26 ダンジョンで鍛えよう 午前の部①
ダンジョンを持ち帰った翌日の学校の昼休み。佐倉はトテテと歩き机にうつ伏せで寝ている千葉の席に向かう。千葉はかなりの頻度で寺に来ており、疲労が回復しきっていないのだ。
「千葉ー、ちょっといいー?」
「……んが? なんだって佐倉か」
佐倉が珍しく千葉に声をかけているので教室の視線を集めている。なお、成田は無事に復活して授業を受けている。
「守がダンジョンを持って帰って来たんだけどさ」
「あー、寺ギルドのアーカイブを見たけど、まさかアレのこと?」
「そう。師匠が魔物との実践での鍛錬に使えるなって言いだして」
「師匠が!? やるに決まってんじゃん!」
千葉が立ち上がる。
「あ、でも俺まだ剣を持っていいって言われてねーや」
「そのへん含めて考えてるみたい。瀬奈おねーちゃんも一緒に内容を考えてるし」
「へー、ならぜひやりてーな」
千葉はぐっとこぶしを握る。そんな様子を見ていた品川がツインテールを揺らしてずかずかと歩いてきた。
「千葉ー、まーた内緒で何かやるのー?」
品川はご立腹だ。千葉がダンジョンにこもっている間は母屋で待っているのだが内容も教えてくれない。そのあとは家まで一緒に帰るので半分はデートなのだが、気になるものは気になるのだ。そして佐倉が頭越しに千葉と自分の知らない話をしている。
佐倉の顔レベルはクラスでも上位であり、品川は普通だ。焼きもちが膨らみまくっていた。
「お、タケ、なんかやんの?」
「痴話げんかか?」
「最近タケは品川とどっかにいってんじゃん」
「なんだ、秘密でもあんのかー」
千葉の周りには彼と組んでいる黒髪ポニテの館山や大柄マッチョの市原らがが集まってくる。痴話げんかと言われて品川が「違うわい!」と威嚇しているが彼らは見慣れているのでスルーだ。
「あー、俺さー、いま獄楽寺で鍛えてもらってんだわ」
「は? 獄楽寺って、佐倉がいる寺か?」
「なに武志、こっそり鍛えてんのかよ」
「さてはハンター祭りで目立つつもりだろ」
「俺も混ぜろよー」
ガタイのいい男子5人がわちゃわちゃするので佐倉と品川は引き気味だ。だが引き込むいい機会ではあると佐倉は判断した。彼らの普段の様子も知っているし、勝浦の浜辺でビーチバレーをした時にも見ていたが「あいつらは単純だ」というのが佐倉の感想である。零士の圧倒的な強さを見たらヒーローを見付けたがごとく目を輝かせるだろう。
「んー、じゃーあんたたちもやってみる? ちょっと誓約書とか書くけど」
佐倉が声をかけると「誓約書とかいるのか?」と反応が鈍くなる。おっとまずい。
「俺は誓約書書いたぜ。書いた価値はあると思ってる」
千葉が強く言い切った。そうするとほかの4人の目にも迷いが生まれる。お互いを見合い、腹の内を探り始めた。
「卒業したらハンターとして生きてくし。今から鍛錬しても遅くねえ」
「ぐ……確かにな」
「来年なんだよな」
「ハンターになって金稼ぐんだって思ってたけどさー」
「現実に押しつぶされそうだ」
千葉の言葉に4人がうつむく。
「だからやるしかねえかなって。動機は全然違うんだけどな」
「「「「ちげーのかよ!」」」」
そう言って笑う千葉は4人に突っ込まれていた。
「ねぇ佐倉。それってわたしもやっていいもの? なんか寺に行ってもさー、千葉のところにわたしが行かないように勝浦先輩と小湊先輩がなんのかんのと引き留めようとしてるっぽくってさー」
品川が不安げな顔で聞いてくる。自分を千葉から引き離そうと感じてるのだろうか。そんなことはないんだけどなーと思う佐倉だが言えるはずもなく。
「やるのは全然オッケーだけど、できればポニーのみんなが望ましいかな。ぶっちゃけ、集団戦もできるから」
「え、なにそれ」
「詳しくは言えないけど、ゴブリンなら100体まで同時に行けるって守に聞いた」
「は? スタンピードじゃんそれ」
「うん、それを好きに設定できるんだって」
「なにそれ!?っておにーさんなら不思議じゃないか。おにーさん何でもありだし。ちょっと聞いてくる」
品川がポニーが集まっている足立の机に急いだ。
結果、ポニーの4人と千葉含む5人の【ダンジョン野郎Aチーム】は全員鍛錬を受けることとなった。




