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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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忘れられた都とオレ①

「はじめまして、ヒュー・ルーウィックと申します。よろしくお願いしますね」


 爽やかな笑顔を見せるヒューにユクは瞬きするのも忘れて固まっていた。


 用事が済んだヒューを迎えて、オレ達はユクとの親睦を深める意味も含めて、宿屋の一階で夕食をとっていた。


「ユク……?」


 そうだろうなぁと思いながら、オレはユクに声をかける。


 ヒューは美男子だし、物腰も柔らかく丁寧だ。

 たいていの女性が彼に対して好印象を持つのはごく当たり前のことだ。


「えっ……は、はい! あたしはユク・エヴィーネです。ユクと呼んでください」


 顔を真っ赤にしたユクはヒューにそう答えた後、物凄い勢いで隣にいたオレの肩をつかんで引き寄せると小声で確認する。


「リ、リデルさん……こ、こちらの方はどなたですか?」


「今、聞いたろう? 『白銀の騎士ヒュー・ルーウィック』だよ」


「白銀の騎士……」


 ユクはやっぱりという表情で、もう一度ヒューを見つめた。


「ユクはヒューのこと知ってるの?」


 何気なく言うとユクは勢い込んで答える。


「何、言ってるんですか。『白銀の騎士』様と言ったら、強くて美しいと評判の騎士様じゃないですか。女の子の憧れの的ですよ」


 し、知らなくてごめんよ。

 何しろ元男の子だからねぇ。


 憤慨しているユクを尻目にヒューに尋ねてみる。


「憧れの的だってさ……相変わらず凄い人気だね。で、話は変わるけど、ユクも一緒に帝都へ連れて行こうと思ってるんだけど、ダメかなぁ?」


 一瞬、ヒューは目をみはったけど、即座に頷いた。


「リデルがそうしたいなら、私に異存はありませんよ」


 基本、ヒューもクレイもオレに甘すぎると思うんだ。

 だんだん自分がわがままになっていく気がする。

 気をつけなきゃいけないと思うけど、こういう時はありがたい。


「ありがとう、ヒュー。わがまま言ってごめんね」


「そんなことはないですよ。それに私の方こそ勝手についてきている身ですから」


 少し反省してオレが俯いていると、ヒューは優しく否定してくれた。


「ヒュー、他人のことをどうこう言う筋合いはないが、お前の視点はすでに父親か兄貴のそれになってるぞ」


 苦笑しながらクレイが指摘する。


「クレイも他人のこと言えませんよ」


「馬鹿言え、俺のは正真正銘、恋人視点さ、なあ、リデル」


 そう言うとクレイはオレの頭を鷲掴みにしてくしゃくしゃとかき回した。


「ば、馬鹿だろ、お前?何言ってんだ、ユクがびっくりしてるだろ」


 クレイの手を振り払ったオレを見て、ユクは目を丸くして言った。


「仲……良いんですね」


「そうでもないと思うけど……ま、ヒューの許可も下りたことだし、帝都までよろしくね。あ、それとあと一人、先に帝都へ向かっていて、ここにいない連れがいるけど、会ったときに紹介するね」


 ソフィアには事後承諾になるけど、クレイの決めたことに彼女が反対するとは思えないから問題ないだろ。


「その方も美男子さんなんですか?」


 ユクが興味深そうに訊く。


「ん? 美男子じゃないけど、清楚な美女だよ」


「え、女の方なんですか? 」


「うん、優しい人だから安心していいよ」


「……」


 ユクの返事が無いので、見てみると浮かない顔をしている。


「どうかした?」


「あの……あたしお邪魔じゃないですか?」


「何で?」


「リデルさんとクレイさん、ヒューさんとその方って……その、恋人同士なのかなと思って」


 オレは飲んでいた果実酒シードルを思わず吹き出しそうになった。


「ちょっ……なんてこと言うんだ!」


「違うんですか?」


「ちがっ……」


「いやいや、間違ってはいないぞ」


 にやにやしながらクレイが口をはさむ。


 おいクレイ、横から口を出して話をややこしくするんじゃない。


「ソフィアさんは私にはもったいない方ですが、リデルとクレイに関しては、あながち間違ってるとは言えませんね」


 ヒュー、あんたも何言っちゃってるの?


「わかりました。リデルさんとクレイさんはラブラブな関係なんですね」


 ほら、完全に誤解したじゃないか。



 その後、機嫌を悪くして口をきかなくなったオレに対してクレイとヒューは平謝りし、ユクには冗談だと慌てて説明した。

 けど、ユクは素直に頷いたものの、半信半疑のようだ。


 全く……性格も趣味も全然違うのに、あの二人何故か気が合うらしい。


「リデルさん?」


 ユクが心配そうに見つめる。

 オレは仕方なく不機嫌な表情を消して、笑顔で答える。


「もう大丈夫だよ、心配させてゴメン」


 ユクに悪気はないんだから、いつまでも拗ねてるのは大人気ない。

 オレは気を取り直して反対に尋ねた。


「そういうユクはどうなの。彼氏いるんじゃないの?」


「え、いませんよ。あたしなんかを好きになってくれる人なんているわけないじゃないですか」


 さも、当たり前のようにユクは答えた。


 あれ、本気で言ってる?

 あどけなさが残る顔立ちに華奢な体つきで繊細な感じは、男性の保護欲を掻き立てること間違いない美少女に見えるんだけど……。


「なんで? ユク、すごく可愛いよ。小さな村じゃ目立ってたでしょ」


「お世辞を言ったらダメです。リデルさんが言うと他の子なら厭味と受け取っちゃいますよ」


 ユクは真顔で反論する。


「それにあたし……村では嫌われ者でしたから」


 嫌われ者……ユクの印象には不釣合いな言葉に思えた。


「それより、リデルさん。ソフィアさんってどんな感じの人なんですか?」


 さりげなく話題を切り替えたユクにそれ以上は訊けなかった。


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