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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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終焉……③


 手加減だと? よく言うよ、危うく倒されそうになってた癖に。

 ただの張ったりだとは思うけど、用心に越したことはない。


「クレイ、何か仕掛けてくるかもしれない。壁際まで下がって……」


 言いかけた次の瞬間、オレの目の前にひやりとした冷たい石の壁があった。


 あれ? 何でこんなところに石の壁があるんだ…………いや、違う。これは壁なんかじゃない床だ。そう、謁見の間の床だ。


 そこでようやく自分が床の上に倒れ伏していることに気付く。


 何が起こった? ついさっきまでゾルダートと対峙していた筈なのに。


 オレは両手をついて状態を起こそうとするが、身体を抑え込むような物凄い圧迫感を覚え、顔だけ上げて周囲を見渡した。


 元々、味方でオレ以外でまともに立っていた者はイーディスくらいしかいなかったのだけど、その彼女もオレと同様にうずくまっていた。他の者は、それ以前の戦いで損耗し、思い思いの恰好で体力回復に努めていた筈だが、今はみんな身体を倒して苦し気な表情をしているようだ。例外はハーマリーナとトルペンだけで、彼らはさきほど変わらぬ表情で立ち尽くし、オレ達の苦しむ様子を困惑気に見つめていた。


(リデル様? 如何しましたか? 不意に倒れたようですが……)


 オレにも、よくわからない。いったい何が起きているんだ?


(私にも判りかねますが、どうやらゾルダートから何か瘴気のようなものが出ているように感じます)


 瘴気? そう言えば、謁見の間は魔法アイテムによる光源で昼間ほどでは無いが十分な明るさがあったはずなのに、今は何だか薄ぼんやり暗くなっている。

 特にゾルダート周辺はその暗がりが強いように見て取れた。


(さらに、この瘴気に触れると生き物はその生命力が減じられていくようです。ハーマリーナは機械仕掛けで、私は本体がこの場にいないので影響を受けないようですが)


 そうか、それでオレも一瞬意識を手放して床に突っ伏したのか。


 待てよ、身体能力お化けのオレでさえこうなったのだから、普通の人間なら死んだっておかしくない。


「クレイ、ヒュー。大丈夫か!」


 慌てて声をかけると、二人とも微かに反応を見せるが芳しい状態では無いようだ。


「そっちはどう?」


 今度は向こうの陣営に声をかけると返答が返ってきたのイクスだけだった。


「イーディスは気力で持ちこたえてるけど時間の問題だね。エクシィは自分の生命力をこっそりイーディスに送っているらしく珍しく大人しいよ」


「イクス、お前は?」


「万全だったら、こんなの屁でも無いけど、さすがに弱体した状態だと、ちょっと堪えるかな」


 猫の身体を床にだらんと伸ばし、全く大丈夫そうには見えなかったけど、口だけは負け惜しみを言っている。

 かく言うオレ自身も、かろうじて手足は動かせるけど鉛のように身体が重くて動く気力さえ起きなかった。


「どうかね、アリシア。わしの力を思い知ったであろう。自分の思い上がりに十分気付けたと思うのだが」


 ゾルダートが変わらぬ悲し気な表情をしながら、口調だけは面白がるように言った。


「偉そうなこと言うけど、あんただって膝を付いてるじゃないか」


 そう、この状況を引き起こした当の本人のゾルダート自身も膝を屈して先ほどから微動だにしていなかったのだ。




「いったい、何をしたんだゾルダート。この状況はいったい?」


「なに、簡単なことだよ。今、皇宮外で信徒達が負のエネルギーをわしに捧げてくれているが、そもそも邪神としてのわしの権能は全ての生きとし生ける者の生体エネルギーを吸収することにあるのだ。その権能の一部をこの場にいる者から生体エネルギーを吸収するように転化しただけのこと」


 生体エネルギーの吸収だって?


「もっとも、その効果を持続させるためには、このわしもこのように動きを止めなくてはならんのだがね」


 事もなげに言ったが、動けないことは不本意そうだ。


「さあ、どうするかね。君は大丈夫であろうが、他の者は耐えられまいよ。彼らを助けたければ、早いうちに降参することだ」


 くそっ、確かにゾルダートの言う通りだ。このままじゃ、他のみんなが危ない。

 何か、手を打たないと……でも、どうすればいいんだ。

 

 こんな時、オレの例の力が自由に使えればいいんだけど、あの力はオレの命が危険にならないと発動しない。

 なんなら、前みたく意図的に自分の命が危険になるように仕向ければ……いや、ダメだ

そんなことぐらいゾルダートも承知している筈だ。

 現に今までもオレに対してだけは致死性の攻撃は一切してきていない。そもそもの話、動きの取れない今のこの状態でそうした行動を取ることさえ不可能だろう。


 歯嚙みする思いでゾルダートを睨みつけると、奴は不敵に笑った。


「ほう、まだ屈しないか。さすが、わしの見込んだ依り代だ。そうでなくてはいかん。しかし、これでどうだ」


 そう言うとゾルダートの瘴気はより濃度を強め、謁見の間全体に黒いもやがかかったようになる。


「くっ……」


 その黒い奔流に抗おうとオレが無理やり立ち上がろうとした瞬間、不意にオレの視界が真っ白になった。



(あれ、なんだここ?)


 一面、白い世界になったとたん、先ほどまでの暴力的な圧迫感が嘘のように消え失せる。


 オレは不思議な面持ちで立ち上がると辺りを見渡した。


 (オレ、謁見の間にいた筈だよね)


 見渡す限り白一色で地平線さえ見えない。とても建物の中とは思えなかった。


(ここはどこだ? みんなはどこに行った? これってゾルダートの新たな魔法なのか?)


 オレが途方に暮れていると、ふと誰かが前にいることに気が付く。


 驚いて後ろに下がって身構えると、一人の女性が立っているのが見えた。


「あの……貴女、誰ですか?」


 警戒しながらそう問いかけたオレはその女性をそっと観察する。


 とても美しい人だった。透き通るような白い肌で長い銀髪を腰まで伸ばし、かんばせはほんの少し少女の幼さを残し、華奢な肢体は匂い立つような大人の色香を纏っていた。そして、オレには何だか懐かしい感じがした。

 その容姿は以前、夢で見た母の姿とは全く違っていたけれど、どこか似ているような気がしてならなかったのだ。


 彼女はオレの問いかけに答えず、付いて来てという仕草を見せると先に立って歩き始める。


「え、ちょっと待って」


 どうしていいか判断に迷ったオレだが、他に選択肢が無く慌てて彼女の後を追った。


メリークリスマス!(>_<)


寒い毎日が続き、温かいお布団さんと仲良しの作者です。

いやあ、ホントに年末ですね。

今年もいろんなことがありました(遠い目)

来年も完結に向けて頑張りたいです。

おそらく年度内には終わりそうな感じですw


次回は1月1日更新の予定です。

皆様も良いお年を♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「え、ちょっと待って」 リデル君、実はそこらのSNSによくいる女子だったの巻。 ゾルダートに生気チュウチュウされたり、命の危険を感じてチートパワーを発揮してる間にもこっそりスマホをやって…
[一言] 知らない人について行っちゃいけません!(笑)
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