129 パッと咲いて… 上は上々、下は惨状
上田城、大広間
普段なら昇殿を許された者にしか親王様を御目にかかることは出来ないが今回は特例として官位が無い者も宴に参加している。
その為宴に参加しているのは各家の当主と使者、それと家臣二名だ。
他の者は別室で少しグレードの下がった料理を堪能している。だが、味に妥協はしていない。
そして、親王様達に出している料理は格式のある本膳料理ではなく会席料理だ。
しかも、鶏など肉も出している。
全ての原因は近衛前久だ。
「右近衛大将(義照)、これはなんと言う料理なのか?」
「それは、‘やたら’といいご飯に乗せて食べる物でございます。そのとなりはおたぐりと言う食べ物に御座います」
俺は親王様に料理の説明をしている。料理長はまだ料理を作っており他の者では緊張して上手く説明出来ないからだ。
他の者も俺の説明を聞きながら旨そうに食事を楽しんでいる。・・・俺は料理の説明の為まだ食べれていない....。
(輝忠、兼照め。こういう時は兄弟揃って俺に押し付けて楽しみよって..)
俺が来客の方を見ると輝忠は浅井長政と兼照は長尾景勝と談笑しながら食べていた。
他には朝倉義景は出ている料理を睨めながらも口に入れては笑みをこぼし、長尾景虎は....
(なんだあの数は....ひい、ふう、みい....はぁぁぁ!!!!もう十本以上飲み干したのか!!)
景虎だけ大きめの徳利に酒を入れて出しておいたのだが、景虎の周辺にはその残骸(空の徳利)が綺麗に並べられていた。
俺は驚き、量が足りるか心配になりながらも親王様の質問に答えていく。
「では、このてんふら(天ぷら)はなんだ?」
「そちらは鶏に御座います。特性のタレに漬け込み、挽いた小麦粉をまぶし油で揚げたものにございます。場所によっては山賊焼と言われております」
「「「山賊焼!!」」」
俺が山賊焼というと親王様や周囲にいて聞こえた者達が驚きの声を揚げた。
「そのような恐ろしい名前の料理なのか....」
「義照!!貴様、親王様にその様な物を出すなど不敬ではないか!! 」
そう怒鳴り上げたのは義景だった。他の大名は無言だったが親王様に付いてきた公家の一部もヒソヒソ話し出す。
「管領様(朝倉)。そう大声を出さずともよろしいではなかろうか。その様な名が付いた訳がなにかあるのだろう。村上殿、説明していただけぬか?」
「うむ…、まぁ、北畠殿の申すことも一理ある。義照、はよ皆に説明しろ」
具教に言われて義景は周り見渡し、自身の味方が少ないと感じ説明させようとした。
「では、説明致します。まず山賊は物をとりあげます。そしてこの料理は鶏を揚げる為、誰が考えたのか山賊焼と呼ぶようになったそうにございます。また、今お出ししているのは食べやすいよう切っておりますが、揚げる際は一枚まるごと揚げますので、その豪快さから名付けられたそうにございます」
俺が説明すると大半の者は納得したのか、なるほどと頷きながら食べ始めた。
「うむ、旨い!これは関白(近衛)が馳走してくれた、から揚げに近い物なのだな!」
親王様は一口食べると感想を言われたが、前久が親王様に唐揚げを食べさせたことに驚いていた。
今回俺は本膳料理を出そうとしていた。やはり、親王様相手にいつものような料理はまずいと思ったからだ。
その為に朝廷直属の料理人を招こうとしたが、朝廷からの返答は
「本膳料理ではなくても良い。関白(前久)から話は聞いておる故、普段と変わらぬもてなしで構わない」
と言うものだった。
勿論、肉や卵を使っているので再三確認までしたが朝廷からの返答は変わらなかったので今回のような料理になった。
なので、もしもの時の責任は全て関白(前久)にと念を押した。当の本人(前久)は京に居残りだが...。
この後も親王様に料理の説明をしていたが、全ての調理が終わったと言うので料理長を呼び出し、説明を任せた。
その時の料理長の顔はいろいろと凄かったがまぁ、大丈夫だろう。
親王様から離れた俺はまず、副将軍の長尾景虎の元に行く。
「景虎殿、一献」
酒を注ぐと景虎は一気に飲み干し盃を渡してくる。
俺はそれを受け取り景虎から酒を注いでもらう。
「義照殿、此度は見事な宴であるな。ワシもこのような宴の方が性にあってる」
「それは良かった。親王様がいらっしゃるのでどうかと思いましたが、安心いたした」
(景虎。最初から最後まで酒が呑めるからってわけじゃないよね?)
義照は景虎の側の並べてある徳利を見てそう思った。さっき見た時の倍近い数が並べられていたからだ。
そして、今度来た時はこれをしてくれと言っているとは思いたくなかった。
「しかし、義照よ。能はあったが、猿楽や狂言もしないとはなぜじゃ?金は腐るほど持っておろうに」
(マジうぜぇ...管領じゃなければ今頃叩き斬ってるのに....)
「残念ながら名門の朝倉家のように裕福ではございませんので。今回は食事とこの後の催し物をお楽しみください。あぁ~名門の朝倉家当主であらせる管領様は見慣れているかとしれませんのでご容赦くだされ...」
冗談抜いてネチネチ五月蝿いのでこっちからも嫌味を込めて言ってやる。
義照はその後、三条西実澄卿、伊達輝宗、佐竹義重など来客の挨拶して回る。
料理も運び終わり、デザートを残すだけとなった。
「料理長。最後にあれを出してくれ。これで終わりにする」
「畏まりました。直ぐにお持ちします」
義照がそういうと顔が真っ白になっていた料理長は直ぐに調理場に戻った。最後のデザートを出すためだ。
少しして、女中達が親王様を含め客人全員にデザートを配る。
誰も見たことないのか不思議そうにそれを見ている。
「義照、このひんやりとした物はなんだ?」
「へぇ~まさか名門の朝倉家当主様が知らぬとは....。かの枕草子にも出てくる削り氷(かき氷)に御座います。果実の他に上にかけているのは果汁にございます。どうぞ御賞味くだされ」
義景の質問を馬鹿にしながら答えやった。たぶんかき氷は知っているだろうがここまで豪華になると別物に見えたのかもしれない。
(盛り付けは料理長に任せたけど、まるでパフェだな)
親王様がかき氷を旨そうに頬張るのを確認して最後の出し物を行うことにした。
「それでは宴の閉めとさせて頂きます。どうぞ皆様、夜空をご覧くだされ」
義照がそういい終わると全ての扉が外され、合図の笛が鳴り響いた。
そして
ヒュ~~ ドーン!!!!
夜空に大きな花が咲く。
そう花火である。
「花火か....」
そう口からこぼしたのは意外にも朝倉義景だった。
(へぇー冗談で言ったけど知ってたんだ)
俺はそんな義景を見た後花火を観賞した。
花火は現代の物と比べてバラつきはあるが、一番始めに打ち上げたのは二尺玉で、その後は4号玉をどんどん打ち上げている。
・・・数はそれほど無いが...。
花火自体は既に日本に伝わっているが、この戦国の世ではあまり打ち上げたと言う話しは聞かない。
そもそも、火薬が高価だからだ。
恐らく10分も経ってないが一発を残して打ち終わった。
「次で最後になります。最後の一発は大きいですので、念のためお気をつけください」
俺はそういうと鐘を鳴らさせた。正直、俺も現物は見ておらず、花火の打ち上げを任した陽炎衆や職人等から特大の花火としか聞いていなかった。
花火職人達への要望は、後世に残るくらいド派手な花火とだけ伝えている。
そして...心底後悔した。
ドーーーーーーーーーン!!!!!
さっきまでとは比べ物にならない程の轟音と共に夜空に大輪..いや太陽が昇った。
義照を含め鑑賞していた全員が轟音と花火の大きさに呆気に取られる。
(あいつら (陽炎衆及び花火作りに関わった者達)~!!!やりすぎだ~!!!!)
動画でしか見たことないが、少なくとも三尺玉より大きいのは間違いなかった。
流石の大きさと轟音に来客達も呆気に取られていた。
「えー以上をもちまして、催し物を終わります。まだ、余韻もごさいますのでどうぞ、御ゆるりとお過ごしください……」
俺はそれだけ伝えると、後の事を輝忠、兼照に任せて一目散に花火の発射場所に向かった。ただ、先ほどの音が酷かった為か馬が使えず走って向かうことになった。
道中、かなりの衝撃波があったのか打ち上げ場周辺を中心に建物がぶっ飛んだなど被害報告を受ける。まぁ、火事の報告がなかっただけマシだろう。ただ、すぐに救助と火事の警戒をするよう命を下す。
そして打ち上げ場に到着した頃には片付けが終わっていたのか花火の打ち上げに関わった者達がその場で小さな宴を開いていた。周りを見渡すと近くにあった小屋が無くなっていたり、発射用の筒の残骸らしいものもあった。
「あ!大殿様(義照)!!」
「みんな!大殿様がいらっしゃたぞ!!!」
一人が俺に気づき周りに大声で伝える。すると、呑むのを辞めて皆集まってきた。
集まって来た者達は包帯が巻かれたりした者が多く負傷し治療を受けたことは直ぐにわかった。
「大殿様!ご注文通りド派手な花火を打ち上げました!!」
「少し小屋がぶっ飛んでしまいましたが皆無事です!!」
「大殿様!最後の花火は後世に残るような代物でしたでしょうか?」
「・・・・はぁ~俺の依頼が悪かったな……」
俺(義照)がため息をついたことで集まった者達は不安そうな顔をする。
「まず、いい意味でも悪い意味でも後世には残るだろう」
「おお!!」「やったぞ!」
「だが!!!!今後最後の一発は禁止とする!お前らやりすぎだ!!建物に被害がでているぞ!!」
その後、俺は叱りながらも褒めた。そして、今回の花火の関係者全員の名前と花火の種類を記し、上田大神宮に納めるのだった。
後世に残れば歴史的資料になるだろう。
色々問題があったが明日には帰られるのでやっと親王様の巡行が終わると思い安堵するのだった。
そして翌日、親王様を美濃へ送る為に付いていっていたが道中問題が発生したので即座に上田城に戻ることになった。
そう、二人の男がやらかしたのだ。
仁科義勝と北畠具教である。
義勝と具教は、義照達が付いていっている時に勝手に訓練所で仕合した。義照は親王様が帰った後やれるよう手配をしていたが二人は我慢が出来なかったのである。
物音を聞いた巡回中の兵士達が訓練所に入ると血が飛び散り双方傷だらけで倒れていた。すぐに医者が呼ばれ手当てを受けどちらも命に別状はなく暫く療養中となるのだった。勝敗については本人達が口を閉ざした為どっちが勝ったのかは誰も分からない。
二人は義照から激怒され治療に使われる薬はわざと激痛が走る薬を使用され、二人は数日程痛みで悶え苦しむことになるのだった。




