「産休の魔法少女に代わりまして……」
なんちゅータイトル……さて「その②」の始まりを飾るのは……あの魔法少女です。
その電話は、折よく休憩時間に掛かってきた。
「……はい、音川です。一美さんですか?」
『……あ! よかったぁ~長月サン今は忙しい?』
見た目と同じ、優しそうな雰囲気そのままの話し方で一美さんが訊ねてくる。
「いえ、今は休憩中ですが。」
『そーなんだぁ! ゴメンね休み中に!』
「ご心配無く。それで、何か御用件が御座いますか?」
……そう尋ねると、暫く一美さんは沈黙した後、意を決して切り出したのだ。
『……あの、ホント言い難いだけど……お願いがあって……』
『……私、【妊娠】しちゃったから、ぴゅあ☆ラフレシアと一緒に《魔法少女》活動して欲しいんだけど……ダメかな?』
……色々質問したい事が山盛りですが、お人好しな私はつい即答してしまっていた。
「いえ、問題は有りません。宜しくお願い致します。」
『そ~よねぇ長月ちゃんも飼育員で忙しいだろうし、じゃむキャット先輩にも【仕事が立て込んでて難しいの】って断られたし……って、ええ!?』
美しい流れで阻害せず、小気味良いノリの良さを発揮しながら驚かれていました。流石はヨーチューブ閲覧番付上位、余裕の笑いのセンスです。
「……まだまだ若輩者で、力不足の面も多々あるでしょうが、こちらこそ宜しくお願い致します。」
「そっ? そう!? じゃあ、宜しくお願いねぇ~♪ ……でも、ホント大丈夫?」
返答の意味を汲み取った一美さんは、そう訊ねて来ます。そこで、私はキチンと答えます。
「大丈夫か、と言われれば今は大丈夫ではありません。まだ自らの能力を《限界突破》させていません。しかし、一刻も早く能力を発露させる為に皆様の力添えが得られるならば……きっと、全て上手くいくと思います。」
「そうね! じゃあ、さっそくかず……ラフレシアには教えておくわね!」
そう言って一美さんは電話を切った。さて、私の方は休憩を終えてゴールデンライオンタマリンの給餌を始めよう。
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細く長い首、幼い頃は利発そうと称えられた広いおでこ。形の良い眉と我ながら悪くない顔立ち。今となっては整形だ何だと悩まなくてよい器量と容姿で有難い事この上ないが、小さな頃は背の高さと共に付いたあだ名が【キリン】だった私。
地味なジャージ姿で自宅の一室で和子さん(一美さんは毎回言い淀むがいい加減ばれている事を認めるべきだ)との通話を終えて、集合場所の公園を目指して家を出る。
夜の緩やかな空気を掻き分けるように進むと、目的の公園が見えてくる。その公園は近所の各地にある水道へ水を流す為の、古風なコンクリート製の塔が横にあり、そこに和子さんが待っている筈である。
公園の一角から目を凝らして見ると、塔の天辺にちょこんと小さな濃いオレンジと緑色のドレスを着た小柄な少女が腰掛けているようだ。
「……お待たせ致しました。ご足労痛み入ります。」
「うぉ? か、固いねぇ相変わらず……あ、どーもありがと!」
高い塔の上から身軽に身を踊らせて、地面に軽やかに着地した【ぴゅあ☆ラフレシア】こと和子さん。途中の自販機で買った缶コーヒーを差し出すと嬉しそうに受け取ってくれた。
「で、【限界突破】するって話なんだけど……どうする予定?」
「はい、リサーチした結果、そちらから魔力をお借りして、自らの能力以上の魔力を駆動させれば迎えられる筈だ、と伺いました。」
「ふむ……私もまだ【限界突破】ってのはしてないけど……ねぇ? うちの【ほーりぃ☆パルすいーつ】は気がついたらそれだったらしいし、人によって違うらしいんだけどね」
そう話しながら、私の手渡した缶コーヒーを飲む和子さん。『働くオトコの缶コーヒー』と銘打たれた商品をグイッと煽る魔法少女とは、なかなかシュールな絵です。
「それでは早速試してみたいと思います。では……失礼して……」
私はジャージのポケットから、小さな象のマスコットを取り出し握り締め、
『……偉大なる大自然の息吹よ……矮小なる愚かな人間に……その雄々しき力の一端を貸し与え賜え……』
体内に巡る僅かな魔力が次第に加速し、やがて手にしたマスコットを中心に身体の外側を巡り抜け、そして体表に薄い皮膜としてコスチュームを形成していく。
「……うん、毎回見る度に長月サンの胆力に驚かされるわ……」
「そうですか? 私はフェルデナントと一緒に居られるのだから、何も不自由は有りませんが?」
手にした小振りなステッキを弄びつつ、魔法少女の【なちゅらる☆エレファント】に変身した私を微妙な表情で眺める和子さん。
「では、場所を変えて試してみましょうか? 我が身に宿る可能性を……【限界突破】の領域を迎えられるか否かを……」
「そうね! じゃ、あそこの塔の上なら誰かに見咎められる事もなさそうだよ?」
そう告げる和子さんこと【ぴゅあ☆ラフレシア】に導かれて、私は小さく息を吸い込んでから、軽く跳躍して塔の天辺へと一跳びで到達する。
「……じゃ、どうすればいいの?」
「……はい、まずは手を貸してもらいます。そして……右手から流れ出た魔力を左手で受け止めるイメージで……」
塔の頂上で、華やかで乙女チックなぴゅあ☆ラフレシアと、地味なグレー一色の全身タイツな私が手を繋ぎ、月に照らされながら魔力を交換させて、体内に巡る流れを次第に加速させていく……
「うぅ、これ、結構キツくない!?」
「…………えぇ、た、確かに……ッ!?」
二人で押し寄せる荒波に耐えるように歯を食い縛り、魔力の奔流と化した魔法少女の身体を支え合っていたその時……それは不意に訪れた。
……何かが、来る……?
長月 おと様から頂いた《音川 長月》こと【なちゅらる☆エレファント】さん! さぁ、彼女がどう変身するのか!?
次回は新たな姿を得た長月サンが活躍します、たぶん。




