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戦国生存記  作者: 現実逃避
122/180

122 隠居

元亀二年(1570年)7月

上田城


「・・・・・」


「大殿、そんな顔されても我等の思いは変わりません」


「幸隆殿の申す通りに御座います。我等二人、隠居させて頂く為、許しを頂戴したく存じます」


俺(義照)の前で真田幸隆と上泉秀綱の二人が隠居したいと言ってきた。

正直に言う、楽隠居なんてさせたくない。特に幸隆。


「でもなー、幸隆は軍監衆筆頭に三家老、秀綱は剣術指南役と輝若(輝若丸)の守役を任せているんだが...それに来年の夏には親王様が巡行の為、参られると言うのに...」


「三家老には馬場殿を推挙致します。倅の幸綱はまだ未熟、どうか重臣の末席で鍛え上げて頂きたい。また軍監衆の方は左近を推挙致します」


「亡き上様(義輝)の遺児であらせられる輝若丸様の守役は命ある限り続けますが、我が弟子、疋田景兼を後任とすることをお許し頂きたく存じます。剣術指南役は我が子秀胤と若君(輝忠)に仕えている、弟子の奥山公重の二人を推挙致します」


俺が言うと予想していたのか、すぐに後釜を推挙してきた。


(幸隆め、絶対隠居する気だな。てか、奥山公重って誰?そう言えば、昌豊が輝忠がかなり家臣を集めたって言ってたけど、確認すべきだったな……後でするか。……はぁ、何言っても隠居するんだろうな……)


「分かった。二人共認めよう……。二人が推挙した者を連れてこい。それと秀綱、輝若(輝若丸)のこと元服するまでは隠し通せ……景兼にも重々申し伝えておけ」


「畏まりました」


「幸隆、隠居する前に相談だ。三家老だが、昌祐と信春ともう一人誰が良いと思う?孫六は隠居こそしていないが、殆んど倅の二代目に受け継がせ始めているし、清種は流石にすぐ戻すことは出来ん...」


俺は清種が重臣に格下げされた為、空いていた最後の席に誰が良いか訪ねた。昌祐にも既に聞いている。一応俺も候補は二人いる。


「そうですね……なれば須田ですな。片腕なので戦での功績はあまりありませんが、古参で奉行衆筆頭で実績もあり、何よりあの甲斐を見事に立て直した功績は大きいかと。それに、戦働きだけではなく、他のこともきちんと評価されると知れば奉行衆もやる気を出しましょう」


「やはり須田か。分かった。下がっていい。二人共、今まで御苦労だった。」


二人は帰っていったが、俺はこれから隠居を願い出る者が増えるなと思い、世代交代が始まるのかと溜め息を付いた。


(はぁ……何だかんだ言って三十年近くは経つか……歳を取ったもんだな)


後日、幸隆と秀綱の隠居を発表し、三家老に馬場信春と須田満親がなること、剣術指南役を上泉秀胤と奥山公重に、軍監衆筆頭に島左近がなることを家臣全員に通達するのだった。

ただし、隠居した幸隆に最後の仕事を押し付けた。成功しても失敗しても、歴史に名を残すだろう。

本人は「ワシ折角隠居したのに……」とぼやいていた。



元亀二年(1570年)7月末

上田城


昌豊に輝忠が召し抱えた家臣達を名簿に纏めて持ってこいと命じ、持ってきた物を見て俺は驚いていた。


奥山公重のように俺(義照)が知らない者の名前もあるが、後世まで名を残した者の名も多くあったからだ。

そんな中で二人の名前に目が行った。


「昌豊、この二人はどう言うことか?」


持ってきた昌豊に書かれた名前を示すと(あぁ~やっぱりか)と思ったような表情を見せていた。


「諏訪勝頼と斎藤利三ですか。勝頼は若(輝忠)がどうしてもと譲らず・・・押しきられ、直臣とされました。斎藤利三が如何されましたか?」


「こいつ(利三)、頑固一徹(稲葉)の娘婿で家臣だぞ!どういうことか?」


「なんですと!!!」

俺が言うと知らなかったのか昌豊は驚き、すぐに捕まえて連れてくると言い、慌てて出ていった。


俺は珍しく慌てる昌豊を見送った後、改めて名簿を見た。

知らない者は置いておいて、俺でも知ってる者の名は...

諏訪勝頼、山内康豊、堀尾吉晴、斎藤利三、各務元正、榊原康政、服部正成だ。


山内康豊は山内一豊の弟、堀尾吉晴は三中老の一人で鬼の茂助、仏の茂助と言われた人物だ。

(・・・何処かで似たような渾名をよく聞いたが...忘れよう)


各務元正は鬼兵庫と言われ、森家に仕えた人物で森可成が討ち死にした後、宇佐山城を死守し蒲生氏郷が二万石で引き抜こうとした人物だ。


榊原康政は徳川四天王の一人で、服部正成は服部半蔵として有名な人物だ。


当時どちらもまだ徳川家の重臣ではなかったので、処罰の対象にはなっていなかった。だが、正成の父親は家康の切腹後に殉死している。よくは知らんが家康の祖父と家康、二人とも守れなかったとか何とかでらしい…。


暫くすると幸綱と昌房に両脇を抱えられて男がやって来た。

その後ろには昌豊と顔を真っ赤にした輝忠と、家臣団もだった。


「父上!これは一体どういうことですか!!」


輝忠が怒鳴って来たが無視して、幸綱と昌房に手で指示をし男を解放させた。


「お主が斎藤利三か?」


俺が男に訪ねると姿勢を正し堂々目の前に座った。


「はっ!斎藤内蔵助利三に御座います。大殿様(義照)に御目にかかれ光栄の至り!!」


(この状況で堂々とするとは……後世にまで残る人物は違うなー)


俺は斎藤利三に感心したが、今は確かめる方が先だった。


「利三、回りくどいことは無しだ。稲葉一徹の間者として来たのか?」


「いえ!我が妻は稲葉家の者ですが、此度稲葉家とは縁を切って参りました!最早あの男(稲葉)については行けませぬ!」


利三はそう言い放つと、これまでのことを説明してきた。

簡単に纏めると、土岐から道三に、道三から義龍に乗り換え、最後には龍興を裏切り織田に乗り換えたことが許せず、また家臣に対しても酷い仕打ちばかり行うので、稲葉家を出奔し光秀を頼ったそうだ。


だが、稲葉が信長に文句を言い、信長が光秀に利三を稲葉に返せと命じ、信長の家臣である光秀は拒否することが出来ず、悩んでいたところ、利治が輝忠の命で家臣を探していることを耳にして光秀から薦められてうちに来たそうだ。


稲葉は信長の重臣の一席におり、光秀は扱き使わ・・重用されているが、家臣に過ぎなかったので断れなかったのだろう。


因みに稲葉家の娘である妻を巻き込むまいと離縁しようとしたが断られ、付いてきているそうだ。ただ、稲葉家と手切れはしたそうだ。


「……はぁ~光秀か……。大方、俺に嘘を言えば容赦なく一族郎党全て首を刎ねられるとか言われてんだろ?。稲葉も信長もうち(村上家)におる家臣に手を出せばどうなるか知っておるしな。それで、光秀はなんか言ってたか?」


俺は手を額に置いて溜め息を付いた。

光秀なら義龍の側に居り、他の斎藤家家臣とは違い俺とも親しかったから詳しいだろう。


「はっ!大殿様(義照)に呼び出されるだろうから必ず包み隠さず話せと言われました。黙っていて後で知られたら舌を切られかねないぞとも」


「光秀め。舌を切るって閻魔大王じゃないんだからそんなことするか。全く……はぁ~」


(((いやいや、信州の閻魔って言われてるし、生きたまま人を解体したり火炙りにする人が何言ってんだ)))


義照は溜め息を付いたが、周りにいた者全員が同じ事を思った。特に輝忠が集めた新参以外は。


「分かった。まぁ、稲葉や光秀に通じたら素っ首落とすからいいだろう。昌豊、任せる」


「畏まりました」


「それで、輝忠。後ろに居る者達が召し抱えた者達か?」


俺が聞くと落ち着いた輝忠は確認して、そうだと言った。だが、ここにはいない者達もいる。


なので取り敢えずここにいる全員に自己紹介をして貰った。

俺が記憶している者も含めて以下の通りだった。


諏訪勝頼、山内康豊、堀尾吉晴、斎藤利三、各務元正、榊原康政、服部正成。


生駒親正、井上頼次、遠藤慶隆、青木一重。


「これだけもよく集めたものだな。しかし……山内、堀尾、お主ら元岩倉織田家の重臣であろう?故郷(尾張)から離れてもいいのか?それに、山内、お主の兄は浅井家に仕官しているのではなかったか?」


「はっ!確かに未練はありましたが、生きていく為に割りきりました。それに、織田家に仕えることに抵抗があります故」


「大殿様、兄一豊は既に浅井家を出奔し、父を討った信長の家臣の木下某とか言う山猿に仕官しました。もう関係ありません」


(山猿って秀吉...お前周りから相当酷い評価されてるんだな...)


「まぁ・・・そうか……。さて、ここでは実力主義だ。皆頑張るように」


「「「ははぁ!!」」」


俺が言うと、全員頭を下げて部屋を出ていくのだった。

義照は気付いていなかった。この中に三中老がもう一人いたことを……。




四国土佐

その頃、土佐では1つの家が終わりを迎えようとしていた。


殿との殿しんがりをした吉良親貞様、久武親信殿、討ち死にしたとのこと。一条、大友連合にも被害が大きかった為か進軍が止まりました。それと、東から三好勢一万五千がここ(岡豊城)に向かっているとのこと」


「そうか……三好勢に当たった親泰と親政の安否についてはあるか?」

長宗我部家当主、長宗我部元親は弟(親貞)の討ち死にを知らせた側近の中島可之助に訪ねた。


「いえ、まだ……」「殿~!!親泰様がお戻りになられました!!」


可之助が答える途中で、家臣が叫びながら飛び込んで来た。その後ろで負傷した腕を庇い、家臣に支えられ親泰が元親の前に現れた。


「兄上(元親)、申し訳ありません!!三好勢を抑えること出来ませんでした!」


「親泰、俺が焦ってしまったせいだ。お主のせいではない。親政はどうした?」


「父(親政)は殿しんがりとして残り、討ち死に致しました~」


元親が親泰に聞くと、親泰を支えて連れてきた親政の息子、福留儀重が泣きながら答えた。親政は親泰と儀重を逃がすために残り、見事に逃げる時間を稼いだのだった。


「そうか。儀重、すまんかった……」

元親はそう言うと頭を下げた。


四国の情勢は史実とあまり変わりなかったが、元親が一条家筆頭家老土居宗珊を謀略で兼定に殺させた後から大きく変わった。


一条家は土居を殺したことで史実以上に内輪揉めを始め、好機と見た元親が独立して一条家の内輪揉めを利用し、領地を奪っていった。


だが、元親と言う敵が出来たことで状況が一変した。一番の要因は三好家だった。


三好家は三好三人衆が討ち取られ、畿内に残っていた兵も軍神によって全滅し、建て直しの為、四国の領地に籠もっていた。


籠もっている間も長宗我部が度々ちょっかいを掛け領地を奪おうとしていたのだが、今回一条家から独立したのを機に三好家は一条家と同盟を結び、同じように長宗我部の被害に遭っていた河野も誘い、一時的に三家で停戦と対長宗我部で盟を結んだのだ。その為、元親の四方は全て敵となってしまった。


この同盟を纏めたのは三好家家臣ではなく、客将の一人の男だった。



元親もただ、座して見ていただけではなかった。

大友が一条の援軍として来たこと、河野が一条と同盟を結んだことを理由に毛利に近付き、同盟とまではいかなかったが毛利と河野は手切れとなり、毛利に大友を抑えて貰えることになった。


次に自身(元親)の妻が幕臣、石谷頼辰の異父妹だったので幕府に接近した。交渉は側近の可之助が行い、幕府が三好討伐を約束し上手くいったかのように見えたが、幕府で問題が起き御破算となった。


そう、摂津晴門の罷免と朝廷から幕府との関係を叱責されたのだ。

幕府は朝廷との関係回復の為に三好討伐を延期した。


その為、三好家を抑えることは出来なくなり、単独でやりあわなくてはならなくなった。

それだけならまだ何とかなっただろうが、更に悪いことは続いた。


前毛利家当主毛利元就が病にかかり倒れ、九州の方は龍造寺が大友の援軍として参戦し、毛利勢を筑前立花山城まで押し返したのだ。


大友は史実では今山の戦いを起こし龍造寺と争ったが、隆元が健在で毛利家が台頭してきたことで龍造寺を滅ぼすのではなく、味方に引き入れることにしたのだった。


龍造寺と大友は同盟し、条件として龍造寺が大友に人質を差し出すことで、大友が龍造寺家に肥前一国の領有を認めたのだ。


頼みの毛利家を抑えられたことで、元親は大友の援軍を得た一条家、河野家と三好家を一人で相手にしなくてはいけなくなり、今に至っている。



「殿、どうか石谷殿を頼り、京に落ち延びて下され」


「兄上、ここ(岡豊城)は私が勤めます。兄上は一族を連れて早くここを離れて下さい」


親泰と可之助が元親に懇願したが、元親は首を縦に振ることはなかった。


「奴等は必ず俺の首を取りに来る。俺がここに残り籠城すれば、奴等の目は釘付けになるだろう。親泰、皆を連れて城を離れろ。可之助、石谷殿との繋ぎを任せたぞ。儀重、親政に代わり千雄丸の守役を頼む」


元親は最後の命令をした後、妻の菜々や子供達の元に向かい別れを告げた。

親泰達は、亡くなった親貞の遺児達も保護して城から落ち延びるのだった。


元親は数万の軍勢に攻められながらも五日も粘り、最後は城に火を放ち敵を道連れに討死にするのだった。


親泰一行は必死に逃げ回り、道中、三好の追手に捕捉されたが可之助等数名が囮となって時間を稼ぎ、何とか四国を抜け出して和泉に到着した。


そこで元親の最後を知り、悲嘆に暮れながらも石谷頼辰の元に向かうのであった。



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