それぞれの日々……⑤
シンシアの言葉にオレは、どきりとした。
何故なら、今回の一連のごたごたが片付いたら、皇宮から出てアリスリーゼに逃げ出そうと密かに考えていたからだ。
救国の皇女と噂されているオレがいるとイーディスも何かとやりにくいだろうし、何よりレオン、アルフレート両公子からのしつこい求婚攻撃が予想されて面倒だったのだ。
まだ誰にも言っていないのに、クレイの奴オレの考えを読んでたんだ。まあ、長年一緒にいたから、そのくらい当然か。
でも確かにアリスリーゼに引きこもるなら、クレイが近くにいた方が何かと便利……心強い存在と言えた。隠してサプライズを狙っているなら、せいぜい大袈裟に驚いてやるとしよう。
「けど、シンシア。アリスリーゼってレイモンドさん(の商会)のお膝元だろ、大丈夫なのか?」
レイモンド・フィールはアリスリーゼの代理統治官で実質上のアリスリーゼの為政者だ。元は大商人でオレの親父に見出されて今の地位に就いた人物だ。アリスリーゼが貿易都市として名を馳せるのは彼の手腕に寄るところが大きい。
海千山千のレイモンドと渡り合うのはさすがのクレイでも分が悪いだろう。
「そのあたりは、すでに織り込み済みのようです。元々、クレイ様は小さい頃からレイモンド様のお気に入りでしたから」
「そういや、顔見知りで何か因縁ありげだったな」
よく覚えてないけど、アリスリーゼでもそんな話を聞いたような気がする。レイモンドさん、本当はクレイと一人娘のサラリエさんとを結婚させたかったのだとか……婿は駄目でも嫁に出してゴルドー商会と強固な関係を築きたかったらしい。
ただ、オレはサラリエさん(旅の文芸家のサラとして)とアリスリーゼまで一緒に旅したけど、かなりぶっ飛んだ性格だったので、仮に結婚したとしてもクレイと上手くいくとはとても思えなかった。あいつ、意外と清楚系が好きらしいから、ああいいうタイプは好みじゃないみたい。
えっ、オレも清楚系じゃないって? 悪かったな、大人しくなくって。まあ、見た目や性格的に一番ぴったりなのはソフィアだろうけど。スタイルも抜群だしね。
あれ、何か微妙に凹んできたぞ。
「アリシア殿下。クレイさんがアリスリーゼで商会を立ち上げるということは、もしかして、アリシア殿下もアリスリーゼに赴くつもりということなのでしょうか?」
オレとシンシアの話を黙って聞いていたアレイラが険しい顔付きで質問してきた。
「いや、決まってはいないよ。そもそも、クレイの動向なんて今初めて聞いたし、示し合わせてなんていないから」
素知らぬ顔で否定しておく。
逃げ出すと聞いたら、止めにかかる者は多いに違いない。特に、アレイラの上司であるケルヴィンは特にその筆頭だろう。
彼は皇帝の権力が強大化することを危惧するタイプなので、オレという対抗馬いる方が都合が良いらしい。
また、帝国内唯一の独立勢力である皇女直轄領アリスリーゼの存在も危険視していて、オレがアリスリーゼを拠点とすることに反対する立場だった。
「本当ですか? 私としては隠し事をしているように感じま……」
「アレイラ様。イーディス陛下ガ、オ見エニナリマシタ」
なおも食い下がろうとするアレイラにハーマリーナ似の侍女が皇帝の到着を告げた。
◇◆◇◆◇◆
「立ち入った話をするので、席を外してくれ」
着座したイーディス皇帝は開口一番に人払いを命じた。
「え~っ、あたしもリデルと話がしたいようぅ」
「エクシィ、陛下ヲ困ラセナイ。サッサト、退出スル」
イーディスの護衛として付いてきたエクシィが文句を垂れると同様に侍女として控えていたハーマリーナが窘める。
「エクシィ……」
イーディスが、じっと見つめるとエクシィは渋々と従う素振りを見せる。
「ちぇっ、つまんないの……ねえリデル、また遊びに行くから今度こそ勝負しような」
「暇があったらね」
ほとんど無いけど。
「エクシィ、諦メテ行キマスヨ」
「あ~ん、リデルうぅ」
ハーマリーナに服を掴まれてズルズルと引きずられながらエクシィが退出して行く。
全く騒がしいったら、ありゃしない。
「それではリデル様。お話がお済になりましたら、お呼びください」
「私より強いから心配してませんけど、何かあったらお声かけください」
シンシアとオーリエも一礼して部屋から出て行った。
最後に残ったアレイラに対し、イーディスが視線を向ける。
「え、わたくしもですか?」
残る気満々だったアレイラは目を見開く。
「ああ、例外は無い」
「…………承知いたしましたわ」
立ち上がったアレイラはオレの方をちらりと一瞥し、名残惜しそうな表情を見せながら談話室を後にした。
イーディスとオレの二人きりになった。
「イーディス陛下、ご機嫌麗しゅうございます。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
「アリシア、堅苦しい言葉遣いをしなくていい。私と君の二人きりだ。ざっくばらんで構わない。敬語が苦手だろう、君は」
オレが面倒くさいのを我慢して宮廷言葉を使ったら、イーディスに気遣われた。
「…………じゃ、そうさせてもらう。上手くしゃべれるか不安だったんだ」
社交辞令だったかもしれないが、言質は取ったのでさっそく普通にしゃべることにする。
けど、イーディスも少し変わった気がする。前は儀式や作法にうるさく、オレの話し方に対してもネチネチと難癖をつけていたのに今日は素のままでいいだなんて、どういう風の吹き回しだろう。
「構わぬから、そうしてくれ。舌を噛んだり、つっかえて話すより、ずっと聞きやすい。そもそも君の頭では宮廷作法に則った会話は無理だろう」
前言撤回。全然変わっていない。毒舌で合理的なところは昔のままだ。
「それよりも、君に一言、言っておきたいことがある」
え? オレいきなり文句言われるの?
何か怒られるようなことしたっけ…………いや、ありすぎて逆にわからん。
「その……謁見の間の件は……ありがとう」
ぎこちない表情で消え入りそうな声だが明確に礼を述べるイーディスにオレは呆気にとられる。
「それと、お父様…………アイル皇子を安らかに眠らせてくれたことにも礼を言いたい。ありがとう、とても感謝している」
あの……貴女、本当にイーディス? もしかして影武者とかじゃないよね。
今回は本当に間に合わないかと思いました(>_<)
リアルが忙し過ぎて時間が足りないです。
なので、誤字等ありましたら誤字報告をお願いいたします。
新作の内容、ほぼ決定しましたが、上記のような状態で一頁も書けていません。
本作が完結したら、しばらく充填期間をいただくかもしれません。
その折にはよろしくお願いいたします。




