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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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さあ、一等賞はどの子かな?

 誰だろう?


 オレの目の前に金色の髪を風になびかせた女の人が立っていた。


 顔はよく見えないけど、年恰好からまだ少女といってもいい。

 身にまとった白いドレスがひらひらと風ではためく。

 オレとその少女は大きな城塞を見下ろせる丘にいるようだ。


 どこだろう?

 見覚えはあるのに思い出せない。

 彼女は両手を広げて、自分と城の大きさを見比べて驚いているようだった。その仕草に懐かしさを覚えた。


 ふと、オレが目を覚ましているのに気付くと、ゆっくりと近寄り、寝ているオレに手を差し伸べる。

 オレはその手をとって起き上がろうとして、初めて顔を見た。


 オレにそっくりだった…………いや、女になったオレにだ。







 はっと目を覚ますと、クレイの匂いがした。

 顔を少し上げて見ると、ベッド脇に座って寝ているクレイの顔がすぐそばにあった。


 「え、クレイ?」


 驚いてオレが身じろぎすると、すぐに目を覚ます。


「あ、起こしてごめん。オレ……」

「リデル、大丈夫か?」


 クレイはオレの言葉が終わらないうちに、起き上がろうとしていたオレの肩を抱いて、泣きそうな顔でオレに聞く。


 クレイもこんな表情かおするんだ。

 ちょっと可愛い……。

 あ、いや……なんてこと考えてるんだオレは。


 最近、クレイの知らない面ばかり目にして気が動転したのか?

 そんなことをぼんやり考えていると、心配げなクレイのまなざしを感じ、気を失う前の状況を思い出して飛び起きた。

 少しくらくらして、クレイに支えられるけど、食いつくような勢いでクレイに訊いた。


「あれから、どうなった、ソフィアは? お前の怪我は?イエナは?」

「まあ、落ち着け。今、順に話すから、とりあえず横になれ」


 オレは気が急いでいたが、渋々従うとベッドへ横になった。


「ここはどこなんだ?」


 見回すと、手入れは行き届いているけど、天井は低くベッド一つ入るのがやっとの狭い部屋だった。


「最初に集まったあの商家だ」

「じゃあ、ダノン邸から抜け出せたんだ?」

「ああ、あの爆発のせいで屋敷が無茶苦茶になったんでな」

「爆発……」


 光の爆発は夢じゃなかったんだ。


「みんな、怪我は?」

「それが不思議なことに、いろんな物が壊れたのに人には影響なかったんだ。いや、それどころか……」

「?」

「お前の心配しているソフィアは隣の部屋で眠っている」

「そうか……良かった」

「いや、良くない」

「えっ、容態が悪いのか?」

「そうじゃない、逆だ。お前から見て、ソフィアの受けた傷をどう思った」

「……助からないと思った」


 オレは正直に答えた。

 肩口から入った剣はおそらく肺にも達していたと思われる。


「その通りだ。今まで戦場で見てきて、あそこまで斬られて助かった者などいない」

「うん」

「だが、現実にソフィアは助かって……傷さえも無くなっている」

「え?」

「俺のもだ」


 そう言うとクレイは上着をめくって見せた。

 ホントだ、かすり傷ひとつない。


「さすがに死んだ者は駄目だったが、重傷の者も同じように治っている」


 聖なる奇跡……。


「ゾルゲンの剣は壊れ、イクスは消え失せた。あれはいったい何だ?」


 オレにわかるわけがない。


「オレにだってわからないよ。聖石の恩恵かなんかじゃないのか?」

「そうなのか……」


 お互い沈黙する。


 やがて思い出したようにクレイが言った。


「そうそう、イエナも救い出して別室で休んでもらっているから」

「そうか、良かった。これでラドベルクを安心させ……」


 ラドベルク?……大会は?

 跳ね起きるとクレイに叫んだ。


「クレイ! 試合は?」


 とたんに決まり悪そうな顔になる。


「もうすぐ正午だ。おそらく表彰式が直に始まるだろう」


 なんてことだ!


 決勝戦を欠場するなんて……。


 オレが呆然としていると、クレイが申し訳なさそうに経緯を説明してくれた。


「お前のおかげで、俺達の傷は癒えたんだが、当のお前は逆に死んだように眠り続けて……顔色も最悪で体温も下がり、いくら呼びかけても揺り動かしても、一向に目を覚ます気配もない。状況が状況だけに、このまま二度と目を開かないんじゃないかと真剣、焦ったぞ」


 ああ、それであの起き抜けの熱い抱擁になったのか。


「心配させて、悪かったな」


 泣きそうになるほど心配してくれたのが内心嬉しかったけど、口に出た言葉はそっけなかった。


「いや、いいんだ。それより決勝に出られなくて本当にすまなかった。お前には悪いが結果的にお前が来てくれて助かった。イクスがあそこまで化け物じみてるとは思わなかったからな」


 イクスはどうなったんだろう?

 死んだとは思えないから、また出会いそうな嫌な予感する。

 結構、当たるんだな、これが。


「そういや、ゾルゲンは?」

「たぶん、逃げたんだろう。悪運だけは強そうだからな」


 そうか……あの野郎、今度会ったらただじゃおかないぞ。

 そう思いながら、これからのことを考えた。


「けど、無差別級は大方の予想通り、ラドベルクの優勝になっちゃったな。さすがに決勝戦が不戦勝じゃ、八百長のしようがないもんね」


 オレは苦笑しながら言う。


「まぁ、イエナも助け出したし、ダノンが騒いでも、どうってことないし、一件落着ってとこかな」

「これから、どうする?」

「う~ん、そうだなぁ。宿舎からの無断退出は失格になるから、準優勝の賞品はもらえそうにないしね」


 オレが、どうしようかと悩んでいると、クレイが思い出したように言う。


「そうだ、お前の着替えをしていた時に、懐からこれが出てきたぞ」


 と例の包み紙を見せる。


 あ、ラドベルクに預かったあれだ……それより。


「お前また、オレの裸見ただろ?」


 冷たく睨み付けると、


「不可抗力だ、見たくて見たわけじゃ…………あるかも」

「クレイ!」


 オレがベッドからパンチを繰り出すと、クレイが避けようとしたため、手に持っていた包み紙に偶然当たった。


「あ」


 二人が同時に声を上げる。

 外側が破れて中身がひらりと床に落ちた。

 クレイが拾って読もうとしたので、オレは慌てて制止する。


「クレイ、読んじゃ駄目だ。それは、ラドベルクから預かった物で、ダノンに対する切り札だって……」


 オレの制止より早く、ちらっと読んだクレイの表情が真剣なものになる。

 もうひとつ落ちている手紙も拾い上げて読むと、クレイには珍しく焦った様子で、オレに手紙を押し付けようとする。


「何だよ、オレは約束したから本人の許可がないと読まないぞ」

「四の五の言わずに読め、読めばわかる」


 オレは拒否しようと顔を背けたけど、目の端に文章が入った。


 え?……オレはクレイから手紙をひったくると、目を通して青ざめた。

 顔を上げると、クレイが頷く。


「オレ、闘技場に行ってくる。お前は、イエナとソフィアを頼む」

「ああ、任せろ。それより大丈夫か?」


 起き上がってふらつくオレに手を差し伸べて心配そうに聞く。


「大丈夫だ。何とかなる」


 簡単に着替えると、念のため剣を掴むと部屋から飛び出した。


 オレは闘技場への道をひたすら走った。

 昨晩と違って、表通りだと意外に近い。


 やばっ……もうすぐ表彰式が始まっちまう!

 それまでにたどり着かないと……。


 道行く人がオレの勢いに驚いて振り向く。


「あれ、今のリデルじゃないか?」

「決勝を病欠したんじゃないのか?」

「なんだと!俺はあいつに賭けて大損したぞ」


 いろんな声を後ろに聞き流しながら、オレは先を急いだ。


 そうか……決勝は無効試合にならなかったのか。

 こりゃ、相当恨まれるな。

 下手したら袋叩きだ。


 そう思い直し、急いではいたけど、メインゲートは避けて大会関係者入り口に向かった。


「ごめん、通してくれる?」


 入り口の係の人に声をかけると、驚いたように反応する。


「リデルさん、体調はもういいんですか?」


 どうやら、失格ではなく体調不良による棄権となってるみたいだ。

 失格だと無効試合になるための苦肉の策か……。

 無効試合じゃなければ、賭けが成立するって、大会規約に書いてあったっけ。


 よし、それならいける。

 表彰式に出られる権利があるなら、当然、中へ入れる筈だ。


「表彰式、間に合う?」

「はい、まだ始まったばかりです」

「じゃ、通るよ」


 どうぞ、と開けてくれたので、そのまま走り出す。


 表彰式の会場は大会が開かれていたメイン闘技場だ。

 すれ違う大会関係者が何か言っているのが聞こえたけど、無視して会場へと向かう。

 息せき切って走ってきたオレは会場への重い扉の前で息を整えると、扉を開けた。


 明るい日差しで一瞬、眩暈がしたけど、中へ一歩進む。

 目を凝らすと、中央の特設ステージで、表彰式の真っ最中だった。

 ちょうど、レオン公子が優勝の記念品である金杯を授けようと、ラドベルクに近づくところだ。


「その式、ちょっと待った――――――!」


 オレが叫びながら突進すると、会場の関係者も観客も驚いて騒ぎ始める。

 何人かはオレを制止しようと歩み出た。


 リデル? レオンが怪訝そうな顔つきで、そう呟いたように遠目に見える。

 けど、その騒ぎに紛れてラドベルクが剣を構えるのをオレは見逃さなかった。


「ラドべル――ク!」


 オレは間に合わないと悟ると手に持ったテリオネシスの剣を思い切り投げる。剣は大きな弧を描き、レオンとラドベルクのちょうど中間の位置に突き刺さり、二人の動きを止めた。


 剣を見て二人が距離を置くのを見届けると、オレはゆっくりとステージへ向かう。レオンの周りに待機していた護衛兵が剣を構えて、オレを一斉に取り囲んだ。どこから見ても公子様を襲おうとした極悪人に見えるもんな。


 けど、オレは無言の威圧を発しながら前へ進む。

 護衛兵も取り囲んだ輪を崩さずに一緒に移動する。

 オレが何かすれば、とたんに剣先が殺到するだろう。


 緊迫した空気の中、ラドベルクの間近まで近づく。

 彼は険しい表情でオレを見下ろしていた。

 何故、邪魔をした?という苛立ちと非難の色が見てとれる。

 オレは見上げながら、安心させるように優しく言った。


「もういいんだ、ラドベルク。イエナは無事助けたから…………だから、もう終わったんだ……もう誰も死ななくていいんだ……」


 ラドベルクが無言でオレを見つめる。


 一瞬の静寂が訪れる。





 からん。


 武闘王に返り咲いた男は剣を取り落として天を仰いだ。



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