27.ダンジョンで鍛えよう 午後の部①
「はーーーー、なんか疲れたぜ」
マッチョな市原君がテーブル突っ伏した。お腹がグーっとなっているが動かない。
「たいして動いてねーけど、疲れたーって感じだな」
「船橋ダンジョンにいる時より疲れたぜ」
「ゴブリンとタイマンなんてやったことねーしな」
「精神的な疲れだな」
Aチームの5人はお疲れの様子。対してポニーの4人は「おなかすいたー」とのんきだ。経験の差かな。
「お昼は焼肉でーす」
「おおお!」
「やたー!」
「すべてセルフでおねがーい」
「「「はーい!」」」
お昼もバイキング方式にした。焼肉は豚肉5キロと玉ねぎ15個とピーマン15個を炒めて甘辛たれでくるんだ品。味見の段階で旨かった!
めっちゃ自画自賛して唯我独尊したい。
あ、この言葉はお釈迦様が言ったわけではなくって、毘婆尸仏ってすごい人が言ってるんだよね。お釈迦様が「俺が一番だ!」って言うはずないんだ。
「肉肉肉肉!」
「わーいお肉がたくさんだー」
「焼肉丼で食うぜ!」
「肉ばかりでなくってキャベツも食べてね!」
注意しないと肉しか食べないからさ。ガキの頃の俺の話だけど。
育ちざかりが15人もいれば5キロのお肉も完売だ。キャベツは俺が好きなのでもそもそ食い尽くした。イモムシとでも呼んでくれ。
デザートは俺お手製の水ようかんだ。ちょっと塩をいれてあまじょっぱくしてある。檀家のおばーちゃん直伝の味だ。
「甘すぎなくていくらでも食べられちゃうわー」
「そこの妊婦さんは、控えめにしてくださーい」
体重オーバーになっちゃうからね。
「守君の甘味は優しい味なのでカロリーはゼロに決まっています」
「そこのメイドさんも決め顔でそんなこといってもダメでーす」
京香さんもですよ。
「あたしは許された!」
「智は、ほどほどにね」
「「智だけずるい!」」
妊婦さんコンビがぶーぶーな様子に、生徒たちはあっけにとられている
「小湊先輩ってあんなキャラなんだ」
「びしっとしてるかと思ってた」
「おにーさんが絡むとあーなるのよ」
ほら、後輩たちがこそこそ話してるよ!
昼休憩も終わって集団戦だって時、来客があった。
インターホンに映ってるのは黄金騎士団の那覇さんだ。奥さんズの姿はなく、単独の様子。
黒のスラックスに茜色のシャツ。秋のさわやかさを纏ってる感じだ。
「いや、急にすまないね。ダンジョンを持ち帰った動画を見てね。なんか楽し気なことをやってるなーって見にきたんだ」
那覇さんがさわやかスマイルを見せつけてくる。このイケメンが!
ダンジョンを見学したいっていうんだけど零士くんの存在がなぁ。
「お久しぶりです那覇様。奥様方の体調はいかがですか?」
知らぬ間にメイドさんが背後からぬっと出てきた。
「君の賄賂のおかげで彼女らの体調と機嫌はすこぶるいいよ。その代わりうちの1軍は開店休業さ」
那覇さんが「困ったもんだね」と苦笑いになる。
「その分2軍ががんばってて、戦力の底上げになってるよ」
「それは何よりです」
「今日はだいぶ賑やかのようだけど?」
寮のほうからは楽し気な笑い声も聞こえてくる。まーバレるよね。
「守秘義務を守っていただけるなら見学も可能ですよー?」
俺の背中から瀬奈さんの声がかかる。ポーションを大量に買ってくれるお得意様でもあるので「だめです」とは言いにくい。それを狙ってのことかもしれない。
「僕もクランを背負う人間だからね、秘密は守るさ」
パチっとウィンクする。イケメンしぐさをしても似合うのがコンチクショウだ。
「では、ダンジョンそのものは口外して結構ですが、その他に見たことは他言無用でお願いします」
「心得た」
ということで、急遽那覇さんが合流してしまった。
14時にダンジョン1階に集合なので、那覇さんを連れて時間ぎりぎりに向かう。先に瀬奈さんと京香さんを行かせて零士くんに話だけする。
墓地ダンジョンからいわきダンジョンへ。
「へー、ダンジョンの中にダンジョンがあるのか。初めてだよ、感動だなぁ」
那覇さんが目を輝かせて見渡してる。
少年のようなイケメン。こいつはいくつの属性を持ってるんだ。煩悩の数なら負けないぞ。
「おいアレって黄金騎士団の……」
「那覇さんじゃね!?」
「なんでここに!?」
生徒たちが動揺してる。那覇さんは有名人だからみんな知ってるよね。
そんな那覇さんだけどショタ武者零士くんを見て固まった。
「他言無用だ」
「……少年のこの圧は……」
零士くんが圧を飛ばしてるけど那覇さんは平気みたいだ。
「……僕より強いかもしれないね」
「……ヒヨッコも、強くなったもんだ」
「ぜひ手合わせを、と思ったけどあいにく今日は武器を持ってきてないんだった」
那覇さんは「アハハ」と爽やかに笑ったけど目は笑ってなかった。なんかバレた?
「静かにしろ。これから集団戦に移るが、1階の魔物は売り切れだから2階へ行く。階段は向こうだ」
零士くんが歩き出すとみなそのあとに続く。カルガモ親子の大集団でいとをかし。
「ねぇ、坂場君。集団戦って何をするんだい?」
「複数のゴブリンとの戦闘訓練ですね。このダンジョンは俺が魔物のコントロールしてるんで好きに出せるんですよ」
「魔物の出現をいじれるのはすごいな。所有の意味ってのはそれなのか。うちの新人の教育にも良さそうだね」
「そこは見てからで」
拒否はしない。
京香さんは市船の生徒だけではなく新人ハンターの訓練に使えないか考えてるらしいからね。零士くんも新人ハンターの底上げには賛成だし。クランの新人なら指導は彼らに任せれば零士くんを隠せる。
問題は俺のスケジュールだ。俺が立ち会ってないと魔物を出せないからさ。食事以外の家事もろもろ、家政婦さんが欲しい。
到着した2階も雑木林で、広さも1階と同じだ。
「2階なんて初めてだ」
「船橋の2階は許可が出ないし」
Aチームの市原君と野田君がつぶやいた。そっか、学生の間は1階までしか行けないんだったね。ポニーはうちの2階までは行ってるんだよね。さすがに3階の狼と熊は危険だから禁止してる。
「さて、これからは集団戦をやっていく。観客が増えたが気にするな。まずはパーティごとにやるぞ。ポニーの4人」
「は、はい」
「やるぞー」
零士くんに呼ばれ4人は2階の真ん中くらいに集まる。ギャラリーが増えたので緊張してるっぽい。
待機と見学組は階段近くでかたまってる。
「同じ人数のゴブリンと戦ってもらう」
零士くんから合図があったので離れた場所にゴブリン4体を出す。大きなもやもやが発生して4体のゴブリンに変わっていく。
「最初は何も言わない。自分たちで戦術を考えてみろ。万が一の時は俺が割って入るから安心しろ」




