ゾルダートの闇……③
「ですが、皇女殿下以外は『我が主』に謁見を許されておりません。不要なゴミ虫どもはここで排除しなければなりませんね」
「へえ、やれるもんなら、やってみて欲しいな」
バルニグがオレ以外の者達に対し吐き捨てるような口調で言うと、エクシィは挑発するように言い返す。
「この私を、いつまでも昔の前のままの私と見くびらぬ方が身のためなのですが、所詮卑しい異界の住人。何を言っても無駄でしょう」
「では、見せてもらおうか。ニュー・バルニグの性能とやらを……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
見下すバルニグと芝居がかった言い回しをするエクシィの間にオレは慌てて割って入る。
どうしても聞きたいことがあったからだ。
「バルニグ、答えてくれ。クレイは……クレイ・ハーグリーブスはどこにいるんだ?」
さっき骸の山をちらりと確認したがクレイらしい男はいなかった。
安心はしたけど、依然あいつの消息は不明のままだ。
「クレイ・ハーグリーブス? さあ、そのような人物は存じ上げませんが」
クレイのことを知らない?
バルニグはここの責任者だろうに、その彼が知らないなんてことはあるのだろうか。
「ここに捕らえられてるって、確かに聞いたんだ」
「はて、どなたからでしょうか?」
「……イクスからだけど、ここにいるハーマリーナが連れてきた筈だ」
エクシィと一緒に部屋へ入って来ているハーマリーナに目を向けると彼女はぎこちなく頷く。
「ふむ。もし、それが事実であるのならば大方、前任のフェルナトウ導師が処分なさったのではありませんか」
「嘘だ!」
思わず大声で否定する。
「フェルナトウがファニラ神殿で言ったんだ。逆らえば、捕らえているクレイに害をなすって……」
そう口にしてからオレは蒼白になる。
そうだ、確かにファニラ神殿でフェルナトウは言った、『そこで見ていなさい』と。
さもなければ、クレイの身が危うくなるとオレを脅したのだ。
「まさか戻ったフェルナトウがクレイを……」
もしかして、ファニラ神殿から逃亡したフェルナトウが逆らったオレに対し宣言通り報復したと言うのか?
愕然となったオレが膝から崩れ落ちそうになるところ、バルニグが訝し気に尋ねてくる。
「殿下は何を仰っているのですか? フェルナトウ導師はファニラ神殿での戦いで瀕死の重傷を負い、皇宮に辿り着いたものの『我が主』にお会いすることも叶わず亡くなられたと聞いています。そのような時間があったと思えませんが……」
フェルナトウが瀕死で辿り着いた……そういや、アレイラもそんな話をしていたっけ。
もし、そうならクレイは……。
「リデル、どうせ話したって無駄だよ。こいつが本当のこと言ってるとは限らないし、後で直接『邪神様』に聞けば全てわかることさ」
エクシィはオレの会話を中断させるとバルニグを睨みつけた。
「まずは、このイカれた野郎を何とかするのが先だろ」
「ふん、せっかく殿下とのお話合いのおかげで命拾いしていたというのに、愚かな娘ですね。仕方がありません、ゴミ虫は速やかに一匹残らず駆除しなければなりません」
そう言うと白頭巾から見えているバルニグの目が妖しく光り始めた。
「何、あれ?」
咄嗟に視線を外した。
ルマでイクスにされた金縛りを思い出したからだ。
あの時のことは、しばらくトラウマになるほど鮮明に覚えている。クレイやソフィアを失うかもしれなかった恐怖は今も忘れられない。
バルニグのあれは、それと似たようなものなのか?
「さすが、リデル。奴の異能が精神操作だって、よく気が付いたな。けど、奴のそれは直接、頭に作用してくるから、兄貴のみたいに目を見ないでどうにかなるもんじゃないんだ」
「な……それじゃ大ピンチじゃん」
「そうでもないんよ。その代わり、威力はかなり低い。精神力を鍛えていない一般人ならともかく、あたし達みたいな強者には通用しない代物なのさ」
鼻で笑うエクシィは余裕な様子だ。
「そうか、たくさんの信者達の命をどのように奪ったのかと疑問に思っていたけど、あの力で自刃させたのか。酷いことをする」
エクシィが苦々しい口調で吐き捨てた。
おそらく信者達だけでなく、皇宮の使用人達も奴に操られて命を落としたに違いない。
でも、待てよ。そうなると、まさか……。
背後を振り返ると、案の定シンシア、ネフィリカの目が虚ろになって立ち尽くしている。
ソフィアは辛うじて意識を保てているようだけど、その他の面々には効果が及んでいない。
「な、楽勝だろ。バルニグはゾルダート教の導師の中では、信仰心は断トツだけど異能は最弱って話だったからな」
そう言いながらもエクシィは笑みを消すとバルニグに向き直る。
「わかっただろう、バルニグ。あんたが主の命令を全うしたい気持ちは理解できるけど、
ここにいるのはあんたの手に負える連中じゃないんだ。大人しく降参するといい」
軽口は叩いているがエクシィは決してバルニグを侮っていないようだ。
バルニグの根拠のない自信満々の態度を警戒してるらしい。
「降参ですと、それこそ笑えない話ですね。あなたの方こそ、全くわかっていない。私が昔のままではないと言ったでしょう」
そう嘲笑ったバルニグの爛々と光る目がカッと眩しい閃光を放った。
一瞬、視界が真っ白になった後、次に耳がキーンとなり耳鳴りが続く。
頭の奥が痺れる感じがしたと思った時には、すでに身体が動かなくなっていた。
「あれ? 身体が動かないぞ」
オレと同様に動けなくなったエクシィが間抜けな声で呟く。
「おい、どういうことだよ。楽勝だったんじゃないのか」
「いや、そうだったんだけども、そうじゃないらしい」
何が、あたし達みたいな強者には効果がないだよ、しっかり効いてるじゃないか。
っていうか、やっぱり大ピンチだろ。
「くくっ、だから言ったではないですか。昔の私ではない、と……」
バルニグは笑いを押し殺しながら、ゆっくりと頭巾を外し素顔を曝け出した。
「バルニグ……あんた」
オレは思わず絶句する。
バルニグの顔は肉がそげ落ちて、ほとんど白骨化していた。どう見ても生者の姿とは言えなかった。
とうとう4月になってしまいました(>_<)
一向に終わる気配がありません。
作者の見込みが甘かったとしか言いようがありません。
ごめんなさいm(__)m
新作の第一候補はTSではありません。
友人からもTS以外書けるの?と心配されておりますが、チャレンジ精神は大切ですw
ちなみに第二候補はTSものですが(←弱腰)




