27.ダンジョンで鍛えよう 午後の部③
「……彼が師匠ね」
「めっちゃ強強オーラがでてる」
「俺じゃ勝てなさそっす」
「お嬢、万が一は盾になります」
ビッチさんらがなんか物騒なこと言ってる。そんなことないのに。
「別に襲わんぞ?」
零士くんはおはぎをぱくついてる。零士くんのお気に入りおやつだ。
ほら、おやつがあればすっかりおとなしいでしょ。口のわきについてるあんこは美奈子ちゃんがつまんで食べちゃった。
「素質のある奴は強くなるな」
零士くんは信号機の3人を見て満足げにつぶやいた。
「わたしはどうですか、師匠」
「5年あれば俺を超えるだろ」
「ふふ、それは買いかぶりすぎです。10年は欲しいです」
「甘ったれるな。5年で超えろ」
師弟がじゃれてた。
休憩が終われば最後の仕上げだ。3階で智を含めた12人対ゴブリン30体の集団戦。ちょっとしたスタンピード対処だ。
「リーダーだけ決めるぞ。佐倉、お前やれ」
「わかりましたー」
これは事前に決めてたこと。智は直接攻撃するスキルを持たないからね。高レベルの身体能力で物理的に戦えるけどさ。
特に異論はない様子。
「じゃー陣形だけどー」
智がフォーメーションを説明する。
まず前衛真ん中に美奈子ちゃん、両斜め後ろに葉子ちゃんと太田ちゃんの狙撃部隊。左翼はAチーム、右翼がポニーの3人。智は美奈子ちゃんの後ろ。
なお、智にはスキルOKの指示が出てる。
「無理に突っ込まない! 生きて帰るぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
掛け声の合図でゴブリンを限界の30体まで出現させる。もやもやも巨大だ。ギャラリーは念の為俺の後ろにいてもらう。
「お、多いな」
「やばくね?」
Aチームから不安の声が上がる。自分たちの倍以上だから当然だ。
ゴブリン実体化間近で智が叫ぶ
「来るよ! 【幸歌】【癒歌】【戦歌】!」
みんなの体が白く、次いで緑に光り、最後に炎のエフェクトに包まれた。
「なんだこれ!?」
「あたしのバフスキル。少しラッキーになるのと疲労回復と力が増すってやつ」
「体が軽くなった!」
「うぉぉぉ! やる気がパンパンだぜ!」
「やってやんよ!!」
雄たけびが上がるが、特にAチームが顕著だ。武器を掲げてどこぞの戦闘民族になってる。戦歌の影響だね。
【戦歌】はくじけぬ精神を呼び起こして力が3割増しになるってバフスキルでレベル15で覚えたスキルだ。人数問わず味方全員。
【癒歌】はポーションでも回復できない疲労回復のバフでレベル20で覚えたスキルだ。こちらも人数問わず味方全員。
智が覚えるスキルは戦闘向きではない補助スキルが多いけど内容がチートすぎる。
「…………なんだい、あれは……」
那覇さんが絶句してる。
「智が覚えたバフスキルですね」
「いやいやいや。彼女はまだ高校生だろう? レベルはいくつなんだ」
「俺と同じレベル24です」
「にじゅう、よん??? 24!???」
那覇さんは俺、智、俺と顔を向けた。
「智のメインスキルがターンアンデッドで、墓地ダンジョンと相性がいいんですぐにレベルが上がるんですよー」
「いや、だからと言って、そう簡単に……」
「もちろん、智の頑張りがあってのことです」
那覇さんと会話しているうちにゴブリンが完全に実体化した。30体のゴブリンがグギャグギャ騒いでるが、すぐにこちらに気が付く。
「来るよ! 構え!」
「「「「おう!」」」」
「太田は先頭のゴブリンを転ばせて! 葉子は後方に【カース】をぶち込んで!」
「は、はい!」
「オケー。ヤンゾー!」
智の指示と同時にゴブリンが駆け出す。30体もいるので横一列にはなれず、固まりで迫って来る。
「太田!」
「えい!」
太田ちゃんが放った矢は先頭を走るゴブリンの足に命中。転倒して真後ろのゴブリンを巻き込んだ。
「や、やった!」
「まだ、打ち続けて!」
「わかった!」
太田ちゃんが放つ矢は先頭のゴブリンの足や腹に命中し、その都度転倒ないし動きを止めさせ、真後ろのゴブリンもろとも転倒させた。
「葉子!」
「ほらヨット!」
葉子ちゃんが放った矢は弓なりに飛んで後方のゴブリン集団の中心あたりに落ち、周囲を紫の光で覆う。後方のゴブリンは明らかに動きが遅くなった。ゴブリンは先頭集団と後続に分断された。
「お前らの背後には家族がいると思え。後ろに抜かせるな!」
零士くんから檄が飛んだ。
直後、先頭ゴブリン集団は前衛と接触する。前衛9名に対してゴブリン16体。
「ちょっと間引かないとね」
両手に剣を持った美奈子ちゃんがスキルの乗せた斬撃でゴブリンを両断しながら前に出る。
「うぉぉぉ!」
「グギャッ!」
「うりゃぁぁl!」
「このぉ!」
「グギャァァ!」
「えーい!」
Aチームもポニーも横一列になって挟まれないようにして戦ってる。そんな中、葉子ちゃんは曲射で後方のゴブリンの頭をスナイプしては魔石に変えていく。太田ちゃんはクロスボウを構え、仲間の隙間から走ってくるゴブリンを狙撃し続けてる。
接近戦開始から数分でゴブリンは半壊していた。
「なんで、なんでこんなに乱れずに戦えるんだ!? 彼らはまだ高校生だろう?」
那覇さんが信じられないものを見る目をしている。
「智のバフスキルの影響もあるけど、勝浦ダンジョンでサハギン集団に襲われた経験があって、落ち着いて行動できてるんじゃないですかね」
俺は見たわけじゃなくって智から聞いた話だけどね。
遠距離攻撃部隊に邪魔されたゴブリン達が接敵したけど、【カース】を浴びた上に傷を負ってて動きが鈍いからアッという間に駆逐されてしまった。
「これで最後だぁぁ!」
最後のゴブリンが倒され魔石に変わった。美奈子ちゃん以外の前衛はみな肩で息をしている。美奈子ちゃんは涼しい顔して狩り残しがないかチェックしてた。レベチすぎる。
「ケガしてる人いるー?」
「ぶじー」
「少し引っかかれたぜ」
「かすり傷」
「なし!」
智の掛け声でケガの確認が始まる。大ケガはいない様子。
「よし、勝ったよ! みんな頑張った!」
「おっしゃー!」
「やったー」
「役に立ててよかったぁ」
「うぉぉぉ!」
「あぁぁぁぁぁ!」
智が勝どきを上げれば雄たけびがダンジョンに響き渡る。バフもあるけど戦いでハイになってるね。
「上出来だが、これは佐倉のバフと柏の影響が大きい。ふたりがいなかったらもっと苦戦してるはずだ。図に乗るのは早い。だが、数的劣勢に怖気づかず落ち着いてたところはいいぞ。休憩したら地上に戻る。ケガしたやつは勝浦のところに行け。おっと、魔石は買い取るから拾っておけよ!」
零士くんの総評で〆だ。
「師匠、わたしも頑張ったんですけど?」
名前を挙げられなかった美奈子ちゃんが零士くんに直談判してる。零士君くん抱き上げて逃がさないつもりだ。
「美奈子がゴブリンの数を調整してるのは見えてたぞ」
「むー、それならいいです」
「納得したら下ろしてくれ」
「このまま休憩しまーす」
理解はしたが納得はできなかったのだろう美奈子ちゃんは、休憩中ずっと零士くんのお世話をしていた。
休憩が終わり皆が引き上げていく中、那覇さんとビッチさんが寄ってきた。後ろには信号機の3人も控えてる。
「ちょっといいかな」
「わたくしもお話がありましてよ」
京香さんではなく俺なので、取引とかではなさそうだ。ただ、ここで話をするってことは、あまり大ぴらにできない内容になりそう。




