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第22章「理由」

朝の光が差し込むダンス科の教室。

ざわめく声と笑いが混ざる中、レイは鞄を肩から降ろし、いつもの席に腰を下ろした。


その隣――セナがすでに座っていた。

彼女の表情はどこか不機嫌そうで、眉間にうっすらと皺が寄っている。

レイは横目でちらりと見やり、心の中で小さく首をかしげた。


(セナ……なんか機嫌悪そうだな。昨日のこと、気にしてるのか?)


緊張感を孕んだ沈黙。

教室のざわめきの中で、二人の間だけが張り詰めていた。


やがて、セナがふいに口を開いた。


「レイ」


レイは少し身を固くして振り向く。


「ん?」

「今日、放課後……空いてる?」


突然の問いかけに、レイは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。


「あ、ああ。空いてるけど」


すると、セナはわずかに視線を逸らしながら、短く告げた。


「みなとみらいの山下公園にきてくれる?二人きりで話があるの。」

「わかった。五時集合でいいか?」

「ええ」


その声音は、命令とも懇願ともつかない微妙な響きを帯びていた。


二人のやり取りを、後方の席から聞いていた者たちがいる。

メガネをかけた長身のユーリが、ニヤリと楽しそうに笑い、アルヴァンは不安げに眉をひそめた。


「おお……セナ嬢とレイのケンカか?これは面白い展開になりそうだな」

「で、でもちょっと心配だね。セナ、なんだか本気っぽいし……」


教室のざわめきの中、レイとセナの周囲だけが別の空気を纏っていた。

その小さな緊張は、今日の放課後に何かが起こることを予感させていた。


--

お昼休み。

初夏の風が心地よく吹き抜ける屋上。

青空の下、レイたちは思い思いにお弁当を広げていた。


「やっぱりセナ嬢来ないな。なんでだ?」


唐揚げをほおばりながら、ユーリが軽い調子で切り出した。


「さ、さぁ俺も本当にわからん」


レイは曖昧に答えながら、ちらりと隣のステラを見る。

ステラは気まずそうにおにぎりを口元へ運んでいた。


「あ!そうそう!そういえば偶然昨日私見ちゃったのよ!」


にやりと笑ったのはアオイだった。


「レイとステラを!江ノ島で二人きりでいたわよね!なーんかデートっぽかったなぁ?」

「で、でーと!?」


ステラが顔を真っ赤にして箸を落としそうになる。


「ち、違う!ただ……ちょっと寄り道しただけで!」


レイが慌てて否定すると、ユーリがすかさず口を挟んだ。


「へぇ〜、寄り道で江ノ島?寄り道で夜景とか?」


楽しそうにからかうその声に、アルヴァンが少し困ったように苦笑する。


「ユ、ユーリ君、レイもステラも困ってるよ」


そう言いつつも、どこか微笑ましそうに二人を見ている。


「でもさ、ほんと仲良さそうだったよね」


アオイはにっこり笑って追撃する。


「ほら、ステラなんて普段素直じゃないのに、レイといるとき妙に表情柔らかいんだもん」

「な、なぁっ!ア、アオイ、余計なこと言わないでよ!」


ステラが声を上げ、慌てておにぎりを頬張ってごまかす。


「ははっ、図星か?」


ユーリが肘でレイの肩をつつく。


「ち、違うって!」


レイは顔をしかめながらも、どこか居心地悪そうに視線を逸らした。


――ひとしきりからかいが落ち着いたところで、レイはふと真面目な顔になった。


「それはそうとアオイ。セナのこと、なんか知ってるか?なんか逃げてただろ?昨日」


屋上に一瞬だけ静けさが落ちる。

アオイは箸を止めて、レイをじっと見つめ返した。


「うーん……私もわかんないわ」

「そうか。今朝、教室でちょっと変だったんだ。なんか……不機嫌そうで。俺そんな悪いことした記憶ないんだよな」


レイは少し言いにくそうに目を伏せる。

アオイは小さく息をついた。


「レイとステラのあのパフォーマンスを見て何か思うところがあったんじゃないの?」


「パフォーマンス?」とユーリとアルヴァンが同時に声をあげる。ユーリはレイに興味深そうに尋ねる。


「なになに??ステラちゃんのために踊ったの?」

「いや、別に踊ってない。」


その質問に答えたのはステラだった。


「二人は知らないかもしれないけどレイはね。実はスッゴいバイオリニストでもあるの。それで昨日色々あって私と一緒に演奏することになって……」

「へぇ……レ、レイ君、バイオリン弾けたんですね。初耳です。」

「ま、まじか。レイ、お前なんでもありだな」


アルヴァンとユーリが驚く中、レイは話を切り出す。


「まぁ今日放課後、山下公園で二人きりで話をしたいって言われたから話してくるよ。」

「!!」


レイのその言葉を聞き、ステラは嫌な予感がして密かに自分も行くことを決心するのだった。

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