謁見の間にて……⑦
誤字報告、いつもありがとうございます。
6月18日、前話修正しました。(後半、2行追加)
申し訳ありませんでした。
トルペンは外した仮面や脱いだローブを見えない空間にしまうと、代わりに前にオレと戦った時に使った長剣を取り出した。
軽く素振りして握る感触を確かめるとハーマリーナに向かって剣を構える。
一方のハーマリーナも伸ばした両手の手首の裏から、どういう仕掛けかは分からないが、しゅっと剣を飛び出させると顔の前で十字に構え、淡々とした表情でトルペンに相対した。
今度は、二人とも本当にいわゆる剣士の間合いで距離を空けている。もっとも短距離転移するハーマリーナと飛ぶように跳躍するトルペンにとっては形式上のものに過ぎないだろうが。
「あ……」
ほんのしばらく、じっと構えたまま動かない二人にオレが少し焦れていると、何の前触れも無く両者は動いた。
トルペンが真っ直ぐ突進し、ハーマリーナがそれを受け止める格好だ。鋭いトルペンの斬撃をハーマリーナは左手剣で受け流し、すかさず右手剣で突きを放つ。
それに対し、トルペンは身体を捻って躱し、大きく後退して距離を取る。
まるで武闘大会の剣士のような戦いぶりだ。
膂力ではトルペンが、俊敏さではハーマリーナの方がわずかに分があるように見えた。何合かの打ち合いを繰り返したが、埒が明かないと見るやトルペンは奥の手を出して来る。
「……ッ」
受け流したはずトルペンの剣が中空で何かに弾かれたように軌道を変え、ハーマリーナを切り裂く。反射的に紙一重で避け、身体にこそ傷は負わなかったが、衣装がぱっくりと裂け素肌を覗かせる。咄嗟に転移し、大きく後退したハーマリーナは裂けた衣装を見下ろすと、ゆっくり顔を上げトルペンに視線を向けた。
整った人形めいた顔は相変わらず何の表情も見せていなかったが、オレにはその視線に驚きと喜びの感情がわずかに見てとれるように感じた。
――喜び?
そう、錯覚かもしれないが、確かにハーマリーナは喜んでいるように見えた。
最初は命令として淡々と仕事をこなしているだけの感じだったのが、戦闘が長引くにつれ、動きもどこか生き生きとしてきて、楽しんでいるようにさえ思えたのだ。
それにしても、初めて感情らしい感情を見せたというのに、その発露が好敵手と戦う『喜び』とは……。
今まではオレと正反対の理知的なタイプと思っていたけど、彼女もまたこっち側の人間だったらしい。
オレが歓迎(?)の生暖かい目でハーマリーナを見ていると、すっとハーマリーナの姿が消えた。
次の瞬間、トルペンの背後に現れ、二刀の剣で襲い掛かる。
トルペンが奥の手を出したので、ハーマリーナも得意の戦法を駆使することにしたようだ。それに対しトルペンは振り向きもせず、背中に防御障壁を展開しハーマリーナの攻撃を阻止した。
いなや、半回転して長剣を横殴りに斬り、背後のハーマリーナを切り捨てようとするが、ハーマリーナは再び転移し、トルペンの攻撃を空振りに終わらせる。
「何か二人ともすごい……」
目の前の二人の攻防に、同じ戦いを生業とする者としてオレは純粋に感動していた。
その後の二人の戦いは、一進一退を繰り返す。
以前のオレとトルペンとの戦いのように互いが相手を攻め切る決め手を欠いていたのだ。
短距離空間転移と絶対障壁……この二つの能力が強すぎて決着が着かない。
両者ともスタミナも無尽蔵のようだし、そろそろ引き分けでも良いのではないかとオレが思い始めた頃、トルペンが勝負に出た。
オレと戦った時も今もそうだが、絶対障壁は攻撃か防御のどちらかしか使えない。最初の攻撃以外はハーマリーナの転移攻撃を避けるためトルペンは障壁を防御に使用していた。
それを、攻撃に使用する戦法に転じたのだ。
ただ、それは諸刃の剣と言えた。
ハーマリーナの短距離転移は防御と同時に攻撃にも連動していたからだ。
けど、オレが目にした光景は意外なものだった。
「……ッ」
ハーマリーナが短距離転移に失敗し、トルペンの一撃を剣で受けたのだ。
「な……どういうことだ?」
「おそらくトルペン殿の障壁にはハーマリーナの転移を阻害する能力があるのでしょう」
「え? ヒュー?」
いの間にか息を吹き返していたヒューがオレの腕の中で感想を述べる。
「大丈夫か、ヒュー」
「身体は動きませんが、意識ははっきりしています。私を守って下さったようで、ありがとうございます、リデル。……それと先ほどは不甲斐ない戦いをしてしまって申し訳ありません」
顔だけは、わずかに動かせるヒューが目を伏せて謝罪する。
「そんなことない。よく頑張ったさ。あいつが言った通り、神具の差だったと思うよ」
「いえ、あれは彼流の慰めの言葉に過ぎません。どう見ても自分の力不足です」
「そ、それよりヒュー。さっき言ったことは?」
うなだれるヒューに話題を変える意味でも、さきほどの疑問をぶつける。
「ああ、あれですか。どうやら、ハーマリーナはトルペンの剣を避けようとする時、無意識に剣先から遠のくように転移していたようです。そこにトルペン殿が絶対障壁を展開し転移を阻止したというところでしょうか」
「何それ、トルペンの障壁、強過ぎない?」
「空間転移も魔法の一種です。魔法を遮ることの出来る絶対障壁ならあり得る話でしょう。実際、ファニラ神殿でもハーマリーナの転移はフェルナトウの結界に阻まれていたようですから」
空間転移を阻止できるならトルペンの勝機も高まると言えたが、逆もまた真なりだ。
トルペンが絶対障壁を攻撃に使ったと言うことは防御が疎かになる。
案の定、トルペンの攻撃が再びハーマリーナを捉えた直後だ。瞬時に消えたハーマリーナはトルペンの背後に現れると両手に持つ剣で斬りかかった。
当然、絶対障壁は現れず、ハーマリーナの剣はトルペンを貫くかに見えた。
「トルペン!」
無防備状態のトルペンは身体を回転させて背後に向き、ハーマリーナの攻撃を身体前面で受け止めた。けれど、肩口を斬られながらもトルペンは両腕を伸ばすとハーマリーナの両手をぎゅっと掴んだ。
「引っかかりましたネ、ハーマリーナさん。この瞬間を待ってまシタ」
「……?」
次の瞬間、二人をドーム状になった青白い半球が包んだ。
よく見ると、絶対障壁をたくさんの板状にして張り合わせ、小さな半球を形成しているのが分かる。
「これなら、周りに被害が及びませんし、逃げられませんからネ」
「ナ、何スル?」
ハーマリーナの目が不安げに見開く。
「今度は本気の火球デス。我輩の竜鱗と貴女の外皮装甲、どちらが強いか勝負しまショウ」
トルペンがそう言った刹那、半球の中が火炎と爆風で赤黒く染まり、中が全く見えなくなった。
あれ? 第2試合が長い?
次回、決着します(>_<)
シンウルトラマン見てきました。
とても面白かったです。
山本耕史さんのファンなので嬉しかった。
鎌倉殿も見てますw
胡散臭い色男をやらせたら天下一品だと思ってます。




