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戦国生存記  作者: 現実逃避
152/180

152 黒人

元亀九年(一五七八年)四月

摂津 石山本願寺


水軍の拠点にさせて貰ったお礼をしに来ているが珍しい組み合わせが目の前に居る。


「さて、今回は顕如にお礼をしに来ただけなんだが…何故ここに了斎ロレンソがいる?」


そう、前に居るのは本願寺顕如とロレンソ了斎だ。

ちなみに現在教如は謹慎中である。理由は勝手に門徒を煽動し、畿内各地でキリシタンに対する一揆を起こしたからだ。


一番酷かったのは摂津高槻城への城攻めだ。結果だけで言えば城主の高山友照を中心に粘り勝ち一揆勢を追い返した。


死を恐れない一揆勢を追い返せたのは城に大砲を設置していたからだ。

目の前で人が木っ端微塵に吹き飛べば流石の門徒も恐怖からか城から距離を取った。

そのまま包囲していたが、伊勢で北畠と和睦して戻ってきた顕如によって解散させられたのだ。


「顕如様にお願いして村上様に謁見させて頂こうと交渉しに来ましたら、丁度いらっしゃいましたので同席をお願いし今に至ります」


「了斎、先に言っておくが禁教の件最早どうすることも出来ん。帝は九州でのことを知られ、朝廷より大友へ使者を送ることになっている。場合によっては大友家自体が朝敵となる」


「なんと……」


朝廷で決まったことを全て話すと了斎は項垂れる。

了斎としても、そこまで決まってしまっていてはどうすることも出来ないと分かってしまったからだ。


「さて、了斎の方はこれでいいとして顕如。教如は門主としての才覚はあるんだな。流石にここまで手早く一揆を起こすとは思わんかった」


「義兄上様(義照)、一揆の件手心を加えて頂きありがとうございました。お陰様で、無駄な血を流さず済みました」


顕如はそう言うと頭を下げる。一揆の件とは摂津でのキリシタンに対する虐殺のことだ。


本願寺に戻った顕如はすぐに門徒達に止めさせようとしたがこれまでキリシタンと水面下で争っていたこともあり止まることはなかった。そんな時、義照は朝廷を使い、迫害についてはしないよう触を出して貰うのと共に、高槻城に軍を差し向け仲裁をしたのだ。


「まぁ、止まったのはお主(顕如)自ら門徒の前に出たからだろう。それに高槻城の高山もよく決断した」


高槻城の高山友照はキリシタンを九州へ無事に送ることを条件に城を放棄した。

九州の方はまだ禁教になっていなかったからだ。それと、今回のみ一揆を起こした者達の罪は不問とした。


「おっしゃる通りかと。来月には無事に終わる予定です。雑賀衆、毛利の毛利水軍、村上水軍が協力したお陰にございます」


輸送は陸路以外にも水路で一気に行った。交渉に関しては朝廷の威光と言う後ろ楯もありすんなり進んだのだ。


「さて、ワシは信濃に戻る。尾張を滅ぼしに行くからな」


「御待ち下さい!」

義照が部屋を後にしようとすると了斎が待ったを掛けた。


「村上様、どうかヴァリニャーノ神父にお会いしていただきたい!!」


「…南蛮人にあってどうする?禁教が解除されることはないぞ」


「それでも構いません。何卒、お願い申し上げます」


義照も顕如も了斎が何を考えているが分からなかった。禁教が解除されるのではないので会うだけの価値が本当にあるのか甚だ疑問に感じたのだ。


「十日後には京を出る。それまでに来れたら会おう」


「ありがとうございます」


(さて、何を考えているのやら…)

俺は思案しながらも石山本願寺を後にする。


それから五日後、本当に宣教師達は義照の元にやって来るのだった。



京 二条城


目の前に了斎とフロイス、そして見たことがない宣教師と黒人がいる。

家臣達も宣教師よりも黒人の方に驚き目を奪われていた。


「まさか、本当に来るとは思わんかった…。了斎一体どんな手を使った?」


「はい。使える伝は全て使い何とかこの地へ来ることが出来ました」


俺の本音はこれだ。ここ(京)は禁教によって南蛮人も立入禁止になったのに目の前にいるからだ。


それなのにここには正面から堂々とやって来たら誰でも驚くだろう。

京に入れたのは朝廷に謝罪と贈り物を持って来たからだ。と言っても関白(九条)までしか謁見は出来ていない。


「その行動力というか伝の多さには驚いたな……。さて、ヴァリニャーノ。ワシがフロイスの言う悪魔だ」


「コノタビハオアイデキコウエイニゴザイマス。マズハキュウシュウデノコトオワビイタシマス」


ヴァリニャーノはいきなり九州のことを謝り頭を下げる。隣のフロイスも同様にだ。


「ワシに頭を下げたところで最早どうにかなる問題ではない。働き掛けをしてくれと言われてもする気はない」


義照が言うと一部家臣が批判し始めた。

正直、キリスト教が悪とは思ってはいない。ただ、日ノ本から連れ去り奴隷として売ること、植民地にしようとしていることが許せなかった。


「既に元凶であるカブラルは権威を剥奪され国に召還されております。奴隷として売り飛ばされた者達は必ず国に戻します。何卒、日ノ本での禁教の解除をお願います」


了斎はそう言うと頭を下げるが俺にどうしろと言う方が無理だ。

確かに俺は朝廷との繋がりは深いが一大名でしかない。他の国の政に口は出せない。


「逃がしたの間違いであろう。それに、何度も言うがワシも最早どうすることも出来ん。朝廷か幕府が動くしかないだろう。さて、話が変わるがその真っ黒な男は奴隷か?わざわざ黒く染める訳は何じゃ?」


俺は黒人の方を指して訪ねる。分かってはいるが家臣達が物凄く不思議そうにしていたので聞くことにしたのだ。


「コノモノハドレイデスガゴエイデモアリマス。クロクソメテイルノデハナクモトカラクロイノデス」


フロイスが変わりに答えるが、家臣達から嘘だとか馬鹿を言うなとか批判が殺到した。


(まぁ、黒人がいるなど知ってなきゃこうなるな。)


「静まれ。では試しに洗ってみるか。正光、親綱、風呂に連れていき徹底的に洗ってこい。もしも戯れ言なら三人の首を刎ねる」


「はっ」「畏まりました」


近習の保科正光、桐生親綱の二人に命じさせ連れていかせた。ちなみに二人ともオルガンティノからラテン語を学ばせている。言葉が分からなければ、如何様にも騙される可能性もあるからだ。いい例が朝鮮との和睦内容を勝手に変えられていた秀吉だ。



暫くすると二人が戻ってくる。その顔は不味いことをしてしまったかのように暗い表情をしていた。その後に続いて黒人が入ってくる。


「おぉぉぉ…」「なんと……」


「大殿…。洗い終わりました」


「申し訳ありません。全く落ちませんでした」


黒人は色が落ちるどころか黒く輝いていた。これには家臣の誰もが驚き仰天する。目の前の南蛮人二人は当たり前だと言わんばかりに頷いている。


「元から黒いのはわかった。護衛と言ったな。強いのか?」


「ハイ。ヒトヲカンタンニナゲレルホドチカラヅヨク、ブジュツハナミタイテイノモノデハカナワナイウデマエデス」


ヴァリニャーノは自信満々に言う。奴隷を護衛にするくらいだ。かなりの手練れなんだろう。


「そうか。昌房(馬場)、相撲の相手をしてやれ」


「ははっ!おい外へ出ろ!」


昌房はそう言うと正光が通訳して黒人を外へ出そうとする。黒人はヴァリニャーノを見て確認した後、黙って庭に出る。


そして

ドゴッ!

二人は正面から激突した。


「うぬぬぬぬ……… 」


「…………」


互いにびくともせずにいた。しかし二人の表情から、黒人の方は余力があるように見えた。


「フン!」


「なっ!!ぐはっ!」


「なんと!!」「馬鹿な!!!」


黒人は昌房を持ち上げ投げ飛ばして壁に激突させてしまう。

うち(村上家)の中でも力自慢な昌房が負け、尚且つ投げられてしまったことに誰もが衝撃を受ける。俺もまさか、飛ばされるとは思ってもいなかった。そんな中、ヴァリニャーノは自慢気な笑みを浮かべていた。


「まさか昌房が飛ばされるとは……おい、手当てをしてやれ」


「あ、はっ!馬場様…しっかり」

昌房は家臣達に運ばれていく。


「さて、御主(黒人)ワシ(義照)の相手をしてくれぬか?」


「「大殿!!」」


俺が立ち上がると家臣達は驚き声を上げる。そんな中、昌祐と昌豊だけは溜め息をついて呆れていた。


「ヴァリニャーノ、奴(黒人)に伝えろ。手を抜きワシに負ければ御主ら全員の首を落とすとな」


俺(義照)の笑みを見てフロイスが慌てて黒人に伝えた。ヴァリニャーノは困惑しているが黒人は護衛としての矜持か広間に戻るとすぐさま突っ込んでくる。


「避け…」「うわぁぁぁぁ !」」 ドン!!!


黒人は家臣達を巻き込んで吹っ飛び、襖に激突する。


「ほぉーこんなに吹っ飛ぶとはな!」


黒人は自身が飛ばされたことに気付いたが、何故こうなったのか分からなかった。すぐに起き上がり構えるが義照は既に間合いを詰めており、慌てて殴るが当たる事は無く、義照に冲捶 (ちゅうすい)を叩き込まれるのだった。


ガハッ


黒人は少し後退りし、そのまま崩れ落ちるように膝をつくのだった。


「あ、しまった。やり過ぎた」


義照の口からこぼれたのはたった一言だった。南蛮人二人は驚愕のあまり震えていた。


「すまん。おい、手当てを… 」「父上!!危ない!!」


義照が指示をしようとしたら輝忠が叫ぶ。

膝をつき苦しんでいた黒人が突然飛び掛かったからだ。


ドン!


義照は倒されたがそのまま巴投げをする。投げられた黒人は受け身も取れず、目の見えぬロレンソの前に激突する。


「は…ははは……」


「父上!お怪我は!!おい!この者等を捕らえろ!」


俺が笑うと輝忠は家臣達に指示をして四人を捕らえようとする。


「止め止め。輝忠、ワシがやれと言ったのだ。この者達に責は無い」


俺は手で下がれと指示をする。

黒人は腹部を抑えながらも立ち上がろうとする。


「ヴァリニャーノ。この者(黒人)をワシにくれ」


ヴァリニャーノは困惑していたが、フロイスの方は必死に何か伝えていた。言葉はオルガンティノから習ってはいるがまだきちんと分かっていない為、何を言っているか分からなかった。


「ワカリマシタ。タダ、ジョウケンガアリマス」


ヴァリニャーノは条件を付けてから黒人を譲った。

条件はキリシタンの迫害の禁止、禁教の解除を願った。


義照は迫害の禁止についてはすぐに認めたが、禁教は朝廷が決めることとして取り合わなかった。


結局、迫害の禁止と村上領でのキリシタンの通行滞在の許可で纏まるのだった。

黒人は弥助と名付けられ、義照の近従として入り保科正光と桐生親綱の二人に言葉を教えられるのだった。



翌日、宣教師達は朝廷へ御詫びの品を献上し、連れ出された民を国へ戻すと告げたが、禁教の解除には至らなかった。その為、仕方なく九州に帰るのだった。


10月からは月3回投稿に戻します。(執筆が間に合わない為)

申し訳ありません。


今後とも宜しくお願い申し上げます。


また、よければ、何話までは面白かった等も教えて貰えれば助かります。

結末は、決めてますがそれまでが迷走してますので……

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― 新着の感想 ―
[一言] 矛盾の指摘を作品批判ととられる環境って嫌だね。 やっぱり面白かったのは足りない中で四苦八苦しながら強敵と戦ってた序盤か義龍生きてた頃じゃないかなぁ。シミュレーションゲームによくある楽しさ。…
[一言] 自分の理想に忠実な第六天魔王義照が好きです。 汚物は消毒しなくては…!
[良い点] いつも楽しみにしています。 何話までとか・・最新話までずっと楽しんで読んでいます。
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