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戦国生存記  作者: 現実逃避
171/180

171、戦の連鎖

西で南蛮との戦が始まろうとしている頃、東側の日ノ本各地では戦が起こっていた。


紀伊 広城


足利義尊率いる足利軍は燃える広城を本陣から見ている。


「報告します。広城落城!敵将遊佐信教討ち取りました!」

伝令が足利本陣に駆け込み報告する。


「討ち取ったか……畠山政尚は見つかったか?」

「まだ見つかっておりません!!」


義尊の質問に伝令は答える。今回の紀伊征伐は直ぐに終わりそうだった。畠山政尚、遊佐信教に従っていた者達以外は直ぐに人質を差し出して義尊の元に集った。中には元将軍義昭を殺した際信教や政尚についていた者も居たが、その者達は打ち首にしその幼子らや無関係の者達は領地召し上げを条件に許していた。

その為、信教と政尚に従う者は千人にも満たなかった。


また、高野山と熊野本宮は義尊が紀伊雑賀に入った時点で使者を送り保護して貰うことを条件に武具を捨て恭順することを伝え義尊達に許された。使者として来た木食応其から、逆賊遊佐に組する者達を保護しないこと、来た場合捕えて引き渡す約束までしたのだ。


「高野山や熊野本宮に逃げ込んだとしても約定を守るなら連れてくるな。山狩りを行い畠山政尚を徹底的に探しだせ」

「ははぁ!!!」

義尊の命で伝令が各陣に向かう。

残っているのは義尊の直臣や和田惟政、三渕藤英等元幕臣達だった。和田や三淵の兵は息子等に預けられ城攻めの先陣を務めていた。


「……これで叔父上(義昭)の仇討ちは済むな。成仏してくれるとよいな」


「きっと亡き上様(義昭)の御無念も晴れることでしょう」


(そうだと楽なんだがな……)

三淵は言いながらも、実際は無理だと思っていた。確かに殺したのは遊佐信教だがその原因を作ったのは自分達であると自覚していたからだ。


「そうだな……さてと、我等はこのまま紀伊の国を回る。我等が統治することを知らしめるためにな」


義尊は指示をすると本陣から出て燃え盛る広城を見続けた。

数日後、山に隠れていた畠山政尚が捕えられ、即日斬首にされるのだった。その後、義尊は紀伊の国中を回り自身が統治することを知らしめるのだった。



相模、小田原城


「たったこれっぽっちの軍でこの小田原城を落とそうなど笑止千万!」

小田原城天守閣で北条氏政は眼下の村上軍に吐き捨てた。


「父上、風魔の対策も済みました。侵入されることはありません。」

息子の氏国が家臣を連れて天守閣に戻る。抜け道や隠し通路等、風魔の知っている所は全て塞いだり見張りを配置した。

輝忠率いる村上連合側は北条綱成や氏直に鞍替えした者達を合わせ三万の兵になっていた。対し北条氏政側は掻き集めて四万にもなっている。

圧倒的な兵力差があるが氏政達は野戦を選ばなかった。いや、選べなかったのだ。

亡き父氏康が二万を率いて武田の援軍に向かった際、村上家の兵器で大損害を出したことを氏政を始め残っていた重臣全員が体験していたからだ。その為、拡張を続けた小田原城もそれらの兵器に対策をした造りにされていた。

また、関東管領率いた八万の連合軍も撃退したことも小田原城の堅牢さを物語っていたことも籠城の決め手だった。


そして、氏政のこの判断は半分正解だった。


村上連合軍本陣ではどう落とすかで話し合いがされていた。

伊豆水軍と元里見水軍がこちら側に付いた為海上封鎖は出来ているが、地上では兵の数で劣っており城攻めに躊躇していた。

北条が野戦で攻めて来てくれれば勝ち目があっただけにこの問題は大きい。


「父上(義照)が言った通りこの城(小田原城)は簡単には落とせないな……」


「しかし、小田原城を落とさぬ限りこの戦終わりませぬ」


「氏直殿、小田原城にはどれくらい籠城出来るか?」


「野戦をせず籠もるだけなら五年は耐えられるよう用意されております」


氏直の言葉で本陣に居る者達の顔に暗い影がちらつく。

五年も小田原城に張り付いておくことは出来ず、更に東北では大乱が巻き起こっており、佐竹は本領を長くは空けておけなかった。


「このままでは埒があかんな。左近、何か策は無いか?」


「はっ。長期戦を見越し石垣山に城を築きます。また、こちらは寡兵ですので攻めることはしません。しかし、敵を挑発し城から引き摺り出す構えです。それと同時に、金堀衆を中心に城の地下へ穴を掘り城内に侵入致します」


左近が策を説明して行く。全て、前以て考え出されていた策だ。

ただし、左近は一つだけ黙っていた。

悪逆非道では収まりきらない策を昌幸、利治、そして義照と考えていたからだ。発案したのは義照である。


「我等は伊達の動き次第で戻らねばなりません。長期戦は避けたいところ」


「……佐竹殿。それは皆同じだ。ならば、出来るだけ早く戦を終わらせようぞ」


佐竹義重の言葉に輝忠は答えた。しかし、戦を終わらせるにも目の前の聳える小田原城が落ちないことには終わらない。

その事に本陣は更に重い空気に見舞われるのだった。


そして、更に北。

南部、安東の領地を除く東北全てを治めていた奥州の大名伊達家が前当主輝宗とその次男蘆名宗盛とで割れた。

原因は、長尾家との和睦で蘆名家重臣と領地を明け渡すことだ。


和睦後、輝宗が奥州に戻る前に和睦の条件が蘆名側に漏れ、蘆名家臣団と宗盛が反乱を起こした。


宗盛達の言い分は「伊達家からの命令で越後に侵攻したのに切り捨てられる等納得出来るか!」と言うもので、蘆名家臣や伊達に不満を持っていた最上、葛西、二本松等が反旗を翻した。


流石にこれについては輝宗も寝耳に水で、政宗に勝手に命令を出したのか問い質した。しかし、政宗も含め誰もそんな命令は出していなかった。だが、蘆名側が送りつけてきた書状は間違いなく伊達家の物だった。

その為天文の乱以降、輝宗が心血を注ぎ力を取り戻し拡大した伊達家は再度割れた。



奥州 米沢城


「岩城常隆、留守政景、城に籠もり中立すると宣言!!」


「黒川晴氏、二階堂盛義離反!蘆名側に寝返りました!」


「田村清顕殿!家臣大内定綱が離反した為兵を送れぬと使者が来ております!」


伊達家の居城米沢城は多くの人が駆け回っていた。各地からの報告や離反者達の動向等多くのことが持ち込まれた為だ。


「岩城と留守が動かぬとは……。」


「全くご隠居(輝宗)の兄弟と言うのに何を考えておるのか」


岩城と留守は輝宗の兄と弟が家督を継いでいる家で、伊達一門であった。


「兵の集まりはどうか?」


「正直宜しくありません。各地の守りを残さなくてはなりませんので多くて二千五百から三千程かと…」


「どいつもこいつも御隠居への恩義を忘れよって!」

鬼庭左月斎が大声を上げると集まっていた者達からも同じ様に非難の声が上がった。


「小十郎、村上と佐竹から援軍はどうなのだ?」

輝宗の横にいた政宗は片倉景綱に尋ねる。既に援軍の要請は送っていたからだ。


「どちらも、北条を攻めている為直ぐには不可能だと。特に村上は北条の他に、紀伊と西国に大軍を送っておるようですのでまず、当てになりません」


「話になりませんな。村上程の大国なれば援軍くらい送れるだろうに!」

景綱の言葉に他の家臣達も不満を漏らす。


「それまでにせい。…長尾と安東の動きはどうか?」


「長尾家は揚北衆と謀反を起こした者達の討伐に向かいました。しかし、越中の方が不穏との知らせもあります」


「安東は由利衆を取り込み、昨年には戸沢道盛を討ち取り領地を制圧しております。その後は最上義光と和睦しておりますが、今のところ動きはありません」


輝宗の質問に遠藤基信、内馬場右衛門が答える。どちらも輝宗の腹心だ。


「安東は朝倉と同盟している。越中の不穏な動きは朝倉の手引きかもしれぬな。安東も最上の援軍として出てくるかもしれぬ」

「南部への謀略は失敗でしたな。こうなるなら、しなければ良かったか」


伊達は南部を攻めるために、かなり前から晴政と信直を仲違いさせる為に噂を流していた。内容を簡単に説明すると養子の信直を殺して、実子の晴継を当主にしようと言うものだ。

実際、晴政は信直を廃嫡して晴継に継がせると宣言していた。

そして、タイミング悪く今回そのことが原因で信直が反乱を起こし晴政と戦を始めたのだ。


「仕方あるまい。反乱が無ければ我等が南部を攻めていたのだからな。出来れば安東の目が北(南部)に向いてくれたら良いんだがな……。どちらにせよ反乱を一つ一つ潰して行くしかないな」

輝宗は今回の騒動を苦々しく思いながら、次々指示を出していく。

そして政宗は周りの様子を見ながら自分にも何か出来ないかと必死に考えるのだった。


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