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第18章「女の嫉妬」

月曜日の朝。


夕陽ヶ丘高校・ダンス科の教室は、週明けとは思えないほどの熱気に包まれていた。

話題の中心はもちろん――昨日、ネオ幕張アリーナを揺らしたセナ=フォスターと、その背後で踊ったレイ=ヴァレンタイン。


「セナちゃん、昨日のライブ見たよ! すっごかった!!」

「もうテレビでもネットでも話題になってるんだよ! 本当にプロのステージだった!」


クラスメイトに囲まれたセナは、椅子に堂々と腰かけ、ツンと顎を上げて笑った。


「当然よ! 私は“情熱の歌姫”セナ=フォスターなんだから!」


キラリと光を帯びた瞳、堂々たる自信。

そのカリスマ性に、周りの女子たちが一斉に悲鳴をあげる。


「きゃあああああああ!!!」

「セナ様~~!!かっこよすぎる~~!!」


黄色い声援にセナが満足そうに微笑んだそのとき――話題は自然と、彼女の隣に座るレイへと移っていった。


「ねね! 昨日のバックダンサー、あれって……レイ君だよね!?」

「そうそう! 黒い衣装でさ、超キマってた!」

「マジでかっこよかったよ~~~!」


一気に視線が集まり、レイはわずかに肩をすくめる。


「ああ、まあ、急きょ出ることになってな」


その答えを聞いた瞬間、女子たちは一斉に歓声をあげた。


「キャー! やっぱりレイ君だったんだ!」

「昨日のあのダンス、めっちゃセクシーだったよ!噂で聞いたんだけどあの振り付け、レイ君が考えたんでしょ?!」

「ねえねえ! 今度一緒にお茶しない?」

「放課後、映画行こうよ~!」


次々と手を伸ばされ、レイの肩や腕に触れる女子たち。

「わ、ちょ、近い近い……!」と困惑する彼をよそに、黄色い声援は止まらない。


その光景を目にしたセナの眉がピクリと動く。


(な、なによ……! 昨日は私の後ろで踊ってくれてたくせに……! なんで女子に囲まれてニヤけてるのよ!?)


もちろん、レイはニヤけてなどいない。むしろ困り果てているのだが――セナの目には、彼が女子にモテモテな様子がやけに眩しく映った。


「ちょ、ちょっと! レイは昨日のライブできっと疲れてるから休ませてあげなさいよ!」


思わず立ち上がり、セナは声を張り上げる。


「えー? セナちゃん、嫉妬してるの?」

「だってレイ君、昨日めちゃくちゃかっこよかったもん~!」


女子たちの茶化しに、セナは顔を真っ赤にしながらも腕を組み、ふんと横を向いた。


「なぁっ!!べ、べつに違うわよ!!!ただ……ただレイは“私の”ステージを支えてくれたんだから! 身体が心配でっ!!」


その言葉にクラスがざわめき、女子たちは一斉に「キャーー!!」と悲鳴をあげる。


「“私のレイ”だって~~!?」

「やっぱり二人って特別な関係なんじゃないの!?」

「ち、ちが……っ!!」


セナは慌てて否定するが、火のついた頬は隠しきれなかった。


その様子を机に突っ伏しながら遠くから眺めていたユーリが、肩を震わせて笑う。


「ははっ、セナ嬢、わっかりやすっ! これ以上ねぇくらい嫉妬丸出しじゃん!」


アルヴァンは青ざめながら、冷や汗をかいていた。


「や、やばい……このこと、ステラさんにバレないようにしないと……ユーリ君、ステラさんには言わないほうがいいと思う」

「わーってるって!」


ユーリは笑顔で自信満々に答えたのだった。


--

初夏の陽射しが眩しく、風は涼しくて心地よい。青空の下、屋上のフェンス近くでレイ、ステラ、セナ、ユーリ、アルヴァン、アオイの6人は円になってお弁当を広げていた。

芝生のような匂いを運んでくる風が、セナの髪を揺らし、ステラのショートヘアを軽く撫でる。


最初に口火を切ったのは、やっぱりユーリだった。


「――ということでぇ! 本日レイは、ダンス科の女子たちにモッテモテでございましたー!」

「は?」


ステラは箸を止め、眉をひくりと動かす。アルヴァンはユーリを見て、ため息をつき「君を信じた僕が馬鹿だった……」など呟いていた。


「ちょっ、ユーリ! 余計なこと言うなって!」


レイが慌てるが、ユーリは得意げに続ける。


「いやー、女子に囲まれちゃってさ。『レイ君、デートして!』とか『超かっこよかった!』とか……まるでアイドルだぜ! な、アルヴァン?」

「え、えっと……確かに、すごい騒ぎでした……」


アルヴァンが困ったように笑い、セナはお弁当を口に運びながら無言でいた。


「……へぇ」


ステラはにこりと笑顔を浮かべるが、その声色には氷のような冷たさが混じっていた。


「お、おいステラ……?」


レイがぎくりとする。

アオイが涼しげな笑みで口を挟む。


「レイ、気をつけなさいよ。ステラの“へぇ”は危険信号だから」

「なっ、なんだよそれ!」


レイが慌てて両手を振ると、ステラは耳まで赤く染めて立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。


「ち、ちがうよ!? 別に怒ってなんか……! ただ……っ」

「ただ?」とユーリがわざとにやけて促す。


「……ただ、そんなに軽々しく女子に囲まれるのって……ふ、不潔だと思うよ!」

「不潔!?ひどすぎだろ!?俺は何もしてねーじゃねーか!」


レイが頭を抱えると、屋上に笑い声が広がった。

ユーリは腹を抱えて笑い、アルヴァンは「わ、笑っちゃだめですって!」と慌てて口を押さえる。


セナはそんなやり取りを眺めながらステラの気持ちを察し複雑な気持ちだった。


(やっぱり……ステラちゃん、レイを狙ってる……女の目をしてる)


初夏の風が吹き抜け、青い空と若葉の匂いが、6人の賑やかな昼休みを包み込んでいた。


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