162 隠居に向けて
今年最後の更新です
元亀九年(一五七八年)十一月
比叡山延暦寺炎上
この事は日ノ本全ての寺社を震え上がらせ、大名、公家達も驚愕を禁じ得なかった。
越前 一乗谷
「村上が本当に延暦寺を燃やすとは…。浅井は何と言っておるのだ!」
「え、延暦寺は既に堕落しており滅ぼされてもやむ無しと…」
「浅井は延暦寺の寺領を全て貰ったからその様なことを言うのではないか!」
義景の怒号に浅井家に使者として行った家臣は伏して頭を下げる。
延暦寺が燃え尽きた後、村上軍は近江から撤退し信濃に戻っていた。
そして延暦寺の土地は全て浅井家への迷惑料という事で渡されていた。そのお陰で長政は名実共に近江一国全てを得た。だが、延暦寺の土地に生き延びた大人は義照に許されていた寺の関係者か、包囲前に逃げた者だけだった。
「管領の命令として長政をここへ呼び出せ!!」
義景は怒鳴りながらも長政を呼び出させる為、再度浅井家に使者を送るのだった。
信濃 上田某所
(…福には辛い人生をさせてしまったな~。しかし、よく眠っているな)
その頃、信濃に戻った義照は小さな屋敷の縁側で昨年産まれた双子(娘)とゆっくりと庭を見て過ごしていた。と言うのも、上田城に戻った後、倒れてしまった為だ。
倒れたことで城中大騒ぎになったが、昌祐と輝忠によりすぐに箝口令が敷かれた為、外部へ漏れるのは最小限となった。
これも孫六達陽炎衆が噂を流す者等を始末したお陰だ。なんせ、比叡山を焼いた後だった為にもし知られたらその影響は計り知れなかった。
義照は二日間眠りに付いていたが、三日目に目を覚ました。
医師からの診断は心労と過労の為と言うことだったので、現在家臣達によって静養と言う名の監禁にあっている。年内は、静養してくれと懇願されたので義照も受け入れていたのだ。
そして、双子は奈美の母親だった福の子供だ。福は難産で産後の肥立が悪かったのと奈美の事で精神的にも参っていた為か延暦寺焼き討ちの前に亡くなった。看取ってやることが出来なかった。
双子が産まれた際、忌み子なので片方の子を殺すべきと医師やその助手と一緒に参加していた産婆が言ったので俺はブチキレて産婆を危うく産屋で殺す所だった。
確かに双子は古くから忌み嫌われていることは知っていたが、子は宝なので殺すようなことは絶対にしない。
福が亡くなった後は乳母を付け、その者達にも双子に何かあれば一族まとめて撫で斬りにすると優しく伝えたので害を加えることはないだろう。
「さて、これからどうするか……」
信忠の首は野犬の餌に、高僧どもは延暦寺山頂で烏と虫の餌にした。そして延暦寺の寺領は全て浅井家にくれてやった。持っていても価値は無く、朝倉のうるさい口先を浅井に向ける為だ。
また保護した子供や赤子は寺の許容範囲を越えていた為、突貫で長屋を建てそこに住まわせた。これも後の事は浅井に丸投げだ。
「失礼致します。輝忠様がお越しになられました」
「ここへ案内せい」
娘をあやしていると輝忠がやって来たと護衛が知らせに来た。
別に城ではないから気にせずに入ってくれば良いものを…。
護衛に案内され来たのは輝忠だけではなかった。
次男の兼照と三男の照親も一緒だった。
三人も来たので娘達は侍女に乳母の元に連れて行って貰った。
「父上、倒れたと聞きましたが大丈夫でしょうか?」
「見ての通りだ。別に問題は無い。なのに輝忠達がな~」
「父上(義照)!あの時は大変だったのですよ!急に父上が重臣達の前で倒れられ、義父(昌祐)と兄上(輝忠)が箝口令を敷いたのですから…」
兼照へ返事を返すと照親が詰め寄ってから言ってくる。照親の妻は他国ではなく筆頭家老の昌祐の娘にした。
一つは重臣の娘を妻にさせることで関係を更に強め、他国から取らないことで外部からの介入を防ぐためだ。ただ、これをやり過ぎると後々重臣が自身の血族を当主にしようとする可能性もあるので気を付けなければいけない。
ただ今回は輝忠が家督を継ぐことはほぼ決まっており、昌祐や息子の祐久は乗っ取りなどは微塵も考えていないので進められた。
「せめて私には教えてくれても良かったのに…。来たら倒れたと兄上に言われどれだけ驚いたことか…」
「兼照、済まんな。それで、今日は三人揃って何事か?」
「はい。婚姻同盟についです」
三人は顔を見合せた後、輝忠が答えた。
「その様な話が来ているのか?」
「はい。伊達、佐竹から来ました。それと、夕の嫁ぎ先についても話に…」
「夕か…。氏直との婚儀が流れてからあまり話せてないな…。それでどうするのだ?」
夕は自分の娘だが氏直との縁談が流れてから殆んど会話が出来ていなかった。
関東同盟を結んだ後、文で氏直とのやり取りをしており、手紙が来る度に笑みを浮かべて読んでいるのを度々見かけており正直悪いことをしたと思っていた。
「はい。まず…」
輝忠達が婚姻について説明し始める。まずは義照は黙って最後まで聞く。
そして説明が終わると口を開いた。
「伊達と佐竹に付いては認める。照親、御主が進め纏めてみよ」
伊達輝宗から嫡男政宗の、佐竹義重からは嫡男徳寿丸(後の義宣)の正室を欲しいと言ってきており、三人は伊達政宗には輝忠の長女華を嫁がせ、佐竹徳寿丸には二女の雪を嫁がせると言ったので認めた。
格下の佐竹との婚姻を認めたのは長年の同盟相手だったのと佐竹側から、娘を貰う代わりに従属を申し入れてきたからだ。義重は戦より安定を望んだということだ。まぁ、史実の織田と徳川の関係に近いだろう。
これで東北の方面は固くなるだろう。何せ、東北の大部分は伊達が押さえているからだ。まぁ、不穏分子(伊達政宗)がいるが…。
「次に兼照。毛利、朝倉、村上の三国の縁談、進めるのは認める。だが重臣同士で和睦の内容を決めてからだ。昌祐達が隠居したから筆頭家老の須田と新しく重臣に入った利治にやらせる。最後の署名の時に朝廷が立ち会えばよい」
「分かりました」
次に以前揉めた三国同盟については話を進めさせることを許した。
今回はきちんと手順を踏んで行うので多分大丈夫だろう。それに、これ以上、毛利、朝倉家を拡大させるのは不味い。
「最後に夕に付いてだが、輝忠、御主正気か?」
「はい。既に準備は進めています。後は許しがあればすぐに動けます」
輝忠の案は夕を予定通り北条氏直に嫁がせると言うものだった。
まず、和睦後の北条家だがほぼ二つに割れている。親村上か反村上かでだ。
反村上派は当主北条氏政、北条氏照、松田憲秀等、親村上派は北条氏直、北条氏規、北条綱成、大道寺政繁、清水康英等らしい。
北条幻庵はどっちか明確に示していない。恐らく双方を纏める為に敢えて言わないのだろう。
輝忠の案は氏直を調略支援し反村上派を始末し、その後伊豆か相模で従属させ、約定を守ると言う意味で氏直に夕を嫁がせる様だ。
ちなみに、孫六の話だと氏直は夕と同じで婚儀を物凄く楽しみにしていたらしく、手切れになった際氏政に食って掛かったそうだ。
全く、史実の信忠と松姫かよ。
まぁ、立場は逆だが…。
「氏直は騙せられるとして幻庵が問題だ。あの妖怪ジジイが居ては調略は通じんぞ?」
「北条幻庵は既にこちらに寝返ってます。北条家を残せるなら受け入れる…と」
「なん…だと……」
輝忠の言葉に義照は目を見開き言葉を失う。
「幻庵だけではありません。北条氏規を始め伊豆方面の北条家臣、それと風魔衆もこちらに付く用意は出来ていると」
「馬鹿なっ!風魔もか!!」
義照は驚きの連続で固まる。
(幻庵がこちらに寝返った?風魔も?罠じゃないのか?)
「輝忠、罠じゃないのか?それに、いつから調略をしていた?」
「尾張を制圧した後ぐらいからです。北条家に不満を持っている者を調査していた際風魔を通じ幻庵から接触してきました。そして、父上が倒れている間に寝返る者の名簿と起請文を寄越してきました」
「………分かった。条件として氏政、氏照の首か身柄を引き渡せと伝えろ。婚儀はその後だ。それと小田原城は必ず奪え。あれを落とすのは手間が掛かり過ぎる」
もう、深く考えるのを辞めた。幻庵と風魔が寝返った時点で北条の外交と防諜は節穴だらけで、残る最難題の小田原城も氏直が寝返るのであればなんとかなるかもしれないと思ったからだ。
「分かりました。直ぐに指示をします」
「父上、帝が父上に会って話がしたいと仰せになられておられますが如何されますか?」
輝忠の返事の後、兼照から帝が話をしたいと言うのだ。
(帝がか……。まぁ、こっちも用があるから最後に御挨拶に行くか…)
「分かった。年が開けたら伺うと伝えてくれ」
「分かりました。父上、京に来られましたらまた子供等に会うて下さい」
このあと暫く話をした後、三人は帰っていく。輝忠と照親は直ぐに北条の調略と婚儀に向けて話し合いを始めるのだった。
今年で完結するといいましたが無理でした。
いや~小説書くのは二作目ですが、上手く文章に出来ず苦戦してます。
さて、今後の予定ですが、来年1/2に更新します。(投稿予約済み)
その後ですが、今のペースで投稿し続けます。(完結までは書き終われば早くなるかも?)
感想に返信できず申し訳ありません。ですが、全て読んでいますのでどうか皆様には今後とも感想や指摘等よろしくお願いします。
それでは皆様、良い御年を




