狂宴のあと……⑦
「そ、そのようなことには……」
オレが気楽を装って発言するとネヴィア聖神官は憤慨したように反論する。
「ならないよう私が絶対に阻止します。貴女様は帝国にとって無くてはならない人なのですから。それと、リデル殿下は自己評価が異様に低いかと存じます。もしも、貴女様とイーディス皇帝のどちらかを選べと言うなら、私は無条件で貴女様を推します」
「ありがとう、ネヴィア聖神官。でも、今のは最悪のシナリオを想定して言っただけだから、イーディスもそこまで馬鹿じゃなと思うよ」
実際、オレを支持する有力者は多かったりする。
教皇陣営のネヴィア聖神官、皇帝陣営のアーキス将軍、アリスリーゼのレイモンド代理統治官、カイロニア陣営のレオン公子など枚挙に暇がない。
これで、停戦交渉をまとめ上げれば更に声望は高まるだろう。
そんな中、公に出来ない存在の父親を殺したことでオレを追放なんかしたら、それこそ一気に反皇帝の機運が広がるに違いない。
賢い為政者なら、内心はともかく表面上は取り繕う筈だ。
それが出来ないなら、皇帝失格と言われても仕方が無い。
まあ、イーディスもわりと直情的なところがあるから、何とも言えないけど。
「私も聖神官猊下に同意いたします。優秀過ぎるのも問題なのです。イーディス皇帝陛下は統治者として有能ですが、何でもご自分で差配し部下に任せることをなさいません。また、完璧主義者なので、自分にも他人にも厳しい。今はまだ、他人の言葉に耳を貸していますが、将来について不安が残ります。それに比べ、リデル皇女はその……鷹揚ですから」
ん、最後がずいぶん、ふんわりしてるような。何か、全然褒められている気がしない。
「ですが、リデル殿下。貴女様が直接、手を下す必要があるのですか。ケルヴィン宰相と図れば、秘密裏に皇宮へと兵を差し向けることも可能でしょう。さすれば、貴女様が皇帝陛下の恨みを買うことなく、その黒幕とやらを倒せるのではありませんか?」
「ごめん、聖神官。クレイはオレ自身の手で救い出したいんだ。それに聖神官も見ただろう、ゾルダート教導師の化け物っぷりを。あれに正規兵を差し向けるのは言語道断というか現実的じゃない。連中にまともに対抗できるのって、オレぐらいだと思う」
「確かに、それはそうですが」
ファニラ神殿での惨劇を思い出したのかネヴィア聖神官は身震いした。
「聖神官猊下、リデル殿下に説得されてはいけません。よくお考えになってください。リデル殿下は勝つことだけを述べておいでですが、もし負けたらどうなります。邪神化したアイル皇子は健在、イーディス皇帝も傀儡のまま。帝国の命運が尽きると思いませんか?」
「むぅ……」
ケルヴィン宰相の正論に聖神官は黙り込む。
「リデル殿下……」
「あ、はい」
ネヴィア聖神官は神妙な顔付で言った。
「この件については、日を改めて再度話し合いましょう。それと殿下……お言葉が戻っています」
「……ごめん」
あ、気付くよね、やっぱり。
◇◆◇◆
「ようこそ、いらっしゃいました、アリシア皇女殿下。私がカイロニア公国軍副指令のオルベレスと申します」
「はじめまして、オルベレス将軍。私はアリシアと申します。本日は会談をお受けくださり有難く存じます」
「もったいなきお言葉です。本来はこちらから出向かなければならぬところ、お越しいただき本当にありがとうございます」
均整の取れた体格で大柄なオルベレス将軍は、戦う職業の人間にしては優しそうな目をしていた。
アーキス将軍やティオドルフ将軍もそうだったけど、カイロニア公国軍の上位武官は理知的な人物が多い気がする。
カイル公爵は武を重んじ強者を多く募っていたと聞いているが、脳筋ばかり集まらないのは何故だろう。
逆に知を重んじるライノニア公国軍の将軍の方が、グルラン将軍やパロール将軍をはじめ脳筋というか粗暴な人物が多いように感じる。
実に不思議な現象だ。
とにかく、ケルヴィン宰相との話し合いで皇帝陣営と歩調を合わせたオレ達はさっそく停戦交渉を始めた。
各軍の緊張度はとっくに限界を超え、糧食の点からも戦端を開くギリギリのラインであったことから、停戦交渉は一刻も争う事態だったのだ。
そこで最初に選ばれたのは、比較的アリシア(リデル)皇女よりと目されているカイロニア陣営だった。
かつてカイロニア公国軍を率いていたアーキス将軍はオレに甘々だったし、先日非業の死を遂げたティオドルフ将軍とも面識があったせいで、ライノニア陣営より与しやすいと判断されたのだ。
「会談の前に、まずお悔みを申し上げます。ティオドルフ将軍は素晴らしい武人でした。そして本当にご立派な最期でした。もうお会いできないと思うと残念でなりません」
オレは心から弔意を述べた。
ティオドルフ将軍にはルマの武闘大会の件では、とてもお世話になった。
特にラドベルクとの幻の決勝戦については感謝の言葉しかない。
アーキス将軍主導の企みだと思うけど、ティオドルフ将軍もかなり乗り気で便宜を図ってくれたように感じる。
案外、そういう茶目っ気もあったのかもしれない。今となって想像するしかないのだけれど。
でも、とにかくあの一戦が無ければ、今のラドベルクやイエナちゃんの状況は無かったに違いない。
そう思うと、ちょっと目頭が熱くなる。
「頭をお上げください、アリシア殿下。お気持ち、有難く存じます。ティオドルフ司令も、きっとお喜びになっているでしょう。失礼な申しようですが、貴女様は司令のお気に入りでしたから」
「えっ、そうなん……いえ、そうなのですか?」
「はい、アーキス閣下とよく皇女殿下のお話をされていましたよ、大変楽しそうに……」
「……そうですか」
「そして、私も貴女様に魅入られた一人です」
「え?」
オルベレス副指令の突然の言葉にオレが目を丸くすると、彼は頭をかきながら続けた。
「殿下は覚えていらっしゃらないと思いますが、私もあの場に……幻の決勝戦を間近で見ていたのです」
何ですと!
「当時から私はティオドルフ司令の副官を務めていまして……閣下から、自分は例の事件(公子暗殺未遂事件)の後始末で練兵場に行けないから、代わりに観戦してつぶさに報告せよ、との命を受けましてね。いや、眼福でした。武人としては、かけがえのない素晴らしい体験だったと言えます」
目をキラキラしながら語るオルベレス副指令は童心に返ったように見えた。
「えと……それでは停戦交渉、始めてもよろしいでしょうか?」
結論を述べれば、カイロニアとの停戦交渉は、これ以上ない出来で無事に終了した。
急に寒くなりましたね。
気が付けば10月も中旬です……あれ、もう今年も終わりに近くない?
だ、誰だ。今年中に終わるだなんて言った愚か者は……(一一")
だ、大丈夫です……次回で今章は終わる予定です(←たぶん)
あと、ヤフオクにすっかりハマっていて、今月の落札額の計に青くなってます(>_<)




