27.ダンジョンで鍛えよう 午後の部②
ゴブリンが完全に実体化した。目に入ったのかポニーの4人に向かって「グギャギャギャ」と吠えている。
「攻めてくるのを待つな。開始!」
「えっと、私が足止めするから3人並んで各個撃破!」
「「「りょ!」」」
太田ちゃんは指示を出すとクロスボウを構えて矢を射った。弾丸並みとは言えないけどかなりの速度で矢が飛び、ゴブリンの胸に刺さった。ゴブリンは膝をついたけど倒れてない。
前衛3人はゆっくり前進を始めた。
「ギャ-ッ!!」
「グギャ!」
3人を見たゴブリン3体が一斉に駆け出した。胸に矢を受けたゴブリンは遅れて駆け出す。
「来るよ!」
足立ちゃんが少し前に出て剣を構えた。その脇を矢が走り、向かってきているゴブリンの腹に刺さり転倒。
2体になっても襲ってくる。殺意の塊だ。
「グギャァァ!」
「うるさい!」
足立ちゃんがゴブリンに斬りかかり、撃破。その間に品川ちゃんと渋谷ちゃんが挟み撃ちで撃破。太田ちゃんは腹に矢を受けて転倒したゴブリンの頭にとどめの一撃。
「これで終わり!」
遅れてきたゴブリンは品川ちゃんが剣を突き刺した。
さすがに慣れてる感じで、安心して見ていられた。
「私はケガ無し」
「なーし」
「ちょいかすってジャージが破れた……また買ってもらわなきゃー」
終わった後にケガの確認をする余裕もある。ただ、怪我は治るけど服は元に戻らない。渋谷ちゃんがしょげてた。
学校の制服もだけど、けっこう高いんだよね。自分で買ってたから知ってるんだ。
今日のはうちのせいだから補償しよう。
「へぇ。たいしたもんだね。相手がゴブリンとはいえいいチームワークだ。もっと数が多ければ2年目3年目の若手にもいい訓練になりそうだな」
那覇さんが感心してる。まぁポニーはいろいろ鍛えられてるからね。自慢の子たちさ。俺が育てたわけじゃないけど。
「すげえな」
「あっさり勝ったように見えるけど、俺があそこまで動けるかってーと」
Aチームからは心配になる声が。ポーションはたくさんあるけど大丈夫かな。
「次はAチーム」
「うす」
「やるぜ!」
「っしゃあ!」
やる気はみなぎってる感じのAチームの5人。横一列になって待機する。
こっちは遠距離攻撃担当がいないからどうなるやら。
「守、5体だ」
「はーい」
ということでゴブリン5体を出現させる。もやもやっと5体が現れるとAチームが剣を構える。おっとひとりはこん棒だった。
「グギャァァ!」
「ギャッギャー!」
現れたゴブリンはすぐに5人を見つけバラバラに駆け出した。こいつらに統率というものはないらしい。
「開始!」
「いつも通りやるぞ!」
「「「「おぅ!」」」」
零士くんの合図でAチームも駆け出してしまった。
おいおい、何を見てたんだ。
「でりゃあ!」
「くらえ!」
5人が同時に攻撃したけどお互いが邪魔しあって剣が空振りしてる。ただ、千葉君は落ち着いてゴブリンを仕留めてた。
「いて!」
「こなくそ!」
ゴブリンと混戦になっちゃっててカオスだけど数で勝ってるから優勢ではある。1体ずつ減っていって、とうとう最後の1体だ。
「とりゃ!」
一宮君のこん棒がゴブリンの頭を吹き飛ばした。
「うっしゃー!」
「ふぅ、勝ったぜ」
勝どきを上げるAチーム。でもみんな傷だらけだ。ジャージのダメージもひどい。
「まだやるからな。ケガは治しとけ」
「うぃっす!」
返事はいいけど、ポニーと比べて内容がねぇ。
「いやー、あの数は初めてだったけど、なんとか勝ったな」
「イテテ、アドレナリンが切れるとイテエ!」
包帯だと心配だからポーションを飲ませる。
「Aチームはゴブリン5体とやるのは初めてなの?」
ちょっと聞いてみた。
「初めてっすよー。4体の時はあったけど先輩がいたし」
「そもそもゴブリンが5匹もいねーし」
「好き勝手動いたからやりづれーな」
わぁ、初体験なのかー。
「あと2回ずつやるからな。そのあとはお前ら12人対ゴブリン30体やるぞ」
「まじっすか。そんなに戦ってもいいんですか!」
「やった! レベルが上がるかも!」
「船橋じゃなかなか魔物と会わねえし」
あー、戦う機会が少ないせいもあるのか。ポニーはうちの墓地ダンジョンで戦ってるしね。
「坂場君、高校生の段階であのくらい戦えれば御の字だよ。大ケガでもないし。あの女の子たちの方がおかしいんだよ。黄金騎士団の新人よりも強いよ、間違いなく」
「そうなんですか?」
那覇さんに言われてしまえば納得だ。ケガですんでるAチームは優秀なんだな。そして戦いなれてるポニーはおかしいと。美奈子ちゃんと葉子ちゃんを見たらなんと言われるのか。自慢だけどおかしいと言われるのは癪だ。
その後はポニーとAチームそれぞれ2回ずつゴブリンと戦った。ポニーは変わらず安定した戦闘で、Aチームは変わらずの乱戦だけど零士くんから指示が入ってお互いの距離を測りながら戦い始めたからか、ケガの度合いが減った。
「よし、レベルが上がったぜ!」
「俺もだ!」
「やったぜ!」
Aチームの5人はレベルも上がったようでレベル3になったそうだ。ポニーはすでにレベル7だから上がらない。
「……うちの新人にもやらせたいな。僕らが指導しながら、好きなタイミングで、パーティ単位で戦えるメリットは計り知れない。しかもケガをしてもすぐに治せる」
「最下層の10階だとオーガも出せますよ?」
「へぇ。とするとレベル15くらいまでは訓練できそうだ」
那覇さんは腕を組んで思考を巡らせている。これは商売になりそうだけど俺の負担が増えていくなぁ。
でも新人ハンターの生存率が上がるなら、やる一択だ。がんばれ、未来の俺。
「よーし休憩だ。次は3階へ行くからな」
ダンジョン内で休憩だ。もちろん那覇さんもね。
休憩中、Aチームは那覇さんに話しかけてて、人気なんだなーって。ポニーは遠慮してるのかチラチラ見るだけだったけど。
「あら、楽しそうじゃない」
階段のほうから女性の声がした。顔を向ければ、ビッチさんと信号機の3人がいる。ビッチさんはゆったりとした赤いマタニティ服で、信号機の3人はスラックスにシャツだけど帯剣してる。
来る予定はなかったよね?
「上野様、今日は訪問のご予定はなかったかと」
「ダンジョンを所有したなんて突拍子もないことをやってるから気になってしまったのですわ。ギルドに顔を出したら新しいダンジョンにいるって聞いたから来てしまいましたの」
葉介さんがこっちに振っちゃったかー。瀬奈さんも京香さんもこっちにいるし、対応できないか。しゃーなし。
「でも、妊婦さんが来ちゃダメでしょ」
「あら、そちらはふたりもいるじゃない」
「ぐう正論」
言い負けた。ビッチさんには3人の騎士がいるから大丈夫なんだろうけどさ。
「久しぶりだね、ビューティーと信号機の騎士」
「あのシルクの件以来ね」
「那覇さんお久しぶりです」
「久しぶりっす」
「那覇様、お世話になっております」
「商会のほうもだいぶ手広くやってるようでよく話を聞くよ」
「うちなどまだまだ弱小ですので、生き残るのに精一杯ですわ」
なんか社交が始まったんですけど。
「仕事の話なら外でやれ」
「……そうね。お静かにいたしましょう」
零士くんにぴしゃっと言われてビッチさんもおとなしく椅子に座った。妊婦さんを立たせたままにするわけにはいかないからね。




