26 ダンジョンで鍛えよう 午前の部⑥
休憩も終わり、ゴブリンとの戦闘になる。俺の仕事だ。
「これからゴブリンと戦ってもらうが、やみくもに攻撃するんじゃなくてきちんと当たるように狙え。攻撃を当てたうえでスキルを使って倒すことを心がけろ。まず千葉からだ」
「うっす!」
「師匠、弟子たるわたしからじゃないんですか?」
零士くんが千葉君を指名したのが不服なのか、美奈子ちゃんが挙手する。
「お前だと見本にならん」
「えぇぇぇそんなー」
「ということで千葉、焦らずに落ち着いて攻撃を当てろ」
「うす」
千葉君がのそりと立ち上がった。でも目はやる気に満ちてる。
「師匠、どの辺にゴブリンを出します?」
「距離が欲しい。向こうのダンジョンの端がいいな」
「おっけー」
場所が確定したのでそこにゴブリンを配置する。空間がもやもやして緑色の形が作られていく。
「千葉、構えろ」
「うす!」
千葉君が剣を両手に持って構える。剣道の中段の構えだ。
靄が実体化すると、そこには緑色の餓鬼、ゴブリンがいた。ぼーっと立っていたが俺たちに気が付くと歯をむき出しにして敵意をあらわにした。
出現させたら俺の手を離れてしまうので、できることは消滅させることくらいだ。
「グギャッ!」
手を大きく広げて威嚇していたゴブリンがこっちに向かって駆け出した。千葉君は息を吸うと大きく一歩を踏み出し、コンパクトに剣を振り上げる。
「【強打】!」
鋭い爪でひっかこうと腕を伸ばしてくるゴブリンめがけ、千葉君は剣を振り下ろす。
千葉君の剣はゴブリンの額に刺さり、そのまま力強く振り降ろされゴブリンを両断した。
「グギャァァ!」
頭から真っ二つに裂かれたゴブリンは消え、その場で魔石に変わった。千葉君は数秒そのままでいたけど「ふぅ」と息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁ緊張したぁぁぁぁぁ」
千葉君が剣を地面に刺して天を仰いだ。みんなの手本だったしね。お疲れ様。
「いいぞ千葉。こんな感じで落ち着いて相手しろ。むやみに魔物に向かって行っても体勢が整う前に攻撃することになる。武器の長さを頭に入れて戦え」
「うす」
「次、足立」
「ははひ!」
「落ち着いてやればいい」
千葉君とバトンタッチで足立ちゃんが立つ。構えは八双に近い独自のものだ。同じようにゴブリンを出現させた。
「ギギャアア!」
今度は出現させた途端に襲い掛かってきた。
「魔物の行動は一定じゃないぞ」
「はい!」
足立ちゃんは落ち着いて浅く呼吸をして待ち構える。ゴブリンが接近し腕を伸ばしてくるタイミングで足立ちゃんが体をずらして剣を振り下ろした。すれ違う瞬間にゴブリンの胴体に水平の線ができて上半身がどさっと地面に落ち、魔石に変わった。
「ふぅ。やっぱりゴブリンは緊張するなぁ」
足立ちゃんは額の汗をぬぐいながらそうこぼした。やっぱりアレがトラウマになってるのかも。
「よし、上出来だ。倒したと思っても残身を忘れるな。別な魔物がいるかもしれないからな」
「は、はい! ありがとうございました」
足立ちゃんはポニーテールを激しく揺らしてお辞儀した。
「次は一宮」
「ウッス!」
一宮くんは剣だけど構えはフェンシングに似た感じだ。【牙突】という突きのスキルとのこと。品川ちゃんも同じスキルなようで、一宮君の動きをじっと見つめてる。
同じくゴブリンを出現させると、今度は周囲を見渡してる。一宮君を見つけても警戒してか「ギュググ」と唸り声をあげるだけで近寄らない。
「一宮、構えたままゆっくり向かえ。相手が先にしびれを切らす」
「ウッス」
やや腰を落とした一宮君は剣先をゴブリンに向けたまま一歩一歩近寄っていく。一宮君に脅威を感じたのか、ゴブリンが両手を広げて襲い掛かってくる。
「ハッ!」
一宮君が正面からゴブリンの胸を突いたけどゴブリンは止まらず、そのまま押し倒された。
「グギャア!」
「くそ、この!」
地面でもみ合っているうちにゴブリンは消えた。頬から血を流している一宮君が立ち上がった。肩のあたりもジャージが切れている。
「一宮、綺麗な包帯を巻いとけ」
「これくらい大丈夫っす」
「午後は集団戦もある。仲間の足を引っ張る可能性は潰しておけ」
「あ、すんません、考えが足りませんでした!」
一宮君が頭を下げる。師匠の強さがわかっているからか、彼も素直に認めた。
京香さんが包帯を持って近寄り、ジャージを脱がす。顔と肩にぐるぐる巻きにした。
「俺、ミイラ男だな」
一宮君が苦笑する。
「突き系のスキルは側面からの攻撃がセオリーだ。正面からの攻撃した場合、一撃で倒せないと今のようになる。狼とかの獣系だと首を噛まれて死ぬからな」
「身に染みました!」
「「突き」は「斬る」より与えるダメージが弱い場合が多い。複数回突き刺す立ち回りをするように。よし、次は品川」
「は、はい!」
品川ちゃんにバトンタッチだ。品川ちゃんはレベルが上がってることもあって、襲ってくるゴブリンをかわすタイミングで頭を突き差し、魔石に変えた。
「魔物でも頭は急所だ。ただし骨もあるから硬いぞ。次は野田」
「はい!」
という感じでソロでの戦闘が続いていく。1階だとゴブリンが30体出せるのでひとりあたり3戦する。1戦目は失敗だった子は2戦目で立て直してきた。さすがだね。
待ちぼうけの智たちは暇そうにしてるけど別行動するわけにもいかず、サポートに専念してくれてる。後で褒めよう。
スマホで時間を確認すれば11時を過ぎたあたり。そろそろ昼の準備をしないと。下ごしらえはしてあるからそんなに時間はかからないけど人数が多いからね。
「よし、午前中はここまでだ。午後は、そうだな14時からやるか」
零士くんが俺を見ながら言うのでうなずいといた。




