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戦国生存記  作者: 現実逃避
150/180

150 再建

元亀八年(1577年)10月末


「何だこれは……」


俺達は都に入り絶句した。

応仁の乱後、三度も立て直した京は建物は燃え落ち、御所を囲む塀は跡形もなく無くなっており辺りには至る所で死体が転がり地獄を表しているようだった。


隣にいる輝忠は絶句し初めて京に来た義尊は嗚咽を吐いていた。


「輝忠、昌祐、軍を指揮し民の保護、死体の処理を行え。速やかにだ」


「はい。幸綱(真田)は利三(斎藤)と共に東を、昌房(馬場)は吉晴等と共に西を任せる。」


「では、保科(正俊)殿と馬場(信春)は被害が大きいと言う南を、ワシ(昌祐)と原(昌胤)、と日根野(弘就)は北へ行こう。大殿の護衛は孫六と義尊様達にお任せ致す」


義照の命令の後、二人は速やかに全軍に指示をし動きだす。


義照は残りの者と兼照、前久達と共に九条館に避難されている帝の元に向かった。


館には佐治達護衛と香宗我部親泰率いる水軍の一部の兵達が守備についていた。


「大殿、御待ちしておりました」

佐治と援軍の福留が前に出て頭を下げていた。水軍は石山本願寺に停泊させて貰っている。


「佐治、よく守ってくれた。福留もよく援軍としての役目を果たしてくれた」


「ははぁ。大殿、大阪湾にて三好率いる淡路水軍と交戦し全滅させました」


儀重の報告に驚いた。三好水軍に勝利とは聞いていたが全滅させたとは聞いていなかった。


「そうか。三好勢について後で報告を聞こう」

義照はそう言うと佐治の案内の元、帝と殿下(親王)一行が過ごしている部屋の前まで向かった。


部屋で義尊と共に待っていると、帝と殿下(親王)、その後ろに摂関家の三人が付いてくる。


「義照。よく来てくれた。頭を上げよ」


帝に言われ頭を上げ、陛下のご尊顔を拝した。


「隣が亡き公方(義輝)の忘れ形見か?」


「はっ。足利義尊に御座います。直答の御許しを頂ければ…」


「構わぬ。ここは御所ではない。直答を許す」


義照が尋ねると帝は直答を許した。普通直答するには許しがいるが、なんだかんだいつの間にか俺は許されていた。


「足利義尊に御座います。御尊顔を拝することができ恐悦至極に御座います」


義尊は帝に対し伏して挨拶をする。

それに対して帝は顔を上げた義尊に御言葉を告げられた。


そして、帝の代わりに前久が此度の勅命についての説明を始める。


勅命の理由は今の京があまりにも荒れ果て、民は虐げられていることに帝は嘆き何とかしたいと思っていたが、丁度、朝倉、幕府双方から和睦の願いが出された。


だが問題は和議の内容だった。朝倉は現在制圧している領地を認めること、将軍義昭の隠居、次期将軍の後見人となり管領の保証。


幕府からは朝倉が制圧した領地の放棄(山城、丹波、丹後、大和)、朝倉義景の子を人質に差し出すこと。


と言った物だった。これには朝廷も呆れた。状況は山城や大和は朝倉優勢、丹波、丹後は幕府が優勢だった。それに朝倉は幕府を滅ぼすつもりはなかったようだ。


結局、揉めに揉めたので兼照と前久が和平案を提示し、双方に乗るか降りるか迫った。

提示案は山城、大和は朝倉の領有、丹波、丹後は幕府とし、義昭は隠居、次の将軍は義昭の嫡男とし後見人は幕臣とする。管領は義景のまま。人質に関しては無しとした。


この和解案はどちらからも難色を示され破局で終わるかと思われたが、朝倉から山城一国を皇室領とし中立の役割を与える代わりに村上との婚姻同盟を要求したのだ。朝倉が条件を付けたことで、幕府も条件を付けた。


それが、長尾家の家督争いだ。義昭は畠山義春を押しており、自分の言うことを聞く大名を手にいれる為、朝廷にも義春が当主であることを認めろと言ったのだ。


これには兼照が激怒した。何故なら長尾景勝は義弟になり、兼照は景勝と仲が良く、手紙のやり取りなども行っていたからだ。

その後も協議が続き、結局今の和議の内容となったそうだ。


「それで、丹波は幕府、大和は朝倉となったのですか……。しかし、陛下。皇室領の管理を我等にと言うことですが…」


「うむ。朝廷にやれる者が居らぬ。それに、民は御主の統治を望んでおる」


(ふーん。それで、幕府と朝廷が手を結んだか…。確実に領地を得るために。愚かな…)


和睦で山城国の愛宕郡、紀伊郡、葛野郡、宇治郡の合わせて10万石が皇室領となった。今までは良くて三千~五千石もあれば良いくらいだった。と言っても、大半を摂津晴門に横領されその後は幕府に横領されていたが……。

なので、確実に金になる領地を得て足場を固めたかったのだろう。基礎はワシ達にやらせて……


ちなみに幕府(義昭)は二条城を追われ勝龍寺城に入り、そこが幕府の本拠地となっている。二条城については戦でボロボロだが一応残っている。


「恐れながら、このまま我等が駐留すれば必ず幕府、朝倉双方に攻める口実を与えてしまいます。何卒、御再考を…」


「…義照よ。そなた、日ノ本を統一する気は無いのか?御主なら、戦を無くし日ノ本を豊かに出来よう…」


帝の言葉に俺は言葉を失った。帝に言われるなど思っても見なかったからだ。


「…陛下。私は我が領地の民達を豊かにする程度しか出来ません。それに、日ノ本を統一と言われましても、北は蝦夷、南は薩摩と広大ですので、私には時間が足りません…」


「………左様か…。関白(兼照)、後の事を任す」


「ははぁ…。では父上(義照)参りましょう」


兼照に連れられ部屋を後にする。

廊下を移動中、兼照からこれまでの話を聞いた。義昭は朝倉連合に負けた後、二条城に籠城し、それを包囲する浅井朝倉連合に奇襲や夜襲を仕掛け、兵糧等を襲う幕府(四国勢)軍との戦が連日連夜あり京は燃え続けた。まぁ、その前に帝や一族の他に一部公家達も九条館に避難した。


その後、数回盗賊と所属不明の軍に襲撃されたが難なく蹴散らし続け今に至るそうだ。


「また、建て直しか…。金が掛かるな…」

義照が思いっきり溜め息を吐くと兼照と前久は苦笑いをするが内心安堵した。

二人は勅命で義照が激怒したが、まだ朝廷に尽くしてくれると思ったからだ。


それから数日、皇室領では盗賊狩りと復興が行われていた。


(流石に三度目だからか殆ど指示をしなくても家臣達や商人達が動いてくれているな)


義照が大雑把に指示をすると後は担当になった者を中心に動いた。


関係の深い堺の津田宗及を筆頭に堺会合衆は直ぐに手土産を持ってやって来た。復興に商機ありと踏んだんだろう。木材を中心に建築物資の価格表を提出してきたのだ。


なので、ありがたく安く大量に買わせて貰った。


他にも、石山本願寺から飯や銭が出るなら門徒を賦役に提供すると言ってきたのでありがたく活用させて貰っている。

摂津は三淵、細川兄弟が治めているが堺と石山は最早手に負えないため独力勢力となってる。


飯と僅かな銭を出しているだけあって、賦役に参加している者達はやる気があっていい。これなら、数年で元に戻るだろう。

だが、ワシが来ることは帝に隠居の挨拶をするまで無いだろう。これが最後の奉公だ。


元亀八年(1577年)11月


約束を二年も過ぎた奴等が面会を求めてきた。そう、ルイス・フロイス達宣教師だ。勿論面会は拒否した。約束を破ってるので会う気も無く、キリスト教を日本では禁教にする為に朝廷へ働き掛ける準備をしている。



数日後


「大殿(義照)、面会をしたいと三名程やって来たのですが……」


今度は三人の男が面会を求めてきた。やって来たのは高山友照、小西隆佐、内藤如安だ。


「…また面倒なのがやって来たな」

名前を聞いて溜め息が出る。

三人とも、キリシタンとして有名だ。特に、高山、小西は……。


「十日後にまた来いと伝えろ」


「ははぁ。追い返してきます」


使い番が察したのか直ぐに出ていった。

(あの御仁を呼び出すか。きっと頭で湯が沸くだろうな~)


義照は直ぐに大和にいるある老人に使いを送った。数日後には予想通り本人が顔を真っ赤にしてやって来るのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この主人公、逃げることしか考えてない。 どこぞの美濃の主人公のように。 敵はコロス癖に、我儘な父や粗暴な兄は放置する。 有り体に言って屑である。
[気になる点] この時代、一般には石油も石炭もなく、煮炊きするのは全部薪を使う。戦国末期には畿内の木は伐りつくし、六甲も有馬も全部禿山になっていたらしいので、京都を再建したくても、手ごろな材木は多少離…
[良い点] あのあり得ない和睦案の説明回 [気になる点] とうとう主人公だけでなく朝廷もぶっ壊れたか。 まさか帝が主導していないとは言ってもこの時代かなりのレアな「勅命」を出して村上への一方的な和睦案…
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