24.ハンターコースでアピール②
「えーっと、獄楽寺ギルドでギルド長をやってる坂場です。うちはちょっと特殊で、日本で唯一の墓地ダンジョンなので頻繁にスタンピードが起きます。なので、魔石やドロップ品をゲットして稼ぐというよりは魔物を減らす、ないしスタンピードを殲滅するのが主になってます。基本は俺と智……そこの佐倉が対処してるけど常に起きてるわけにもいかないし、こうして外出もしないといけないので専属的にやれるハンターは欲しいと思ってます」
俺が述べると教室がざわっとした。京香さんがシュっと挙手した。
「ギルド職員の小湊です。年度末には坂場に名字が変わります。皆さんの先輩にあたる勝浦先輩と私小湊が現在妊娠しています。来年春には勝浦先輩が産休に入り、夏には私が産休に入ります。先日、柏のお兄さんがギルド職員として働き始めましたが休日を考えると当然足りません。我々はギルドに住んでいるようなものなので産休といっても手伝いはできますが優先は出産と育児になります。なのでハンター兼ギルド職員でもいいので募集します」
「寮も作ったので、住み込みも可能です。もちろん通いでもオッケーです。柏のお兄さんは通いだし」
補足しておく。ざわつきが大きくなった。
「はい、質問です。ギルドって、普通に募集とかはしないんですか?」
成田君から質問が飛ぶ。
俺と大多喜さん足利さんが目を合わせる。
「基本的にはね、ハンターという仕事に理解のない人材は入れたくないのさ。数年前の船橋で大学に募集したこともあったけど、ハンターを色眼鏡で見る奴とかさぼる奴が多くってね。辟易したのさ」
「うちも同じ理由かな。うちは特殊な事情が多くってね。ハンターに理解ある人しか入れたくないなぁ。引退するハンターでもいいんだけど」
「引退するまで生きてるハンターは金を持ってるから働かないやつが多いですし、ある程度の年齢だと組織に組み入れにくいからなるべく若い人を入れたいですな」
「おっと、そうなんですね。足利さんありがとうございます。若造なんでそのあたりがぴんと来なくって」
「小湊。ちゃんとコイツの手綱を握っときな!」
「それが難しいんですよ大多喜先輩。守君は優しすぎて、池袋とかにもほいほい救援に行っちゃうので」
「いやだって困ってる人がいるわけじゃん。北浦もそうだったけど、亡くなられたハンターもいたしさ」
「それはどこも一緒さ。アンタはまず自分のところを何とかおし!」
「……サーセン」
おかしい、俺ひとりdisられてる。教室のあちこちでくすくす笑われてるし。
まあいいさ。俺が笑われるくらい。
「はい! あとスキルがインチキだという意見もあるようですが」
「おお、ぶっこんだな!」
「言っちゃったな」
成田君から追加の質問が来た。追従する子もいる。おやおや、まだこれが生きてるのか。
「成田。あんたもなの?」
「成田やめときな。あんたが使ってた綺麗な包帯はおにーさんが持って来るんだよ」
「成田。燃やすぞオマエ」
「おにーさん、そろそろ見せしめに何人か公開処刑したほうがいいんじゃなーい?」
「【勇者】は生配信でぼろっかすにやられたのに」
「黄金騎士団が公式に感謝してたよねー」
「委員長。死にたいなら止めねーけど、やめとけ」
「ビューティ様は北浦で共闘してますわ。それに、私をビューティに紹介してくださり、先日弟子入りも叶いましたわ。悪く言うことは許せません」
智、美奈子ちゃん葉子ちゃんはじめ、ポニーの4人と千葉君、寄居ちゃんまでが声を上げた。うれしいなぁ。
「うん、物騒なことをいうのはやめよう。葉子ちゃん、燃やしちゃダメ。足立ちゃん、処刑はちょっと。せめて全裸放置まででやめて差し上げて。あの【勇者】は夜中にうちのダンジョンに来てたりするね。ゲートの記録でわかるんだよ。魔物がたくさんでヒャッハーできるからみたい。ビッチさ……上野さんの商会はうちの取引先だからよくしてもらってるよ」
優しい人ばかりだよ。勇者は除くけど。
「でもね」
鉄製金剛杖を取り出す。床をこつんと突いたらドゴンって音がしたけどご愛敬。成田君の席に向かって歩く。もちろん菩薩のほほえみでだよ?
「俺は何を言われてもいいけど、調子に乗って俺の周りの人たちをdisり始めたら、君を閻魔様のもとに送らなきゃならない」
釘は刺さねば。
金剛杖で成田君の机を突いて収納する。ついでに椅子もだ。成田君がべたと床に落ちた。何が起きたのかわからんって顔してる。
「仏さまはとても情け深くていらっしゃるので2回は見逃すけど、俺は仏さまほど慈悲はないからね」
成田君の額に金剛杖を突き付ける。やさーしく、すごーくやさーしくね。
「次やらかしたら愚者にしちゃうぞ」
かーるくコツンと小突いた。成田君がコロンと床に転がった。合掌。
「おっと、机と椅子を戻さないと」
成田君に当たらない位置に机と椅子を取り出す。後で位置は直すでしょ。
「これでヨシ」
「ヨシ、じゃないでしょが!」
「いて」
背中に突きを食らった。振り返ったら智がぷりぷりしてる。ぷりぷりも可愛いなぁ。
「あんな威圧駄々洩れにしたら成田程度じゃ意識を保てないでしょが!」
「えー、威圧なんてしてないってば。優しくしたよ?」
「悪いのは成田だからかばう気なんて一切ないけど、ちょっとは手加減しなさいよ!」
「手加減って、力も入れてないけど……」
「残念、息はあるゼ」
「一応保健室に投げ込んでおくわ」
葉子ちゃんが成田君の脈をはかって美奈子ちゃんが成田君を小脇に抱えて教室を出て行った。いい連携だなー。
「ハンターたるもの目の前にいる相手がどれほどの強さなのかを推し量れるようになると長生きできるよ。コイツは人間で優しいから命までは取らないけど、魔物は違うからね」
「大多喜さんもなかなかひどくないですか?」
「生徒を見てみな。みんな怯えてるじゃないのさ」
「まさかー」
教室をぐるっと見渡すと、顔が白い子が何人かいる。先生も直立不動で動かない。直れっていったら直るかな。足利さんは余裕そうに見える。
眺めていたら笑顔の京香さんにコッチコッチと呼ばれた。この笑顔はやばい奴だ。
「守君、正座」
「ア、ハイ」
京香さんの横に正座する。
「守君の悪口を言った愚か者には私たちが罰を与えに行くので、守君はステイです」
「え、でも。俺はどう言われてもいいけどそれを放置したら京香さんたちにも迷惑が」
「ステイ、です」
「ア、ハイ」
「ハンター見習の彼の強さを1とすると守君の強さは億かそれ以上です。手加減に手加減を10回くらい重ねれば何とか会話ができるレベルなのを理解しましょう」
「いやそれはないってば」
「許される返事はイエスだけです」
「ア、ハイ」
「まぁ、でも見せしめにどこかのダンジョンを踏破して消滅させるのもいいかもしれませんね。さすがに思い知るでしょうし」
「小湊、うちはやめとくれ」
「勝浦も同じく」
大多喜さんと足利さんが「イヤー」って顔した。




