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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
620/655

謁見の間にて……⑬


「エクシィ……」


「ん、何だい、リデル姉さん」


「……やっぱりとどめ刺してやろうか?」


「じょ、冗談だよ。いやだなぁ、お茶目な冗句なのに……」


 悪びれた様子もなくニヤニヤしながら、エクシィが答える。


「はぁぁ……」


 オレは脱力しながら溜息を付く。


「まあ……そんなふざけたことが言えるようなら、怪我の心配はしなくても良さそうだね。イーディスも心配して走って来てるから安心させてやりなよ」


 さっきまでの精神集中のせいで、周りの様子が見て取れるオレにはこちらに向かって駆け寄って来るイーディスの姿が見えていた。


「そうするよ。ただ兄貴との件、わりとガチなんだけどなぁ……しょうがないか。あの馬鹿兄貴じゃ、あたしがリデルの立場でも断固拒否だから当然と言えば当然か」


 イクス……妹のお前の評価、最悪だぞ。けど、エクシィ。そんな最低の兄貴をオレに押し付けるなよ。それにあいつだって、あいつなりに良いところが…………ひ、一つも思い浮かばない。


 改めてイクスの評価を底値まで下げていると、オレを押しのけてイーディスがエクシィの元へと歩み寄る。


「エクシィ、無事なのか!」


「ごめん、イーディス。大口叩いたのに負けちゃったよ」


「そんなことはいい……お前が無事であるなら些細なことだ。それに相手(リデル)はお前の兄と同様、人間を捨てたやからだからな。気にする必要は無い」


 し、失敬な。オレはれっきとした人間だぞ。ちょっとばかり、人より頑丈なだけだ。

 それに、それを言うならエクシィだって十分、人間の範疇を超えてるだろ。


「ところでさ、エクシィ。両腕の骨折って、すぐには治らないのか? イクスの奴は利き腕を骨折しても一晩経ったら治ってたぞ」


「あたしは人間なんだぞ。あんな兄貴(やつ)と一緒にしないでくれ。兄貴の奴、こっちの世界に来るとき、いろいろズルしたらしくて、ほとんど人間じゃ無くなってるんだから」


 兄と同列に扱ったオレに対し、エクシィは憤懣ふんまんやるかたないと言った態度を見せる。


「ふうん。じゃあ、しばらくはエクシィも不便な生活をいられそうなんだ」


「まあね、でも兄貴には及ばないけど、あたしも一応再生能力持ちだからさ。そうだな……一週間程度で治るんじゃないかな」


 あ、やっぱり治るんだ。それって、絶対普通の人間ではないと思う。


「あっ、リデル。『やっぱり兄貴と同じで普通の人間じゃねぇ』と思っただろ。けど、頭を潰されて生き返るあんたにだけは、言われたくないぞ」


 ごもっとも。オレも最近、普通の人間でない自覚はあります。


「リデル、エクシィは怪我人なのだ。そのくらいにしてやってくれぬか?」


 暢気に話し込むオレ達に痺れを切らしてイーディスが話に割り込む。


「エクシィのことは私が面倒見よう。リデルは次の対戦のことを考えるべきではないのか」


 イーディスの正論にオレは一言も弁明できず、エクシィを彼女に任せると、その場から離れた。

 そして、アイル皇子を護る盾のように仁王立ちする黒鎧(こくがい)の騎士に近づく。




「次は、いよいよあんたとの勝負だね」


 ヴァンダインの前に立ち、見上げながら相手を観察する。


 ヒューが激戦の末、与えた鎧への数々のダメージは今や完全に復元していた。傷一つなく黒光りするそれは、作られたばかりの新品のようだ。

 何類の神具かは不明だが、きっと名のある武具なのだろう。


「ふむ、小さき武神よ。見事な戦いぶりであった」


 フルフェイスの兜のせいでヴァンダインの表情はわからなかったけど、しゃがれた声からは驚きの感情が感じ取れた。


「そりゃ、どうも」


「武技においても身体能力においても、我は貴君にとうてい及ばざる未熟の徒であろうが、勝敗は時の運と言う。我も全身全霊を賭して戦うが故、心して挑まれるがよい」


「何言ってるかよくわかんないけど、要は本気でかかって来いってことだよね」


「概ね正しい」


 ユーリス師匠もラドベルクもそうだけど、一流の武人って何かいつも難しいこと考えてるような気がするのはオレだけだろうか。

 もしかして、オレって脳筋だから一流の武人になれないのかも……。


「小さき武神よ。連戦では疲れよう。十全の力を発揮するためにも、しばしの休憩を取ることを勧める」


 た、確かに。

 ヴァンダインは強敵だし、少しでも疲労を回復させておきたい。


「ありがとう、ヴァンダイン。お言葉に甘えさてもらうよ」


 ちらりとアイル皇子を見たけど、反対する素振りは見せなかったので、素直にヴァンダインの提案を受け入れる。



「リデル、先ほどの私の掛け声、申し訳ありませんでした。かえって貴女を混乱させてしまったようで……」


 休憩のために、ヒューやトルペンのところまで戻ると動けないヒューが申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、ヒュー。全然、気にしなくていいよ。オレのこと思っての声援だってわかってるから……それより」


 オレは真剣な顔でヒューに問う。


「ヴァンダインのこと教えて欲しい。実際に戦ってみてどうだった?」


 わざわざ休憩を取ったのは、相対したヒューの意見を聞きたかったのもある。


「ヴァンダインですか……」


 ヒューは考え込むように黙り込んだ。


「オレから見ると、終始ヒューの方が圧倒していたように見えたんだけど」


 事実、ヒューの『気力』切れが無ければ、ヒューの方が勝っていたようにさえ思えた。


「そうですね……強いのは間違いなく確かですが、埋めようのない実力差があるようには思えませんでした」


 ヒューは思い出すように目を瞑りながら続ける。


「負けた私が言うのも烏滸おこがましいですが、あの神具と思われる黒鎧が無ければ、ルマの武闘大会無差別級上位入賞者レベルのように思えます」


 つまり、武闘王ラドベルクに及ばないと言っているのに等しい。


「はっきり申せば、貴女の方が歴然に強いと思います。先ほどのエクシィとの戦いを見て、私は貴女との彼我ひがの差に絶望しているほどですから」


「ヒュー……」


「リデル、自信を持って下さい。貴女が負けることなど私は想像できません」


「わかった……オレ必ず勝つよ。そこで、見ててくれ」


 オレが強い調子で断言するとヒューは満足げな顔になったが、急に何か思い出したように口を開く。


「あと、それと少し不思議なことに気付きまして……いえ、いいです。何でもありません。ただの既視感ですので……」


「既視感……?」  


「小さき武神よ。そろそろ良いだろうか?」


 ヒューが何か言いかけたが、ヴァンダインの言葉で会話は途切れてしまった。


次章、新章の予定です。

いよいよ黒鎧の騎士と対決です。

果たして、決着は……。


知人がNET詐欺に遭ったと聞き、ショックを受け家族に話したら、過去に家族も詐欺に遭っていたことが発覚(>_<)

怖い世の中ですね。毎日にように怪しいメールが届くので、私も気を付けなければ……。

皆様もお気を付けください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リデル君、エクシィから人間外認定を食らう。 全部よく分からない高貴なチート血筋のせい。 聖石で男に戻ったら、謎の力は無くなるんでしょうか? [気になる点] >過去に家族も詐欺に遭っていた…
[一言] どんな既視感があったのか 謁見の間[■■■■■□□□□□]
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