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戦国生存記  作者: 現実逃避
130/180

130 九州三國志

関東が親王様の巡行で沸いた頃、西国では一人の謀将がこの世を去ろうとしていた。


元亀三年(1571年)8月

安芸 吉田郡山城


「隆元....」


「父上、私はここにいます」


毛利隆元はそう言うと横になっている元就の側に座る。


「隆元・・毛利を存続させることを第一とせよ」


「はっ!必ず」


「元春達は?」


「父上、元春と隆景は父上の策のために筑前におります」


隆元は元就の側で答え続ける。

元就最後の策のため毛利精鋭を立花山城に集めていた。


「そうか...もし失敗すれば毛利は多くの人と物を失う。隆元、重荷を背負わせてすまぬ..」


「父上。私は父上が築き上げた毛利家を必ず守り通します」


元就が震えながら手を上げると隆元はその手を力強く握る。


周りには隆元の嫡男輝元を含め、元就の子や孫達が集まっていた。


元就はこれまでのことが走馬灯のように駆け巡った。そして、自分が死んだ後の毛利家を案じた。


(あぁ...。義興殿(大内)や経久殿(尼子)もこのような気持ちだったのか...)


.......


「父上!!」「 「父上様!!」」


元就の手から力が無くなり、静かに息を引き取った。


集まっていた者達は悲しみに暮れたが、当主隆元は父元就の最後の策を行うため、急ぎ使いを送った。



元亀三年(1571年)9月

豊後 丹生島城(臼杵城)


「何、それは真か!!」


「はっ!!立花山城を失い毛利元就が死去した毛利勢は筑前を放棄する模様!既に一部が撤退を始めております!何卒毛利勢を完膚なきまで叩き潰したく、援軍をお願いしたく!!」


大友宗麟は龍造寺からの使者の言葉に大喜びした。

今まで膠着していたのが一気に崩れるからだ。


「直ぐに援軍を送ろう!!親貞!お主を大将とし臼杵鑑速、志賀親度等と共に三万を率いて援軍に向かえ!」


「畏まりました!!必ず殲滅して参ります!」


大将を任された大友親貞は大喜びした。

今回豊後の前線は戸次道雪、角隈石宗等の名将が指揮をし自身は居残りだった。

そんな時に勝ち戦に大将を任されたのだから喜ばない方が可笑しかった。


「大友様、お願いがございます。人質に出している龍造寺信周様を是非とも援軍に加えて武功を立てる機会を御与え下さるよう付してお願い申し上げます」


「・・・・それは何故だ?」


宗麟は使者の願いに疑問を抱いた。何故なら人質に武功を立たせる等聞いたことがないからだ。


「はっ、信周様は武勇において我が主(隆信)に劣ることはありません。然れど人質となっている今、武功を上げることなど出来ずその武勇は腐っていくだけにございます。それに此度の戦で誰もが功名を上げる中、一人残されるは肩身が狭くなります。どうか何卒!!武功を上げる機会を下さいますようお願い申し上げます!!」


「・・・・分かった。許そう。ただし!人質であることは変わりない。鑑速の指下(監視下)に入ること、それと戦が終われば直ぐに戻すことが条件だ!」


宗麟は悩みながらも使者の必死の懇願に折れた。


「戦場に立つお許しが頂けるとのであればその条件で一向に構いませぬ!!お許し頂き忝なく!!」


使者は伏して頭を下げる。宗麟は使者の熱心さに溜め息を付きながらも指示をしていき、自身も一万を率いて豊後の前線に向かうことにするのだった。



数日後

筑前 白山城


「兄上、お待たせしました」



「・・・来たか。始めるぞ」


白山城には吉川元春、小早川隆景が揃い軍儀を始める


「それで、豊前の方は大丈夫なのだな?」


「はい。隆元兄上自ら来られ長岩城を中心に三万の兵が守っておりますので大丈夫です。水路も水軍が死守してます」


元春の質問に隆景は答える。隆景は元々豊前の防衛を指揮していたが元就最後の策の為に白山城に来て裏工作を行っていた。


「・・・この地を捨てるのは腹が立つが仕方がない。隆景、本当に交渉は上手く行ったのだな?敵は援軍が来て目の前に四万もの軍がいるのだぞ?」


「問題ありません。予定通り今夜決行します」


元春は隆景の答えを聞いてそれ以上は何も言わなかった。


味方は一万五千、敵は龍造寺軍およそ一万と大友軍三万の圧倒的な戦力差があったが覚悟を決めたのだった。




その頃、援軍としてやってきた大友軍も軍儀を行っていたが怒号が飛んでいた。


「我等は後方に待機だと!今まで戦い、ここまで追い詰めたのは我等ではないか!」


「だからこそ後は我等に任せろと言うておるのだ。変わりに信周を先陣にしてやると言ってるのだ。問題なかろう」


「殿、どうかここは堪えて下され....」


親貞は来て早々龍造寺軍を後方に配置すると通告し、龍造寺隆信はいいとこ取りと激しく激怒していた。

親貞としてはこれ以上龍造寺に手柄を上げさせたくなかったのだ。


隆信としてはこれまでかなり犠牲を出しながら戦ってきたのにも関わらずノコノコやって来た奴に手柄を取られるのが我慢ならなかった。しかも、弟(信周)を理由にされて。


ドン!!


「もういい!!ここに居ては虫酸が走るわ!下がるぞ!!」


隆信は台代わりに使ってた盾を思いっきり叩き割り陣から出ていく。

龍造寺軍の武将達も同様に付いていく。


「我が主が大変失礼致し申し訳ありません。指示通り後方に下がります。失礼いたす」


鍋島直茂はそう言い頭を下げると隆信達を追いかけた。



「ふん!今すぐあんな奴等まとめて潰してやりたいわ!!」


「親貞様、龍造寺家は御屋形様(宗麟)から肥前を認められた大名です。今のは失礼ですぞ」


親貞は志賀に忠言を受けるが気分を害したのか、そっぽを向き直ぐに白山城を攻めるよう指示した。しかし既に暗くなり始めていた為、攻め掛かるのは明日の早朝とし、夜襲に警戒するよう宗麟の側近である臼杵に言われ渋々承諾するのだった。



龍造寺軍本陣


「糞!あのクソヤロウ今すぐ殺したかったわ!!」


隆信は持っていた太刀で側にあった盾を力ずくで叩き割った。


「殿(隆信)、良く堪えていただきました。既に毛利から今夜動くと知らせが来ています。もう暫くの辛抱です」


直茂はそう言い隆信をなだめた。直茂は小早川隆景と密かに密会をし繋がっていたのだ。


「分かっとるわ!!あー思い出すだけで腹が立つ!ワシは暫く寝る!!夜になったら起こせ!!」


隆信はそう言うと出ていく。

残った直茂と龍造寺重臣達はため息を付く。



「はぁ、もう少し大人しくなられたら良き名君になられただろうに...」


「いや、あれ程の気性だからこそ我等も存分に戦える」


「それで鍋島殿、毛利は分かったが信周様の方は問題ないのか?」


重臣の成松信勝は鍋島に訪ねた。今となっては唯一の懸念が人質だけだからだ。


「はい。既に昌直を付けております。戦が始まれば抜けますので問題ありません。江里口殿、迎えはお願いします」


「畏まった」


「百武殿、成松殿、先陣お願い致す」


「おう!」「承知した」


直茂は隆信に変わり指示を伝えた。元々隆信と決めていたことだ。


そして、今回後方に下げられることを直茂は予測しており、その為大友から離れるにはちょうど良かった。


(これで、龍造寺家は大きくなり後方も気にしなくて良くなる。毛利と争うは九州を獲ってからだ)


直茂は夜に向けて準備を進めていく。




そして・・・・

亥の刻(22:00頃)



「かかれ!!!」


うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!


大友軍に対し毛利軍は夜襲を仕掛ける。


「やはり来たか。数はこちらが有利だ!包囲し敵を殲滅せよ!!」


しかし、臼杵鑑速や志賀親度は予想していた為、前線で直ぐ対応し毛利軍を殲滅するために包囲を始めた。


だが....


「皆殺しだ~!!!」


うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!!


「後方が騒がしいが何事か!」


「申し上げます!!龍造寺が寝返りました!!」


「なんだと!!」「なに!」


鑑速と親度は龍造寺のまさかの裏切りに驚愕した。そして即座に本陣に戻ろうとしたが時既に遅しだった。


龍造寺軍は既に大友本陣に強襲していたのだ。


「大友親貞、討ち取ったり~!」


「大将は取った!一人残らず殺せ~!!!」


成松は親貞を討ち取った後、百武と共に本陣にいた者達を殺し始めた。


「全員殺せ!!!大友に組みする者を一人も逃すな~!!」


「大将首は取った!!後は殲滅するだけぞ!!」


龍造寺隆信と鍋島直茂も自ら突撃し大友勢を殺し尽くしていた。

大友勢は勝ち戦が一転、敗走どころか全滅の危機となり兵士達は一人また一人と逃げだし、軍として機能しなくなっていく。


「くそ!最早これまでか!親度はどうした!!」


鑑速は崩壊する軍をまとめ上げようと必死に采配をする。だが、大友の名将を持ってしても建て直しは最早不可能だった。更に志賀親度との連絡が取れなくなり状況は更に悪くなっていた。


「敵将と見受ける!その首貰い受けるぞ!」

そんな時に毛利勢が鑑速達を襲う。

鑑速は必死に防衛するが無惨に討ち取られたのだった。


そして夜襲から二刻後、大友勢で生きておる者は居らず辺りには血の川が出来ていた。


その中心で龍造寺軍と毛利軍は向かい合っていた。和睦の条件を確認するためだ。


「では約定通り、筑前は小倉城周辺を除き龍造寺家にお譲りいたす」


「畏まった。では、豊前、豊後は毛利へ。肥前、筑前、筑後、肥後は我等で宜しいな?」


隆景と直茂は和議の内容を確認していく。その場には大将の龍造寺隆信と吉川元春もいる。


「ああ、領地について相違ない。では、大友を滅ぼすまで和睦としよう」


隆景と直茂は内容を確認し、毛利と龍造寺家で和睦(対大友同盟)が成立するのだった。


元就の策は龍造寺を大友から離反させ、大友勢を筑前奥深くまで引きずり込んで龍造寺家と挟撃し殲滅させる内容だった。


その為に堅城の立花山城をわざと放棄し毛利の情報を流して大友を誘い込み、筑前を龍造寺に渡したのだ。欲を言えばここで宗麟の首を取りたかったがそう上手くはいかなかった。


その後、龍造寺軍は筑後へ。吉川、小早川率いる毛利軍は兄隆元の元に急ぎ向かうのだった。


その頃、大友宗麟と一条家からの援軍が合流した大友軍五万と毛利隆元率いる毛利軍三万が一進一退の激戦を繰り広げていた。

数に劣る毛利軍は徹底した防衛戦を行っていたので耐えられている。


毛利軍本陣


「元保、このまま守りきれるか?」


「殿!ご安心を!全て大殿(元就)の予定通りにございます!」


隆元は側近の赤川元保に訪ねるが予定通りと言い、この後の説明を受けた。

隆元も分かってはいるが、弟達(元春、隆景)に劣る自分が出来るのか不安だったのだ。


赤川もそれを分かっており丁寧に説明をする。

今の隆元にとって、武は赤川元保、国司元相、政は口羽通良、福原貞俊となっていた。それに弟二人(元春、隆景)が加わる。


暫くして、伝令が駆け込んでくる。


「申し上げます!!筑前の吉川元春様!小早川隆景様!大友軍に大勝!予定通り龍造寺と和議を結びこちらに向かわれております!!!」


「よくやったぞ!!!殿(隆元)!」


「あぁ!全軍に今の戦果を伝えよ!もうじき元春達が来るとな!!! 」


毛利軍に筑前でのことが伝えられ耐えていた兵達は士気が上がり数に勝る大友軍を押し返しだす。



大友本陣にも筑前でのことが伝えられ、宗麟は激怒し、怒鳴り散らしていた。


「龍造寺め!ワシが目をかけてやった恩を忘れよって~!!」


「御屋形様、ここは某が引き受けます。直ちに撤退し、龍造寺に当たるべきです!」


「道雪の申す通り!直ぐに撤退し龍造寺を叩かねば、離反する者達が続きましょう!」



「くそ!!!撤退じゃ!龍造寺を叩き潰すぞ!」


宗麟は道雪達二万を残して撤退を始める。撤退後は敗残兵を集め筑後にて龍造寺と血で血を洗う激戦を行い始めるのだった。


そして、毛利家と残された道雪は立場が逆転し、毛利家が攻め始めたが道雪達は一歩も譲らず守りきり、毛利勢は一旦撤退を余儀なくされる。


今回龍造寺が裏切ったことで九州は混迷を極め始める


大友側(同盟国、傘下を含む)はまだ領地が広く有利だが、筑前での虐殺で大きく力を落とし、苦しい立場に置かれた。

そして九州南部のあの鬼達が牙を剥き始めるのだった。



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[気になる点] 「では約定通り、筑前は小倉城周辺を除き龍造寺家にお譲りいたす」 小倉は豊前です。
[一言] チッ!毛利狐め( ゜д゜) 臼杵越中まで討ち取るとは何ごとか
[気になる点] 隆元が生きてる(゜ω゜)
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