第31章「女のプライド」
放課後のマック。夕暮れの光が店内をオレンジ色に染める中、制服姿のレイとセナは向かい合って座っていた。
レイはシェイクをひと口飲み、ふと横目でセナを見やる。
「セナもマックなんて行くんだな」
「い、いいじゃない! 学校帰りのマックやってみたかったんだから!」
セナは恥ずかしそうに肩をすくめつつも、目は真剣そのもの。
「で? 急に呼び出してどうしたんだ?」
「ど、どうって……日曜日に向けて練習してるのよね? どうなの?」
手元のポテトをいじりながら、彼女はじっとレイを見つめる。
「まぁ今のところ順調だよ。デビューまで少しでもファンを増やさないといけないし、絶対成功させるさ」
セナは小さくふーんと唸った。
「ふぅん……デビュー曲はもう決まったの?」
「ああ。アルヴァンのお姉さん、ラン=スミスって人が作曲してくれた」
「う、嘘!! ラン=スミスですって!?!?! しかもアルヴァンのお姉さんなの!?」
セナの目がキラキラと輝く。ポテトをテーブルに叩きつけ、思わず身を乗り出す。
「ああ。すごいのか?」
「バカ!! 音楽業界で知らない人なんていないくらいよ!! 数々のヒット曲を作ってるんだから!」
セナはまるで自分も審査員みたいに胸を張る。
「へぇ……やっぱ凄かったんだな、あの曲」
「自分が認めたアーティストにしか作曲しないって聞いてるけど」
セナがポツリと悔しそうにそう呟く中、レイはため息をつき彼女に言う。
「セナ、そんなことよりだ。お前なんであんないじわる言うんだよ。売れなかったらすぐに俺達を解散させるって……」
「ふ、ふんっ……しょうがないじゃない! レイがステラちゃんと組んだのが悪いんだから!」
「ふ、二人でスカウトされたんだからしゃーないだろ? てかお前ら仲悪いのか?」
「な、仲は別に悪くないわよ! ただお互い絶対負けたくないだけ!」
「そ、そうか……ならいいんだが」
「それに……」
「ん?」
セナは目をレイから目を反らし、顔を少し赤らめながら付け足す。
「音楽の仕事を中途半端にしてほしくないの。売れないってことは真剣さが足りないってことでしょ?私は音楽に真剣になれないアーティストが堪らなくイヤなの。」
「セナ……クスっ……」
「な、何で笑うのよ!」
「いやお前は本当に素直じゃないんだなって」
「なぁっ?!」
レイはセナはただ意地悪で自身らのユニットを解散させたい訳ではないのだとこの時気づくのだった。音楽へのプロ意識にレイが感心している中、セナはふと話題を変える。
「そ、そういえばあなた達、普段どこで練習してるのよ?学校ではまさかやってるわけないでしょ?」
「……ん? ステラの家だ。今日もこの後行くつもり」
セナの目がバッと見開かれる。
「……へっ?! ま、ま、まさか二人きりじゃないでしょうね?!」
「あ、あいつの両親、海外出張中らしいから二人だけだぞ」
「な、な、な、なぁああああっ!! い、いやらしい!いやらしすぎるわ!!」
テーブルに手をつき、思わず身を乗り出すセナ。
「ス、ステラの家に防音室があるからだって!」
「も、もっといやらしいじゃない!!」
セナの頬はさらに赤く、ポテトを握りしめてプルプル震えている。
「い、いやらしくない! ただ日曜に向けて必死に練習してるだけだ!ス、ステラもそうだし、お前もだ! エロい妄想すんなよ!!」
「え、エロですって?!お、幼なじみなんでしょ?!そのシチュエーションで想像しないわけないじゃない!!」
「ね、ねぇーよ!バイオリンとピアノの上品なイメージが壊れるからそういうのマジでやめてくれ」
セナは大声で叫びながら、鼻息も荒く手を振り回す。
「と、とりあえずわかったわ! 二人きりにさせるのがいかに危険ってことが!今日この後オフだし、私もステラちゃんの家行くから!」
「はぁっ?!」
レイはテーブルに突っ伏しそうになりながら、肩をすくめるしかなかった。
店内の他の客からはただの「元気な女子学生の騒ぎ」にしか見えず、セナは赤面と鼻息荒げながらも、完全に自分の世界に入っていた。
「……ほんと、なんで俺の周りは落ち着きがないんだ」
レイはそう独り言を言う。こうして夜二人はステラの家へ向かうことになったのだった。




