダンジョンが発生した。こんな時、最初に調査するのは警察でな、巡査してるやつらだと武装が足りないからって機動隊が呼ばれた」

「師匠も行ったんですか?」

「若い俺は速攻で投入されて、スキルを覚えた。俺が覚えたのは【強打】だったな」

「わたしと一緒!」


 美奈子ちゃんがめっちゃ笑顔でパンと手をたたいた。


「当時は意味が分からなくて上司に報告したけど「頭がおかしくなったか?」とか言われたな」

「ヒドイ!」

「まぁ、当時はそもそもダンジョンって認識もなかったしな。でもそれが全国で発生してかつ魔物と遭遇して負傷者が出た時から変わった。秘密裏に自衛隊が投入された。で、俺たちは元の任務に戻った」

「自衛隊に代わって、それで終わりですか?」

「最初は自衛隊も軽火器でダンジョンを探索してったらしい。ゴブリンあたりはライフル銃でもいけたがオークやオーガできつくなって携帯ミサイルを使い始めた。だが自衛隊にそんな弾の予備があるわけがなく、すぐに弾が尽きたが魔物は減らない。倒しても自然に発生するしな。装甲車も持ち込めねえし、かといって重火器の運搬は大変だ。そのあたりから様子が変わって、白兵戦に移っていった。鉄パイプとかで殴ってたらしいが、それだと倒しきれなくてけがをする奴が増えてきたってんで刀に切り替えたそうだ」


 「銃剣もあったしな」と零士くんがぐいっとコーヒーを飲む。


「その頃になるとダンジョンに入ったやつの間でスキルの話が出るようになった。スキルを持ってると魔物を倒しやすくなってケガもしなくなるってな感じでな。「レベルが上がった」と言い出すやつも出て、ようやく幹部もまともに話を聞くようになった。米軍でも同じようなことが起きてて、情報共有したらしく、自衛隊でもスキルが認識され始めた。当然その前に入ってた俺らにも調査がきた。全員が何かしらのスキルを持ってたのが分かった」

「どんなスキルだったんですか?」

「機動隊じゃほぼ戦うスキルだったな。何かしらの武器を前提のスキルが多かったが、殴る蹴るのスキルもあった。【鑑定】スキルを持つヤツもいて、そこから飛躍的に解析が進んでった、らしい。詳しいことは教えてもらえなかった。自衛隊にも結構な被害が出てて、スキルがあれば戦えるんだったら民間にも開放して戦える人間を増やした方がいいんじゃねえかって話が出てきた。それだけ追い詰められてたってことでもある。そんな時だ、関ヶ原ダンジョンのスタンピードで両親が巻き込まれて死んだ。俺は機動隊をやめてハンターになった」

「え……じゃあご両親はもう」

「あの世へ行けたか、もしかしたらふらっと()()に来てるかもしれんが、地獄ではないと願いたい」

「……そうだったんですね」


 美奈子ちゃんは零士くんの頭をぎゅっと抱きしめた。

 零士さんがハンターになったのも関が原ダンジョンを攻略してたのも、もしかしたら仇討だったのかも。それと、零士さんの検分時に市川さんが来たのは、そういうことだったのか。


「美奈子、苦しいんだが」

「わたしが家族になりますね」

「話を聞け! 胸を押し付けるな!」

「JKの巨乳を堪能できるなんてそうそうないですよ?」

「なくていいから離れろ」


 零士くんがもぞもぞ動きいて脱出を試みてる。本気でやれば振りほどけるのにしないのは優しさなのか、もしくは堪能してるのか。


「仕方ないですねー」


 嫌々といった顔で美奈子ちゃんが離れた。自分の体が武器になることを知ってて。恐ろしい子!


「師匠がハンターになった後はどうしてたんですか?」

「同時期に機動隊を辞めたヤツがいて、そいつの知り合いとパーティーを組んだりしてた。自衛隊を辞めたヤツもいたな。煮え切らない上層部に腹が立ったらしい」

「政府の対応って、いっつも遅いですよね」

「警察と一緒で安易に先回りはできねえし、まぁいろいろあるんだろ。で、運がよかった俺は順調にレベルも上がって関ケ原ダンジョンでは最前線で戦ってた。同じころ、鍛冶師だったオジキもダンジョンに入って刀鍛冶のスキルを得て、俺に刀を打ってくれた。それが羅刹だ。ダンジョンができてから2年くらいでギルドが設立されて、正式にハンター資格が設けられた。新しくハンターになるやつらを管理するためだな。当時からだが、ハンターになりたてのヤツの死亡率が高かったんだ。関ケ原でも初顔のヤツはすぐに見かけなくなってた。そんなことがずっと続いてて、後進の教育の必要性を感じたんだが、何かやろうとする前に俺が死んじまったってわけだ」

「それで、今日みたいなことをやったんですか?」

「条件が揃ったからな。生きてるうちにはできなかったことが可能になったら、そりゃやるさ」


 零士くんはなんてことない風に言ってコーヒーを飲んだ。

 彼の中では、すごい心残りだったのかもしれない。だからここに出てきたのかも。

 武者幽鬼だったけどね。

 もしかしたら、後進の教育ができたと思ったら成仏してしまうかも。

 なんて考えてたら、前触れもなく零士くんの兜が音もなく割れた。本堂に階段にあたってゴンゴンて音を立てて地面に転がって、さらさらと崩れてなくなった。


「おいおいおい、なんてことだこれは」


 兜が割れて露になった零士くんの頭だけど、髪の毛がすごいことになってて、某テレビから這い出てくる女の幽霊みたいになってた。顔も隠れちゃってて、黒いテルテル坊主みたいだ。

 零士くんも把握できてなくてわたわたしてる。


「師匠! 大丈夫ですか!?」


 美奈子ちゃんがポケットからヘアゴムを取り出し、零士くんの髪をまとめて首の後ろで縛った。


「やっと前が見えた。美奈子ありがとな」

「弟子ですから! それにしても長すぎますね」


 零士くんの髪は腰まで伸びてて、後頭部で縛ってるけどそこからは扇みたいに広がってる。平安貴族みたいだ。


「確かにうざいな」

「師匠、わたしが切ります!」

「いや、適当に切るからいいぞ」

「だめです!」


 美奈子ちゃんは零士くんのヘアゴムを外し、頭の高い位置で縛りなおした。ポニーテール男子だ。昔の武士の子供のイメージに近いかも。


「可愛い! 最高ですよ師匠!」

「なんで俺が可愛いとか言われなきゃならん!」

「髪の長さはいい感じに短くすれば……きゃー!」

「よせ! はなせ!」

「兜がないから痛くないです!」


 零士くんは美奈子ちゃんに抱きしめられてむぎゅむぎゅされちゃってもがいてる。

 うん、俺は邪魔だね。

 こっそり逃げた。

 逃げた先で、本堂の陰でこっそり盗み聞きしてる瀬奈さんと京香さんを見つけた。

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