プロローグ
……今まで誰にも負けたことがなかった。
悔しさを滲ませながら相手を睨みつけると、申し訳なさそうに彼女は言った。
「我に負けたからとて、恥じる必要はないぞ」
怒りと情けなさで頬が熱くなるのが自分でもわかった。
けれど、彼女に決して勝てないことは身をもって知ったばかりだ。
「いや、言い方が適切ではなかったかの……お主が弱かったのではないのだ。我は少々、この世界の理に反する身の上であっての」
風が金色の髪をそよがせると、ほつれた髪を煩げに押さえ、彼女は続けた。
「どうだ、もう悪さをせぬと誓ってくれれば、これ以上どうこうするつもりはないのだ……」
「わかった。あんたの僕となり、その命に従おう……」
その言葉に彼女は明らかに狼狽する。
「な……そんなつもりはないぞ。いや、それは困る」
「もう決めた」
彼女は一瞬、途方にくれた顔をしたが、小首を傾げて少し思案すると明るい口調で言った。
「そうか……それではお主を僕としよう。ただし、お主には今までどおりの生活を続けてもらう」
「それでは僕とは言えないのじゃないか?」
「まぁ、聞け。その代わり、毎年この日にここで会い、一年悪さをしなかったという報告をすることを命じよう。どうだ、できるか?」
「たやすいことだ」
「よし、決まりだ」
そう言って、子どものように笑った彼女に…………一瞬、見惚れた。




