皇の臥所にて……⑦
何とか話がまとまり、戦闘も回避されたので、その場の雰囲気が少し和らいだ。
味方になったとはとても言い難いが、少なくともしばらくの間は敵では無くなり、張りつめていた緊迫感が薄まったのは精神的に嬉しい。
さっそくエクシィがオレと話したそうにうずうずしていたが、イーディスに鋭い視線で一瞥されて口を尖らせて我慢していた。
イーディスはそれを満足そうに認めてからアレイラに命ずる。
「現在、皇宮にいる『かの者』達の出処進退を決めねばならぬ。アレイラ、フェルナトウを呼んで来てはくれぬか?」
「フェルナトウ宰相補をですか?」
「そうだ、何か問題でもあるのか?」
アレイラの向ける訝し気な表情にイーディスも疑問符を浮かべる。
「いえ、陛下。フェルナトウ宰相補が、すでに亡くなられていることは陛下もご存じでは無いのですか?」
「フェルナトウが亡くなった……だと?」
え? あの化け物級の導師が亡くなったって?
「あの……ファニラ神殿での敗退で重傷を負い、皇宮で力尽きて亡くなったと聞いているのですが……」
イーディスやオレの驚きようを見て、アレイラも不思議そうな表情を浮かべる。
「てっきり、そのあたりはファニラ神殿におられた陛下の方がよくご存じだと思っていました。ちなみに後任はバルニグ導師が後を引き継いでいます」
「フェルナトウが死に、バルニグが……」
イーディスが腑に落ちない表情で、おうむ返しに繰り返す。
どうやら、本当にフェルナトウは死んでいるようだ。
オレ達にとっては有難い話だけど、俄かに信じられない。
ファニラ神殿から脱出するときも余裕綽々で瀕死どころか怪我一つ負っていないように見えたし、間違いなく奴は皇宮に戻ってきていると信じ込んでいた。
いったい、あの後に何が起きたんだ?
フェルナトウは、あそこにいたオレ達が総出で戦って逃げおおせた奴なのだ。断言していいが、生半可な者が止めを刺せる相手とは到底思えない。
「……そうか、やはりフェルナトウの奴、嘘を吐いていたのだ。おそらく、私に対する虚言が、お父様にバレて粛清されたに違いない」
一人納得するようにイーディスが呟いた。
アイル皇子がフェルナトウを?
果たして、そんなことがあるのだろうか?
そもそもの話、奴が話した内容は整合性が取れており信憑性も高いとオレは感じていた。
逆にイーディスがアイル皇子に騙されている公算の方が、かなり高いと思っている。
もちろん、イーディスとしては認めたくない内容なので、嘘と断じてフェルナトウの死をそこに結びつけたい気持ちはわからないでもない。
「何にせよ、手間が省けた。一番の難敵は彼奴だと思っていたからな。バルニグなら説得も可能であろう」
「まあ確かに。バルニグは導師の中でも一番席次が低いし、実力もたいしたことないからね」
彼のことを思い浮かべたエクシィもイーディスの言葉を肯定する。
「そうとわかれば、悠長にしている暇はない。奥へ進むことにしよう。途中でバルニグを呼びつけ話をすれば良かろう」
「ですが、バルニグ導師には黒鎧の騎士ヴァンダイン様が付いておられますが……」
「黒鎧の騎士ヴァンダイン? 誰だそれは?」
アレイラの返答にイーディスは眉根を寄せた。
黒鎧の騎士ヴァンダイン?
オレもイーディス同様に首を傾げているとヒューが感慨深げに言った。
「黒鎧の騎士ヴァンダインとは……懐かしい名ですね。彼の逸話はユーリス様からもよく聞きました。ですが、さすがにそれは偽名でしょうね」
「ヒュー、ヴァンダインって有名な人なの」
「ええ、一部では大変有名な騎士です。若輩者の私が言うのも烏滸がましいですが、彼も私と同じ『天隷の騎士』でしたから」
「ふむ、何故偽名と思うのだ、白銀の騎士。良ければ説明を願いたい」
件の人物に見当がつかないイーディスもヒューに説明を求めたので、ヒューは彼の来歴を語ってくれた。
それによると、黒鎧の騎士ヴァンダイン・ケルファギーはデュラント二世に仕えた天隷の騎士との話だ。ヒューの師匠のユーリス以前に活躍し、ユーリスが現役の頃はよく比較されていたらしい。その二つ名の通り、全身を黒鎧で包み、素顔を明らかにしない正体不明の人物だったようだ。
その正体については諸説あり、一説では帝室に連なる高貴な血筋とも外国の王家の出身とも噂され、継承問題を避けるため別名を名乗ったとされている。そして、デュラント二世が崩御した後、突然消息不明になってしまい、デュラント三世に暗殺された説やディストラル帝国に赴き前皇帝になったという説が実しやかに噂されているらしい。
とにかく、謎多き人物であるが、年齢的にもすでに亡くなっていて当然の人物とのことだ。
まあ、オレも不老不死らしいから、彼も『恩恵者』(聖石の恩恵を受けた者の総称)や稀人なら、未だ生きている可能性も否定できないけど。
「そう言えば、酷く聞き取りにくいしゃがれた声で話されていました」
その場に立ち会っていたシンシアも、そう証言する。
「過去に名を馳せた『天隷の騎士』か……」
イーディスは腕を組んで右手に顎を乗せ、考え込む素振りを見せる。
「なあ、白銀の騎士さん」
イーディスの隣にいるエクシィが、主の考え込む姿を他所に期待に目を輝かせながらヒューに聞いた。
「何でしょうか?」
天敵であるイクスに似たエクシィの質問に表情を固くしてヒューが答える。
「そいつって、あんたより強い?」
「さあ? 会ったことが無いのでわかりませんが、逸話からすると私より強いかもしれませんね。何しろ手強い魔物達と幾度も戦った伝承が残されていますから」
「なあ、イーディス。もし、そいつが出てきたら、あたしに任せてくれよ。必ず倒すからさ」
「何故、戦うのが前提なのだ。まだ、戦うと決まった訳では無い。楽しみにするな、馬鹿者」
「え~そんな強い奴なら戦ってみたいじゃん、あんたもそうだろ? リデル」
って、オレに同意を求めるな。
イーディスがオレとお前は同類かって目で見てるじゃないか。
ま、間違ってないかもだけど。
「とにかく、本物かどうかは定かでは無いし、敵対すれば排除するだけだ。何の問題もない」
イーディスはそう結論付けると、一同を見渡して言った。
「『奥』へと進むことにしよう。そして、お父様と対面してすべてを明確にする」
イーディスは決意を込めた目でオレを睨んだ。
望むところだ。
こちらも決着を付ける気、満々だから。
気が付けば2月も後半です。
年度末、完結は諦めましたw
今章が2月中、次章(最終章)が3月・4月。
エピローグ等、後日談で5月の連休……というスケジュールでしょうか。
すみません、構成が下手で(>_<)
これ以上長くならないように頑張ります!
(次回作も、そろそろ書き始めないと……)




