22.秋のハンター祭りのお知らせとがんばるヒヨコたち⑤
今日は智、京香さんと一緒に佐倉家を訪ねてる。ちょっとお金の話があるからだ。智のお父さんはいるけどお母さんは不在でいない。代わりにお兄さんが来た
智を嫁にということで以前に挨拶には来てたんだけどお兄さんと会うのは初めてだ。眼鏡で真面目そうな印象。千葉大の医学部で俺と同い年らしい。すごいなぁ。
「お久しぶりです。と初めまして坂場守といいます」
「どうも、佐倉勝也です」
彼の挨拶の声が冷たい。歓迎はされてないな。
挨拶もそこそこに本題に入ろう。
「実は智美さんの稼ぎが予想以上で扶養控除から外れてしまうので、その補填をと思いまして」
京香さんが切り出すと、お父さんは驚いた顔で智を見る。その智もびっくりした顔をしてた。
「京香おねーちゃん、そうなの?」
「智美はそんなにダンジョンに入っているのかい?」
「あたしは朝と夕方だけだよ。合わせても1時間もいないと思う」
京香さんからお父さんに振りかえる智。
毎日ダンジョンで骨を倒してるけど長時間はいないもんね。
「専属契約の金額換算だと月6万程度ですが、智美さんが倒した魔物の魔石の売り上げは別なんです」
「あ、そっか。それは別腹なんだね」
智、お金はデザートでも甘いものでもないぞ。
「具体的な数字はまだですが、現時点で800万円は超えています」
「えぇぇ!? そんなに!?」
「智、あなたは毎日何体の魔物を成仏させてる?」
「えっと、少ない時でも100体は超えてる、かな」
「そう、それだけの数の魔石も手に入れている。本来であればそれプラスでドロップ品の売り上げも案分するのですが、そうするとあまりにも巨額になってしまって税務署に目をつけられてしまうのでまだやっていません」
「え、そうなの?」
「月々の振り込み口座とは別の口座にためてあります。地域の信用金庫でハンター証のデジタル通貨と連動してます。おろす分には全国でできます。卒業したら通帳を渡しますね」
「わーすごいー」
「守君の収入を聞いたらそうは思わなくなりますよ」
「守、そうなの?」
智があっちを向いたりこっちを向いたりせわしなくて髪がぶんぶん振られてて可愛い。
「ポーション1本が10万だとしても、月に千本以上をゲットしてるわけだしね。ほかに魔法書とかのドロップ品があるし」
「あたしの旦那さんはお金持ちだ!」
智が無邪気に喜んでるけど、勝也君の機嫌は悪くなっていく感じ。
「ハンターなんて、暴力で野蛮な職業だろ」
勝也君が立ち上がる。
「俺は人を救う医者になる」
「ちょっと兄貴!」
勝也君が部屋を出て行った。ハンターに良い印象はないようだ。後、医師という職業にだいぶ自負があるみたいだ。
「あんな言い方しなくなって! ポーションとかきれいな包帯があって助かってるのは医療関係者も同じなのに!」
「職業に貴賤を感じるのは単に自己満足でしかないよ。もしかしたら可愛い妹を取られたってすねてるのかもしれないけど」
「それはないって。いつもあんな感じだもん」
智は口をとがらせてる。アヒル口かわいい。
「智、人の本心は見えないもんだよ」
思わず合掌。何を言われても返さないよ?
「幸せはその先にあるもの。比較したって意味はないし。幸せは人それぞれだしね」
仏教は幸せの探求だもん。
「というわけで、何らかの形で補填させていただきたく」
「智美さんに毎日助けていただいていてるおかげで地域の平穏が保たれてます。ありがとうございます」
京香さんと俺が頭を下げる。
「智美が元気でやっている証拠でもあるので補填など必要ありませんが、そのあたりはお任せします」
お父さんはほっとしたような笑みを浮かべた。家を出ちゃってるし、いろいろ心配だよね。
「あ、そうだお父さん、今年の秋のハンター祭の招待券。はいこれ!」
智が招待券を取り出して渡した。3枚なので家族全員分だ。今の感じだとお母さんと勝也君は怪しいけど。
「ちゃんと来てよね!」
「楽しみにしているよ」
お父さんが優しく微笑んだ。




