闇闘技場とオレ③
それから程なくして、帝都の主要な観光名所を一巡したオレ達は出発した宮殿前に戻ってきた。
そこには既にクレイからの使いが待っていて、一の門に向かうように伝言を受ける。
一の門とは、オレ達が最初に帝都に入る時使ったあの門のことで、伝言によるとクレイはそこで待っているとのことだ。
行くことに反対だったディノンは最初、不承不承といった感じで付いて来ていたけど、都内観光しているうちに次第と機嫌が良くなっていった。
何だかんだ言っても、オーリエと一緒に外を歩けるのが嬉しいらしい。
ディノン的にはデート気分なのかもしれない。
まぁほとんど、オレ達の会話に加わることは出来ず、オーリエの後ろから付いてくるだけだったけど。
「……という訳で、今から出発すれば街壁の閉門までにはぎりぎり帰って来れると思うが、どうする?」
クレイは、闇闘技場の場所について一通り説明するとオーリエの返答を待った。
「私はもちろん行くつもりだが、帝都の外となると二人を危険な目に会わせることになりかねないな」
オーリエはオレとユクを見ながら考え込んだ。
「オーリエさん、あたしは弱いですけど、リデルさんなら大丈夫ですよ」
ま、まさかユク。
「だって、リデルさんは先日、あたしを助けるために、悪い人達をたくさん懲らしめてくれたんですもん」
や、やっぱり……。
「何だと、リデルそれは本当か?」
オーリエが鋭い目でオレを質す。
「ま、まぁね。相手はただの酔っ払いだったからさ……ホント、ユクったら大袈裟だなぁ」
クレイの視線をちくちく感じながら、棒読みの台詞で口を濁す。
「そうか……確か授業の時もデイブレイク隊長に挑もうとしてたし、もしかして君は腕に覚えがあるのだな」
「た、たいしたことないよ。ただ、そこのクレイと一緒に、一応傭兵稼業をしてたからね」
言い逃れはできそうにないので、軽く認めておいた方が無難だ。
「なるほど、あのディノンへのパンチの冴えはそういうことか」
一人納得するオーリエ。
「パンチって、どういう意味だ?」
クレイがオーリエの発言に反応し、怪訝な顔でディノンの腫れた右頬を見つめる。
「ああ、それはですねぇ。ディノンさんがリデルさんに無理矢理、迫ったからなんです」
にこにこしながら、ユクが無邪気に報告する。
あ、ユク……またそんな問題発言を。
ぷちっ。
あれ、なんか切れたような音が……。
殺気を感じて振り返り、背筋が凍りつく。
ク、クレイさん……?
表情は先ほどのままだけど、目がめちゃくちゃ怒ってません?
「違う、違う。俺は迫っちゃいない。俺に惚れたリデルさんが照れ隠しに俺を殴っただけだか……ぐほっ」
クレイの鉄拳が思いきりディノンの左頬にめり込んだ。
「すまん、ディノン。虫がいたんでな……」
クレイは吹き飛んだディノンを見下ろしなら、黒い笑顔で平然と言い放つ。
まさか、クレイ。
お前、焼きもちやいてるのか?
それって、いろいろ不味いだろ。
オレが微妙な気持ちでいると、殴って気がすんだのか、クレイはディノンからオーリエに視線を移すと、表情を改めて尋ねる。
「で、もう一度訊くが、あんたはどうしたいんだ、オーリエ?」
「もちろん、私は行くつもりだ。リデルとユクについては本人達と護衛である君たち二人に任せよう」
「リデル、お前は?」
「答えはわかってるだろう」
オレの返答にため息をつきながら、今度はユクに問いかける。
「ユクはどうする?」
「オーリエさんとリデルさんが行くなら、あたしも行ってみたいです」
次にヒューを見る。
「私はユクの護衛ですから、彼女に従いましょう」
「だ、そうだ」
諦めた表情でオーリエに向き直る。
「皆が良ければ、私には異存はない。あとは君だけだ、クレイ。案内をしてもらえるのだろうか?」
『この大馬鹿者め』とオレにだけわかるように口パクで、オレに悪態をつきながらクレイはにっこりと笑顔を見せて、一言こう言った。
「仰せのままに、お嬢様方」




