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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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再度のご案内をお知らせします!①

 屋敷に侵入すると、前方に二人の覆面男、クレイ、オレ、ソフィアと続き、後方に覆面男一人という並びで進むことになった。

 前方の二人が出会う相手を音もなく無力化させていく様子に、二人が只者でないことが見てとれる。

 皆の動きが洗練されていて、日頃よりそうした鍛錬を怠らない集団のように思えた。

 いったい、何者なんだろう?

 少なくとも普通に暮らす人々とは異なる者達に違いない。

 クレイ……お前の本当の正体って……。

 背を見つめながら、屋敷の奥へ進んだ。


 先行する二人の覆面男が、廊下の角を右に折れ、姿が見えなくなったとたん、鋭い斬り合いの音が聞こえ、二人が断末魔の声を上げ、こちらに転げ出る。二人とも一刀のもとで切り伏せられていた。

 オレ達が緊張した面持ちで身構えていると、切った相手はゆっくりと廊下の角から現れた。


 最初に見えたのは黒髑髏を模した剣の柄だった。

 確かエトックの話で、イエナを誘拐したのは柄の先が髑髏の形をした黒い剣を持った男だって言ってたよな。

 じゃ、こいつが……。


 その男はオレ達の前へ自信たっぷりにその姿を現した。

 手には血がしたたる黒髑髏の剣を携え、要所を板金で補強した皮鎧を身にまとった、頬に刀傷のある男……そいつを見て、オレは思わず声を上げそうになる。


「最近、この屋敷をこそこそと嗅ぎまわる奴らがいると聞いて、公邸へ行かず、ここに残って正解だったようだな。まさか、こんな所でまたお前に会えるとはな……なあ、クレイ」

「……俺も、ここでお前に会うとは思わなかったよ。だが、ダノンのような奴に与するなんて、確かにお前のやりそうなことだな…………ゾルゲン」


 ゾルゲン……オレとクレイが最初に所属していた庸兵団にいたあいつだ!

 奴の顔を睨みつけながら、かつての出来事を思い出す。


 クレイが入団した後、ゾルゲンの奴はオレに袖にされたことを恨んで、しばらく下らない嫌がらせを続けてきた。けど、公式の試合の場でクレイに完敗してからは、ずっとおとなしくしていたように見えた。

 でも、それが根深い恨みになって後で噴出することになるとは思いもよらなかった。


 思い出したくない記憶がよみがえる。

 今から3年前、オレ達のいた傭兵団は、ライノニアに与して叛乱を起こした地方貴族を討伐するカイロニア派遣軍の一員として戦いに参加した。叛乱軍はライノニア正規軍の援軍を加え、派遣軍と互角の戦力となっていた。

 先鋒を務めたオレ達の傭兵団は敵の前衛を圧倒し、戦いを有利に進める状況にあった。

 ところが、オレ達の隊の後続部隊だったゾルゲンの隊が、突然ライノニア側に寝返ってオレ達を後ろから攻撃してきたんだ。

 前と後ろから挟撃されて、オレ達の隊は全滅の危機に瀕した。


 それを驚異的な働きで救ったのはオレの親父だった。親父の活躍でオレやクレイを含めた数人が戦場から何とか脱出できた。

 今思い出しても、目を見張る戦いぶりだったけど、その時負った深手により、戦いの後で親父は亡くなった。


 結局、ゾルゲンと副団長達の裏切りにより、カイロニアの派遣軍は敗退し、その傭兵団は解散する憂き目となった。

 傭兵団が裏切ることは、確かに報酬や状況の折り合い等により起きないことはないけど、オレにはゾルゲンの他意が感じられて仕方なかった。

 直接手を下したわけではないけど、言ってみればゾルゲンの奴はオレの親父の仇と言ってもいい。


 オレが殺意のこもった目でゾルゲンを睨んでいると、奴もこちらに気付いた。いやらしい目でにやりとオレに笑いかけると、クレイを馬鹿にするような暴言を吐く。


「相変わらずだな、お前は? 敵地に乗り込もうというのに女連れとは……全くたいしたご身分だぜ」


 オレの後ろのソフィアにも気がつくと、さらに呆れた顔でクレイに向かって片手を挙げてみせる。


「両手に花か? 昔から女にだけは妙に人気があったからな。まぁ、お前に惚れる女なんざ、たかがしれてたがな。お前らも、クレイをぶち殺した後で俺様がたっぷり可愛がってやるから、楽しみにしてな」


 ふてぶてしく笑うゾルゲンは舌なめずりをしながらオレ達を見た。

 思わず鳥肌が立った。

 あんな奴に負ける気はしないけど、もしそんな目に合ったらと想像しただけで吐き気がしてくる。


「ゾルゲン、御託ごたくはいいから、この間のけりをつけようぜ」


 オレの気持ちを察して、クレイがあの戦いのことをほのめかす。


「は? 女の前だからって、いきがるなよ。すぐに地べたへ這いずりまわせてやるよ。それに、あの戦いのことを言っているなら、あれは当たり前の出来事さ。戦争じゃ、よくあることで、いちいち気にしてる奴の気がしれないぜ」


 オレは怒りで頭に血が上るのを感じた。

 ソフィアが後ろから押さえていてくれなければ,飛び出していたに違いない。

 クレイが無言でゾルゲンに向かって、歩を進めると、奴は後ろの扉を開け、部屋を指し示した。


「ついてこいよ。廊下じゃ、思う存分闘えないだろう? 」


 余裕たっぷりに言うと、部屋の中へと消えた。

 

 ゾルゲンの自信満々の態度が気になる。

 ここはダノンの屋敷だ。

 どんな罠や仕掛けがあるかわからない。

 クレイが慎重に部屋へ進むと、オレ達も後に続いた。

 

 そこは広いホールだった。

 楽団のおけるステージがあるところを見ると、舞踏会等を開くためのホールのようだ。


 ゾルゲンは部屋の中央に立ち、オレ達が入ってくるのを待っていた。いつの間にか二人の部下がゾルゲンの脇に控えている。


「ふん、何をノロノロしてる?臆病な奴だな。もっと大胆に動けよ」


 オレはカチンと来たけど、クレイは意に介さずゾルゲンに相対した。


「どうせお前たちの目的は、ラドベルクの娘だろ。クレイ、俺様と差しの勝負で勝ったら、どこにいるか教えてやってもいいぞ」


 別にお前を倒してから、勝手に探すつもりだと言いたいとこだけど、クレイは律儀に応対した。


「わかった。お前とは決着をつける必要があるようだ」


 クレイが剣を構えると、ゾルゲンは意味ありげに笑った。


「クレイ、俺様を昔のままだと思ったら、痛い目に合うぞ」


 黒い剣をゆっくりと構えると、部下たちに言う。


「お前らは手を出すなよ。こいつは俺様の獲物だからな」


 クレイもそれに応えるようにゾルゲンとの間合いをはかる。


 かつて、二人の技量の差は一目瞭然だった。

 あれから、ゾルゲンが飛躍的に腕を上げたとしても、今のクレイを上回るとは到底思えなかった。

 なのに、先ほどからのゾルゲンの余裕に違和感を覚えた。

 いや、違和感というか、不快感がする……何だろうこの感覚。


 ゾルゲンが構えた剣を振り下ろした時に、その元凶がわかった。

 あの黒い剣だ!


「まさか……魔剣ベラドリアス」


 ソフィアの悲鳴にも似た呟きが聞こえる。

 

 あれが……そうなのか?

 魔剣ベラドリアスは、呪われた魔法の剣だ。

 刀匠ベラドリアスの手による剣で現存するのはわずか3本と聞いた。

 所持者の能力を格段に上昇させる代わりに、所持者の精神を蝕み、悪しき心を植えつけると言われる魔剣だという。

 って言うか、元から悪しき心の持ち主じゃ、全然呪いになってない気が……。


 確かにゾルゲンの動きはかつての奴と比べると見違えるほど速いものだった。

 ク、クレイ、大丈夫か?


 黒いオーラを放つ剣で攻撃するゾルゲンに対し、剣での受け流しや身をかわす等、防戦一方となるクレイに固唾を呑んで見守った。

 思わず加勢に出ようとしたソフィアを押しとどめる。


「リデル様!」

「大丈夫だ、クレイを信じろ」

「ですが……」

「クレイは負けないよ」

「…………はい」


 オレの目を見て、ソフィアは大人しく引き下がった。


 そう、クレイはあんな奴には負けたりしない。

 オレは確信していた。

 現に何度攻撃しても手傷を負わせられないゾルゲンに次第に焦りの表情が見えてきた。

 それに比べ、防御に専念しているクレイにはそうした焦りの色は見えない。


「何故だ! 何故倒せない?」


 ゾルゲンが堪えきれず疑問を投げかける。

 防御に徹していたクレイが、いきなり鋭い突きを見せる。

 ゾルゲンはバランスを崩しながら大きく後退して間合いを取った。


「ゾルゲン……お前、その剣を手に入れてから剣の鍛錬を怠ったようだな。身体能力は上がっていても、剣の腕が昔に比べて落ちてるぞ……俺からすれば、昔のお前の方がずっと手強かった」

「な、何だと!」

「言葉の通りさ」


 そういうと一気に攻勢に転じる。

 今度はゾルゲンが防戦一方になる。


「な、何を見てる、お前達も加勢しろ!」


 見ていろと命令した部下達に理不尽な命令を告げると、三人がかりでクレイを攻め立てる。


「ソフィア!」

「はい!」


 オレ達もすぐさま闘いに加わる。


 ゾルゲンの間違いはオレ達を女と見て、侮ったことに尽きる。

 二人の部下にクレイの相手をさせると、オレ達の方へとゾルゲンは向かってきた。

 あわよくば人質に取り、逆転を狙うつもりだったようだ。

 けど、オレはもとよりソフィアもかなりの手練なことは、今までの立ち振る舞いからわかっていた。

 いかに魔剣で底上げしていても、オレ達二人がかりに敵う筈もない。


 すぐに己の不利を悟ると、外聞も気にせず逃げ出した。

 そして、奥の部屋に向かって大声で呼びかける。


「イクス! いるんなら手を貸してくれ。賊が侵入しているんだ」


 イクス! やっぱり、ここにいるのか?


 そう思った瞬間、後ろからくぐもった叫び声が聞こえた。

 振り返ると、後方の安全を確保していたクレイの部下が気を失って前のめりに倒れる姿が目に入った。

 その後ろからゆっくりとイクスが姿を見せる。


 防具らしい防具もつけず、平素な格好の彼は闘いの場に似つかわしくないほど、のんびりしていた。

 けど、準決勝で折れた筈の右手にはしっかりと剣が握られていた。

 魔法でもない限り、こんな短期間に治るとは思えない。


「だから、言ったじゃないですか。あなたの手に余る相手だって……それを強引に仕切るからこんな羽目に陥るんですよ」


 そうゾルゲンに話しかけながら、クスクス笑いを浮かべてイクスはオレへと向き直った。


「やあ、リデルさん、ごきげんよう。相変わらず美しいですね。ボクの申し出を受ける気になりましたか?」

「ば、馬鹿なこと言うな……」


 思い切り否定しようとすると、横槍が入った。


「リデルだと!」


 ゾルゲンが驚いた顔でオレを見つめる。


 やばっ……ここは白を切るしかない。


「あ、はい。私、リデルって言います。初めましてですよね……」


 なんてわざとらしく挨拶してる場合じゃない。

 イクスの登場で戦況はわからなくなった。

 奴の戦闘力が計り知れないからだ。


「おい、クレイ。この女は何者だ?いったい何を言ってる」


 って言うか、全然聞いてないし……。


「リデルによく似てるが、あいつに妹がいたのか?」


 そうそう、妹だよ……そう思えよ。


「いや、お前の言うリデルに妹なんていない」


 おい、クレイ! 否定するなよ。

 せっかく誤魔化せそうだったのに……。


「なに、それじゃあ…………」


 ぎくっ……ば、ばれた。













「…………他人の空似か、驚かすなよ」


 ゾルゲン……お前、絶対頭の中まで筋肉だろ……。


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