1月の寄り道先
「今日はさ、うちの駅に降りてみない?」
珍しく周平が新しい提案をした。
1月の土曜日。周平が企画した会社のイベントが開かれた。例年今の時期に開かれるのだが、周平の提案で、今年は取引先の他に近隣の一般の入場者も呼び込んで会社を知ってもらおうという趣旨になり、人数をさばくためほとんどの社員が休日出勤した。イベントは滞りなく終わり、遅い昼食を兼ねた打ち上げの後、真紀が赤松駅に向かうと周平がいた。
「おつかれさま。大成功だったじゃない」
「お陰さまで。真紀もご苦労さん。風船配り、子供にひっぱりだこだったな。」
見られていたとは知らなかった。恥ずかしい。
「うまく渡せなくて風船が飛んでっちゃって。大泣きされちゃった」
「見てた、見てた。真紀の方も泣きそうになってたろ」
初めての大仕事を終えた周平は少し興奮して饒舌だった。電車に乗り込んでからも、しばらくイベントの話を夢中で話している。しかし浅葱駅に近付く頃には、落ち着いたのか寡黙になった。
「3時頃に電車に乗るのって、なんかさぼったみたい。変な感じ」
真紀が話しかけると、周平は難しい顔をして窓の外を睨んでいた。
「・・・疲れた?昨日も準備で遅かったから」
真紀の声にぱっと気付いたように顔を向けた。
「いや、そうでもないけど。ごめん、ぼうっとしてた」
彼は何か躊躇っているようだったが、しばらくして、
「今日はさ、うちの駅で降りてみない?」
と言った。周平の最寄駅である笠倉町は、繁華街ではあるが真紀の浅葱駅よりは小さく昭和の面影が残る古い街だ。
「笠倉で?」
「うん、高校時代から行きつけの喫茶店があるんだけど、そこに連れて行きたいな、と思って」
彼は迷うように顎の先をさすっていた。
「古い店なんだけど。アイリッシュコーヒーを出す店なんだ。昼は喫茶で夜はバーになる。今日結構寒いし、暖まるよ。ウイスキー大丈夫なら」
「アイリッシュって、角砂糖にお酒かけて火を点すやつ?」
「いや、そこのはまた違うんだけど。なかなか喫茶やってる時間に誘えないし。コーヒー友達の真紀には一度味わってもらいたいと思ってたんだけど」
「・・・じゃ、是非」
コーヒーにも惹かれたけれど、またひとつ、知らない彼を見られることにわくわくする。真紀は自分の駅を一つ乗り越し笠倉町で降りた。




