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戦国生存記  作者: 現実逃避
174/180

174 目覚め


(ここは……)


重たい瞼を開くと知らない天井だった。

たぶん、二度目だろう。

起き上がろうにも体は重く動こうとしなかった。

何とか起き上がろうとしていると、板戸が空き二人の男が立っていた。顔をよく見ようと頭を動かすと二人は驚き次の瞬間…。


「お、大殿!!誰か!大殿が目を覚まされたぞ!」

「誰か!医者と原様を呼んで参れ!」


大声で叫んだかと思えば外が騒がしくなり、二人が慌てて側に寄ってくる。


「信尹…、それに利治、大声を出すな。耳が痛い」

駆け寄ってきた真田信尹と斎藤利治の二人に身体を起こすのを手伝わせ何とか上半身だけ起き上がった。いつの間にか、鎧兜は脱いで布団に寝かされていたようだ。


「信尹、ここは何処だ?」

「ここは、諏訪大明神にある屋敷に御座います」


諏訪大明神と聞いて、一瞬思考が止まった。豊後水道にいたはずがいつの間にか信濃まで戻ってきたのかと思ってしまったからだ。


「待て、諏訪だと!何故信濃に居るのだ?戦はどうなった!」

「大殿、どうか落ち着いて下されませ!ここは豊後にある諏訪大明神に御座います!」


は?


義照が呆けているのを見て信尹は落ち着いてから説明を始める。


まず一騎打ちをし、勝利したが出血が多く気を失っていたこと。あの後直ぐに治療をされたが十日も意識が戻らなかったこと。戦は続いており、今は島津軍も合流し臼杵城を包囲していること等、多岐にわたった。


ちなみに、諏訪大明神がここにあるのは大友宗麟の代に信濃の諏訪大社から勧請かんじょうした為らしい。諏訪大社からは何も聞いていないので、豊後にあることを全く知らなかった。


「叔父上!目が覚めましたか!」

「大殿!」


話を聞いている内に甥の仁科勝正と三家老の原胤盛がやって来た。後ろには信濃から連れてきた医師達や島津家にいた洪庵が困り果てた顔で立っていた。


「皆様、診察しますので暫しお待ちくださいませんか?」

医師団から追い出され、暫く診察がされた。自分をよく見ると包帯でぐるぐる巻きにされかなり斬られていたのだと実感させられた。


「大殿、傷が完全に塞がるまでは絶対安静でお願いします。それと、血を多く失っておりますので赤身の肉を食べられた方が回復が早くなると思われます」


「わかった。お主達に任せる」

医師団の見解は出血多量による失血死寸前だったようで運が良かったようだ。

診察が済むと今度は外で待たされていた家臣達が入ってきた。


「大殿……ご無事で…何よりに御座います。……申し訳御座いませぬ!!」


入ってきた家臣達の中に香宗我部親泰もいた。その顔は涙や鼻水等でぐしゃぐしゃになっていた。謝ったのは義照が死にかけたからだ。


「泰親、先に言っておくが責任云々は儂にある。儂が決めたからな。さて、現状の報告と海戦の結果を報告してくれ」


そのまま眠っていた間の報告を聞いた。

まず、海戦は多大な犠牲を払ったが勝利した。日ノ本連合水軍のうち今回の海戦に参加した船の凡そ七割を失った。信濃村上水軍だけで言えば連れてきた内の六割失っていた。その中には戦列艦、天照と建御名方も含まれている。

建御名方は意識を失った後、敵の包囲に突撃し敵を殲滅したがそのまま沈没したそうだ。

しかし、数隻のガレオン船を道連れにし敵の敗走を決定付けたそうだ。追撃を行ったが、結局数隻逃げられた。


海戦後、救助と治療活動を行い海上封鎖を行った。封鎖と言うが南蛮船は港におらず、直ぐに包囲が出来た。地上部隊の連合本隊は臼杵城を包囲し城攻めを行ったが城に設置された大量の大筒のせいで手痛い被害を被ったらしい。勿論、港側にも配置されていたがこっちは無力化した。だが、港から城へは砲弾が届かず手が出せないそうだ。


「それで、包囲し続ける長期戦となったわけか。そう言えば泰親、降伏した南蛮人共はどうした?」


「は、閻王に乗り込んできた者達は負傷者も多くこちらの指示に従順な為、屋敷を一つ借り全員同じ場所に入れております。無論、屋敷周辺には兵を配置し逃げれぬようにしております」


「奴はどうした?ロドリゲスとか言ってた奴だ」

「生きております。同じく屋敷の中です」


ロドリゲスは顎が外れ、肋骨が折れていたくらいで後はほぼ無傷らしく義照より元気だった。今は治療を受けて大人しくしているようだ。


「……所で誰が我が軍の指揮を取っておる?」

報告を聞いているとふと誰が軍の指揮をとっているか気になった。


「はっ。その、名目上は仁科義勝様に御座います。しかしながら、実際の指揮は私(胤盛)と利三が行っております。」


胤盛の話によれば包囲に参加しているが戦闘には参加していない。しかし、名目上とはいえ馬鹿兄が大将とか頭が痛い。なんでも、他は大名自身出ている為、最低でも一門をということで名目上大将になったらしい。

こんなことなら国清を連れてくるべきだった。


「なら、暫くは胤盛、利三、後……信尹お主達が指揮をせよ。水軍は泰親に任す。敵が来た際迎撃出来るようにせよ」


「畏まりました」

「大殿、仁科様はどうされますか?義勝様の御命令でここに護衛として付かせておりましたが…」


「そうだな…ここでは武功も…」

ふと、勝正の方を見ると目を輝かせている。余程、戰場に行きたいのだろう。昔の馬鹿兄そのまんまだ。だが、ふと疑問が生まれた。あの馬鹿兄が何故次男とはいえ息子をここに置いたのかと。


「勝正…」「はい!戦場に行ってきます!」

名前を呼んだだけなのにもう戦場に行く気満々だった。


「何も言っとらんわ。馬鹿兄を呼んできてくれ。出来れば直ぐに」

「……はい、呼んできます……」

さっきまでのハイテンションから打って変わりしょんぼりして出ていく。念の為、家臣の雨宮に追いかけるよう指示を出した。


 連合軍本陣は難航する城攻めに頭を悩ませていた。相手を追い込み一気に城を攻め大手門まで進むも待っていたのは大砲の雨霰だった。攻め手の兵と武将は成すすべなく全滅させられた。


「このまま包囲しておいてはこちらの兵糧が先に尽きてしまう。何か手はないか……」


「あれだけの大筒を撃ったにも関わらずまだ撃てるか」


「いや、次こそは火薬が尽きているはず。ここは一気に攻めかかるべきだ!」


「馬鹿を言え。次に総攻めをし失敗すれば、兵の士気は愚か立て直しも利かぬぞ!」


「しかし、夜襲まで防がれては……」


本陣ではどう攻略するか連日話し合いが行われていた。一度目で一日中砲撃されたので、火薬が尽きただろうと二度目の強攻をかけたが、一度目と変わらず砲撃を受け壊滅した。その為、正攻法では敵わないと思い夜襲を仕掛けるも待ち伏せを受け敗北した。

その為、安易に攻められなかった。


「それに一度出て来た南蛮兵共には鉄砲が全く聞かなかった!何なのだあの鎧と盾は!」

「いや、龍造寺から掻っ払った大鉄砲は効いていた。三十匁なら通じるわ!」


結局、方針が定まらず解散となり、義勝は自分の陣地に戻った。


「父上(義勝)〜、やっと戻って…ギァァァァ〜割れる割れる!!」


「勝正、何故ここにいる?諏訪で謹慎してろと命じたよな?」


義勝は両手で握り拳を作り、目の前にいる勝正のこめかみを両側から拳の先端を挟み込むように宛がって、そのままネジ込みながら圧迫した。

勝正は悲鳴を上げ、その声は隣の陣の吉川軍の元まで届いた。


「仁科様、大殿が目を覚まされました。仁科様にすぐに来てほしいと。」

勝正が悲鳴を上げている中、念の為追いかける様に命じられていた雨宮昌茂が義勝に伝える。


「それを先に言え。直ぐに行くぞ」

義勝は勝正を解放し陣地を出ようとした。すると、丁度悲鳴を聞いた吉川元春の命でやって来た息子の元長がやって来ていた。


「仁科様、先程悲鳴が聞こえたのですが何がありました?」

「元長か。元春には家の倅(勝正)が馬鹿をしたから仕置していただけだと伝えてくれ。あ、それと、義照が目を覚ましたからちょっくら諏訪大明神まで行ってくると伝えてくれ」


「は、はぁ、畏まりま……エェッ!村上様が目を覚まされたのですか!」

元長が義勝の爆弾発言に驚き詳しく聞こうとしたが、義勝は既に馬に乗ってその場から離れていた。

その為、慌てて陣地まで戻り父元春に報告するのだった。



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