エピローグ
本日2話投稿の2話目です。
エピローグとなります。
部屋に入って来たのは、今語ろうとしたクレイ本人だった。
「なんだ、誰かと思ったらクレイか。シンシアかと思ったよ」
しばらくアリスリーゼに行っていたらしく、ずいぶん会っていなかったので、ちょっと嬉しかったのだけど、口から出たのは憎まれ口だった。
どうしてだかクレイの前に立つと心にも無いことを口走る悪い癖が直らない。
「なんだクレイか、は無いだろう。久しぶりに会ったっていうのに」
「忙しいんだから仕方ないだろ。何の用だよ、時間が無いから手短に話せよ」
「ああ、そうするよ。どうしても、お前と話しておきたいことがあったんだ。でも良かったよ、お前ひとりで。ちょっと他人には聞かせたくない内容だったんでな」
「他人に聞かせたくない?」
何だろ、クレイが話し辛そうにするなんて珍しいことだ。
「お前、アリスリーゼに引きこもり二十歳になって帝位継承権が無くなったら皇女を辞めるつもりだろう?」
げ、バレてる。イーディスにしか話してなかったのに……さすがクレイ、オレの考えることがよくわかってる。まあ、長いこと相棒だったから、お見通しってことか。
「ソ、ソンナコトハ、ナイヨ」
オレが、あらぬ方向に目を背けて空々しく答えるとクレイはため息をついた。
「お前の考えることはバレバレだ、正直に話せ。で、辞めた後どうするつもりだったんだ?」
「……傭兵に戻ろうかと」
「止めとけ、すぐにバレる。今のお前の姿を記憶している傭兵は多い筈だ。だいたい、お前は目立ち過ぎるんだ」
目立つ容姿はオレのせいじゃないから。けど、クレイの言い分も尤もだ。確かにオレはあちらこちらで、いろいろやらかしてるから身元がバレるのも早いかもしれない。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
クレイが言っていることは正論なのに、つい突っかかってしまう。
「もうすぐアリスリーゼの港で俺の船が完成するんだ。どうだ、俺と一緒に外国にでも行かないか?」
オレの強い口調に対し、クレイは真剣な眼差しで答える。
「外国に? ……どういう意味だよ」
オレが訝し気な表情を浮かべると、クレイは頭をかきながら目を逸らした。
「わ、わからないのか?」
「?」
こんな奥歯にものが挟まったような言い方をするクレイも珍しい。いつもはハッキリとした物言いをする方なのに。
「リデル……その……な」
クレイは目を逸らしたまま、ぼそりと言う。
「プロポーズしたつもり……なんだが」
は? 何言ってんだ、こいつ。
ク、クレイがオレにプロポーズだって……!?
「ば、ば、ば、馬鹿なこと言うなよ。冗談にも程があるぞ……」
「冗談じゃない」
再び、真っ直ぐオレを見つめるクレイ。
「皇女のお前には結婚を申し込む訳にはいかないが、傭兵のリデルに戻るのなら、お前と一緒になりたいと思っている」
ま、マジですか、クレイ?
「ちょ、ちょっと待ってくれクレイ」
オレは真っ赤になり焦りまくってクレイを制止する。
「返事は今すぐで無くていい。お前が皇女を辞める時に答えを決めてくれればいいんだ」
「そ、それはそうなんだろうけども……」
「時間はまだある。ゆっくり考えて結論を出してくれ」
「で、でも……クレイ、お前の方こそオレでいいのか? オレ、元男子だったから、がさつで大雑把な性格してるよ」
「いや、逆だ。さっぱりしていて付き合いやすいし、好ましい性格だと俺は思うぞ」
「っ……料理や家事だって全然ダメダメだし」
「家事全般は家を出て一人暮らししていたから、俺が何でもこなせるから安心しろ。出来ないことも一緒に勉強していけばいいさ」
「ス、スタイルはこんなだし、ソフィアみたいにかっこいい女性にはなれそうにも無いよ」
「今のお前の姿が一番好ましいんだ。他は関係ない」
何を言っても切り返してくるクレイに対し、オレは言いたくなかったことを表情を暗くして言い放つ。
「オレ、お前の子を産んでやれない……んだ」
「うん、知ってる」
え?
意外な返答にオレは顔を上げてクレイを見つめる。
「何故、それを……?」
「トルペンから聞いた」
ト、トルペンの奴め!
「彼を責めないでやってくれ。俺が無理やり聞き出したようなものだからな……だから、お前の母親のこともお前が悩んでいることも俺は知った上でプロポーズしている」
「だったらなんで……」
オレは涙目になってクレイを睨む。
せっかく諦めたのに……ようやく心を決めたのに……。
「お前との間に子どもが出来なくてもいい。それでも俺はお前と結婚したいんだ。そりゃ、子どもが欲しくないと言ったら嘘になるが、もしそうなら養子をもらって二人で育てればいい」
「クレイ……」
大きく頷くクレイに対してオレはまだ踏ん切りがつかない。
「オレ、きっと不老不死だからクレイがお爺さんになっても先に死んじゃっても……生き残っちゃうんだよ……」
「悪いな、老後の面倒まで見させる羽目になって……けど、死に際はお前に看取って欲しい……我が儘でごめんな」
冗談めかして言うクレイにオレの目頭が熱くなる。
クレイ……こんなにもオレのこと想ってくれてたなんて……。
「し、しょうがないなぁ。そこまで言われたんじゃ、オレも考えなくちゃいけないじゃないか……」
「そうだ、前向きに考えてくれ」
うん、前向きに考えるよ。
初めて会った時から、クレイは常に前向きだった。オレは、そんなお前にずっと憧れていたんだ。女の子になってもそれは変わらない。いや、むしろ想いはずっと強くなった……そして気持ちの中身も変わった。
オレはクレイのことが……好きなのだ。確信を持って今なら言える。
だから……オレは。
「ねえ、クレイ」
「何だ?」
「オレって、たぶんずっとこのままの姿で変わらないと思うんだ」
「? まあ、そうだな」
「だからって、安心してもらっちゃ困るんだよね」
「どういう意味だ?」
「長いこと一緒に暮らしたら外見は別として内面は変わっていくと思うんだ」
「それは、そうだろう」
「だからさ……死ぬ間際に文句言われないように先に言っておくけど、オレだって……いつまでも可愛くしてると思うなよ!」
完
長い間、ありがとうございました。
ついに完結しました。
今は脱力感で何も考えられません。
記録を見ると、某別サイトに初めて発表したのが、2011年1月18日となっていました。
かれこれ、12年あまり(途中別作品執筆のため中断はありますが)も書き続けてきたことになります。我ながら、凄いなぁと思っています。しかも、縁がありコミカライズもしていただき、本当に皆様方に愛された作品だったとも感じております。
これもすべて、読んで下さる読者のおかげだと感謝の念に堪えません。
本当にありがとうございました。
これにて本編は完結いたしますが、要望があれば外伝も書きたいと思っています。
また、新作もほぼ設定が出来ましたので、あとは書き溜めする段階にきております。
発表の際はよろしくお願いいたします。
本当に本当にありがとうございました。
2023年4月2日 みまり




