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戦国生存記  作者: 現実逃避
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159 千客万来

元亀九年(一五七八年)九月

清洲城


「大殿、次は伊勢本願寺、下間頼成です」


「伊勢本願寺?あぁ、伊勢一向衆か。石山から誰か来ているか?」


「いえ。頼成一人です」


(頼成…、確か頼旦と共に伊勢一向衆の重役だったな。はぁ…面倒だ…)


尾張の統治の為清洲城に滞在している俺(義照)の元に多くの人が面会を求めてやって来ている。

織田征伐の祝いがほとんどだが、中には臣従や従属、親善目的でやって来る者もいた。


従属目的で来たのは伊賀の百地丹波、大和の師匠こと松永久秀の二人、親善目的が兄弟子でもある北畠家だ。


伊賀は俺達と交流が多少続いており、百地が忍達を纏め挙げている。ある意味伊賀の国主と言っても良いだろう。


伊賀は伊勢の一向衆と浅井から侵攻を受けていたが、どちらも防衛戦において圧勝している。

奇襲、夜襲、暗殺と徹底したゲリラ戦と軍勢の侵攻ルートの至る所に罠を仕掛け撃退したのだ。


今回俺達が尾張を制圧したことで伊勢を挟んだので、臣従して北伊勢を制圧して欲しかったそうだ。


返答としては保留にしている。一向衆とはまだ全面戦争はしたくはない。


だが、庇護下にはしてやった。俺達が後ろ楯になったことで浅井や一向衆が手を出すことはないだろう。


そして、師匠の方は色々根回しされており、受け入れざるを得なかった。


ホント、マジで怖いよ、この師匠(久秀)。


朝倉から独立を宣言して、朝廷に根回しして綸旨りんじまで持ってきたんだから。

内容は師匠の従属を認める一文だけだが、朝廷が認めた事が大きい。


(また面倒事ばかり入ってくるな…)

内心溜め息を吐いていると坊主が案内されて入ってくる。


「御初に御目にかかります。伊勢本願寺、下間頼成に御座います」


「ワシが義照じゃ。やることが多いから用件は手短に話せ」


「はい。まず織田信忠の逃亡に関しては伊勢本願寺が一切指示をしておらず、末端の信者が勝手に行ったことにございます」


「そんなことを言いに来たのなら帰れ。話にならん」


俺が急かすと頼成は信忠の件の言い訳をしてきた。全く話にならない。手で追い出そうとすると頼成は慌てて口を開く。



「お、お待ち下され!もう一つお願いが御座います!」


「何じゃ?内容によってはそのまま仏の元に送るぞ」


「はい。我ら伊勢本願寺と同盟して頂き伊勢本願寺が伊勢を治めることを認めて頂きたいのです」


俺は太刀を取り立ち上がる。側にいた小姓はどうしたらいいか分からず動けなかった。

頼成は今まで顔を崩さなかったが、義照が太刀を持って近付いていくと斬られると思い後退りしていく。


「お、お待ちを!む、村上様とて我ら一向衆を敵にはしたくないでしょう!私を殺せば全国の門徒が蜂起致しますぞ!!」


(なんてこった…、こんな馬鹿がまだ居たなんてな…)


「確かに一向衆との戦は面倒故やりたくないな」


(ほっ。良かった。これで殺されることは…)


「だが、貴様には関係ない」


「へ…」ザシュ…ぼと…


頼成は安堵したが次の瞬間首と胴が永遠に別れるのだった。


「おい!誰ぞ居るか!」


「「ははぁ!!」」


義照が呼ぶと近従の信尹達四人が入ってくる。四人は目の前の光景に一瞬驚くもすぐに頭を下げる。


「このクソ坊主の首を伊勢にいる顕忍のところに持って行かせろ。伊勢の一向衆はそんなに戦が望みなのかとな!それと石山の顕如にも使者を送れ」


「畏まりました。直ぐに向かわせます」


信尹が言うと四人は速やかに首を取り死体を片付ける。

呆気に取られている小姓は近従達に叱られながらも片付けを始めるのだった。



数日後、今度は別の客が京からやって来た。国清からの紹介状を持ち須田満親と鵜飼孫六が案内してきたのだ。


「大殿、この洪庵は甲斐で医術を学び各地を転々とし技術を深め、此度は薩摩の島津家からの使者を案内してやって来ました」


孫六が目の前の坊主洪庵について簡単に説明する。と言っても、実は陽炎衆の中にある諜報部隊座頭の一員で、以前の九州の報告を書いた人物だと面会前に先に教えられていた。



座頭は山伏や坊主の他に琵琶法師が主なメンバーとなっている。歩き巫女と同じく全国の情報を集めるのが主な仕事だ。


「洪庵と言ったな。孫六や満親から話は聞いている。甲斐で医術を学んだ者が遥か西の薩摩まで行っているとは驚いた。渡り歩いた地で多くの民を救えたのか?」


「はい。甲斐の地で永田徳本先生や医聖曲直瀬道三様から学べたことで多くの民を救うことが出来ました。私の様に孤児だった者でも学ばせて頂けた村上様には感謝の念しか御座いません」


俺が尋ねると洪庵は伏して頭を下げる。洪庵と面識は全く無かったが、洪庵は元々甲斐にいた孤児だったらしく、俺が甲斐の民を懐柔する為にやった孤児院と寺小屋(学舎)の出の様だった。


寺小屋は始めは反発があったが、才がある者や良く学んだ者は取り立てられたり出世出来たので人気である。今では家臣の子は必ず入っている。


「そうか。これからも学んだことを活かし、多くの民を救ってくれ。ところで隣に居るのが島津家からの使者か?」


話の先を洪庵から隣の武士に変える。



「はっ、島津家一門、島津歳久と申します。此度は右近衛大将様(義照)に御会い出来、恐悦至極に存じ上げます」


(はぁ!歳久だって!何でこんな所まで来てるの!!)


義照は使者の名前を聞いて内心びっくりしていた。島津兄弟の中で始終の利害を察するの智計並びなくと言われた人物であるからだ。


驚いているのは義照だけではなかった。歳久も内心現状に驚いており、焦りや驚きが、顔に出てないか心配だった。


何故なら、義照と面会できる等微塵も思ってもいなかったからだ。


目的である大友討伐の命を朝廷に嘆願し許しを得た後、洪庵が伝があると言った村上家の重臣(孫六と満親)に繋ぎを付けようとしたら、あまりにもトントン拍子に話が進み当主である義照まで面会出来てしまったからである。


「改めて、ワシが村上義照だ。島津と言えば鬼島津が有名だったな。たしか、義弘だったか?」


「は、それは次兄になります。兄上の武名が村上様の耳にまで届いていると知れば兄も喜びましょう」


「馬鹿兄(義勝)がやりたい(仕合)と言っていたぞ。それに島津に暗君無しとも聞く。当主の義久だったか?会うてみたいものだ」


他愛のない話が進む。義照は島津家の話を聞き、歳久が答えていく。時々、歳久が逆に尋ねたりもした。

そうこうしている内に時間がかなり経っていた。


「さて、ワシとしても島津家と親交を深めることは良いと思っておる。南蛮人の対処を考えれば尚更じゃ。おい、甘藷かんしょを島津家に分けてやるよう伝えよ」


「はっ!直ちに準備致します」


義照が近従に指示をするが、歳久は甘藷かんしょが何か分からず悩んだ。


「恐れながら甘藷かんしょとは何で御座いましょうか?」


「あぁ、うちで栽培しておる芋のことだ。稲が育てられぬ貧しい土地でも栽培でき栄養もある。飢饉の時には非常食にもなり、酒も作れる便利な作物じゃ。薩摩でも十分育つだろう。そうじゃな、おい、芋で作った酒(焼酎)も渡してやれ。癖になるだろう」


「はっ!!」


「重ね重ねありがたき幸せに御座います」

歳久は再度伏して頭を下げる。そしてこの関係を大事にし、より良く深くしていこうと心に誓うのだった。



「大殿、何故そんなに島津家に目を掛けるのですか?」

歳久が出ていき少しして、残っていた須田が訪ねてくる。

孫六も同じ思いなのか不思議そうにしている。


「須田、ワシは島津家を高く買っている。だからこそ、奴等にこれ以上領地を増やさせる訳には行かぬ。あれ等が九州を制圧すれば、何れ我等は滅ぼされるだろう」


義照の言葉に二人は目を見開き驚く。毛利、朝倉が手を結べは可能性はあるが島津に出来る訳がない。 それが、二人の率直な思いだった。


義照と二人の考えは大きく違う。義照は史実で島津家が九州を統一しかけ、秀吉が二十万近くの兵で攻めなければいけなかったことを知ってる為、かなり警戒していた。


「島津に暗君無しとは良く言ったものだ。島津家を相手にするなら十数万の兵がいるだろう。島津四兄弟、信濃一国で武田、北条、長尾、今川を同時に相手をするようなものだ。満親、孫六、肝に命じておけ」


「ははぁ… 。」「しかし、それならなぜ援助を?」

義照の言葉に二人は静かに頭を下げた。そして顔を上げた孫六が質問してくる。


「理由は二つ、一つは繋がりを作るためだ。出来れば取り込みたいからな。もう一つは万が一戦となった際奴等の中を掻き乱し、寝返りを増やすためだ。人間、一度幸福を味わうと抜け出せなくなる。更に良い目に会おうとする。孫六、島津領内に間者を増やしておけ」


「畏まりました」

義照の指示に孫六は返事をし部屋を出ていく。満親も部屋を出ていき、義照と近習のみが残るが義照が近習も下がらせ一人になる。


「さて、あぁは言ったが島津をどうするかな…。婚姻で取り込むか、それとも……」


義照は今後について一人深く思考する。島津は良くも悪くも村上家の今後に関わってくる、そう心中で察したのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼島津…ここにあり!(居ない。)
[一言] 邪魔な勢力を島津が打ってくれた上に臣従するなら薩隅両国程度なら所領として認めないこともないとは思うけど、島津は強く4兄弟の結束は固いため簡単には落とせないからどういう策を取るのか見ものですね…
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