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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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28.零士くん①

「このダンジョンについては脇に置いておくとして。これは彼の発案かい? いや、かつて世話になった人がダンジョンから手を引いて後進の育成をしたいって言ったのを思い出してね」

「うちの3人が彼について聞きたいことがあるって」


 那覇さんもビッチさんも零士くんについてだ。

 うーん、零士くんについては深堀りされたくないなぁ。彼の身の安全もあるし、死者が生き返るとかの勘違いでうちに押し寄せられても困るし。


「そうですね。発案は師匠ですね。なんでも新人ハンターの生存率を上げたいとかで、関りのある市船のハンターコースの生徒に協力してもらってます」


 ここまでは言ってもいいでしょ。


「なるほど、高尚な考えだ」


 那覇さんは引き上げていく零士君を見つめている。


「僕がまだ駆け出しのころ、可愛がってくれた人が居たんだ。ぶっきらぼうだったけど色々教えてもらって、今でもその経験が生きることが多くてね。彼はひと段落したら後進の育成をしたいっていてたんだけど、5年前にダンジョンから帰ってこなかった」

「零士ニキっすね」

「俺、零士ニキにあこがれてハンターになりました」

「俺ら3人の憧れだった」

「今最前線にいるハンターの大部分は零士さんに憧れてハンターになってるからね。また教えを請いたかったな……」


 複雑な感情が垣間見えるけど、それに流されちゃだダメだな。あくまでも秘密だ。バレてるかもしれないけど。


「それはそうとして、このダンジョンをうちの新人教育に活用したい。ダンジョンの仕様などの打ち合わせをお願いしたいところだけど、今日は厳しいかな」

「那覇様、簡単にまとめた資料がありますのでお持ち帰りください。上野様も、でしょうか?」


 いつの間にか俺の背中に隠れていた京香さんがひょっこり提案する。大多喜さんの神出鬼没っぷりに似てきたな。


「そうね、うちにも市船の子が3()()来てるから、その子たちも含めた訓練はしたいのよね」

「その場合、指導はそれぞれのクランでされるということでよろしいでしょうか? 師匠の存在を察していただけると助かります」

「うん、問題ないよ」

「問題ありませんわ。でも、そのたびに彼がつきっきりになってしまうわけでしょう?」


 ビッチさんが俺を見る。


「寺の幼稚園の行事とかがあると手伝いに行くんだけど……逆に可能な日を設定すればいいのかな」


 さすがに毎日はないでしょ。


「そのあたりも詰めましょう」


 この場ではここまでとした。




 その晩、本堂前の階段に零士くんと美奈子ちゃんが並んで座っていた。手にはおはぎがあるので隠れておやつを食ってるようだ。ダンジョンの件で零士くんに話をしようと探してたら出くわしちゃったんだけどさ。


「守、どうした?」

「邪魔してごめん。ちょっと今日のことで聞きたいことができちゃって」

「ふむ、じゃあ先に渡しておくか」


 零士くんは階段の最上段にあがって両腕を前に伸ばした。


「出てこい」


 零士くんの両手には刀が2本握られている。白と黒の刀だ。意匠もなければ光沢もない、鞘と鍔と柄が白と黒一色になっている。


「昨日オジキから届いた。美奈子の刀だ」

「え……まだ剣を握ってもいないのに、いただいていいんですか?」

「今から慣れておけ」


 零士くんが刀を美奈子ちゃんに押し付ける。


「重心は前に渡した刀と同じだ。右手用の黒い刀が【裁き】。左手用で少し短くて白い刀が【白鶴】だそうだ」

「……白鶴ときたら黒いのは濡烏とかじゃないんですかね」

「オジキに命名センスはねえんだよ。打つ刀は国宝級なんだがなぁ」


 零士くんはカリカリと兜を掻いた。


「美奈子、お互いの刀身を軽く合わせてみろ」


 美奈子ちゃんが鞘から刀を抜く。刀身すらも黒と白になっていて、本堂の照明の光を鋭く反射した。

 禍々しい黒と神々しい白。うっすらとオーラも見える。

 刀を知らない俺でもやばいものだとわかる。


「すごい……」

「見惚れるのは後にしろ」

「あ、はい!」


 美奈子ちゃんが恐る恐る刀身同士を軽くぶつけると、リーンと風鈴のような澄んだ音が響き渡る。とても金属とは思えない。


「すごく奇麗な音色です。水に映る月みたいな澄んだ音」


 美奈子ちゃんがうっとりした顔になる。


「【(さだ)の鈴】っていってな、オジキの打つ刀同士をぶつけるとこんな音がするんだ。とんでもない硬度の金属になってるかららしいが、俺にはよくわからん」

「そうなんですね……【刀鍛冶】市川定の打つ刀は時価でしか買えないって聞きます。いくらなんでしょう、これ。出世払いでもいいですか?」

「金はいい。使いこなせ」

「え、でも」

「お前には羅刹を持たせるつもりだったんだが、いつの間にか二刀流になってやがったからな」

「あ、すみません、せっかくのご好意を」


 美奈子ちゃんがシュンとなった。あれは憧れの瀬奈さんへのリスペクトだろうし、譲らないだろう。

 零士くんは羅刹を譲る気だったのか。と同時に、自分の跡を継がせる気でもあったのかと気がつく。


「気にするな、他に見合うやつがいれば渡すだけだ」


 最上段にいる零士くんが美奈子ちゃんの頭をイイコイイコしてる。いつもと逆だ!


「【侍大将】スキルも渡そうかと思ったが」

「わたしは剣士ですから、人を率いるとか考えてません」

「だろうな。お前の戦い方はそうだしな」


 仕方ネーナって顔の零士くん。


「ま、精進しろ。それと刀に魅入られるな。お前に渡した刀は、あくまで魔物を滅するための武器であって人に向けるもんじゃないぞ」

「はい!」


 刀を鞘に戻し大事そうにぎゅっと抱きしめる美奈子ちゃんは、出会ってから一番の笑顔だった。

 で、話もひと段落したようなのでこちらも本題を。


「守の話とはなんだ?」


 先回りされちゃった。


「今日来てた那覇さんって、昔に会ってたりします?」

「……あぁ、生きてた頃にな」


 零士君は視線をそらした。


「そういえば零士さんの生きてた時の話とか聞いてないなーって」

「師匠の話、聞きたいです!」


 俺の話に乗っかって、美奈子ちゃんがキラキラした目を向けた。零士くんが「うっ」っと言葉を詰まらせてる。美奈子ちゃんの攻撃は有効みたいだね。


「あまり面白いもんじゃないぞ」


 そう断った零士くん。話す気はあるみたいで、とすっと階段に腰かけた。美奈子ちゃんがすかさず隣に陣取る。師匠大好きだなぁ。

 長くなりそうなので収納に入れておいた缶コーヒーを渡した。美奈子ちゃんはコーヒーが好きではないので紅茶だ。


「俺はもともと警察官だった」


 カシュっと缶コーヒーを開けた零士くんが語りだした。

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